第30話

成分補給とでもいうのかもしれない。


カレンと触れ合ったわずかな時間は、俺の心をすっきりとさせていた。


情報の提供を受けて必要な資材を頭の中で整理する。


貴族のボンボンが狩場にしている場所は南にある森だそうだ。そこで鹿や猪系の魔物を狩っているらしい。


そのような魔物なら他のところにもいるだろうと思ったのだが、その森に生息しているのは少し特殊で大きく強固な毛皮を持っているとのことだった。


基本的に俺は魔物を狩ることが少ない。


素材は金になるのだが、やはりソロだと危険度が高いのだ。


貴族のボンボンは同行する魔法士たちに遠方からの集中砲火を指示し、弱った魔物に剣でトドメをさすのがお気に入りらしい。


それは狩りなのかと思ってしまうが、貴族の道楽とはそのようなものだといわれたらそうかもしれなかった。


「あの森を越えた草原には厄介な魔物がいるのよ。」


「グリフォンとかフェンリルとかか?」


「まさか。そんな厄災級のじゃないわ。マオルヴルフよ。」


「マオルヴルフ?辺境にはいなかったな。」


「あちらは岩石の多い荒野ばかりだから。」


「どんな魔物なんだ?」


「土中を掘り進んで他の生物を襲う肉食の魔物よ。あの貴族の狙いもそれだと思うわ。」


モグラ系の魔物ということか。


「強いのか?」


「地上に出ればそうでもないわ。ただ、地中からいきなり襲われると対処する間もなく殺られてしまう。」


「神出鬼没ということなのか?」


「グレイヴワームが好物だから、それを追って出てくることはあるわ。」


グレイヴワームというと頭が鋭角な巨大なミミズだ。大きいものなら全長二メートルはあるだろう。


「ひょとして、マオルヴルフも大きいのか?」


「1メートルくらいよ。ただ、集団で狩るの。」


なるほど。


それをうまく活用できるかもしれない。


「わかった。何か策を考えるよ。」


「気をつけて。貴族もそうだけど、マオルヴルフに遭遇したらソロだと危険だわ。」


「心得てる。」


そう言って話を切り上げ、部屋を出た。




冒険者ギルドの受付に行き、マオルヴルフの詳細について聞いてみる。


ギルドには過去の討伐事例や魔物ごとの特徴を記載した資料が蓄積されているのだ。


「ナオさん、まさかマオルヴルフを討伐に行くのですか?」


対応してくれたライラとジェミーが心配そうな顔で聞いてきた。ふたりの表情を見ると、カレンが言っていたように厄介な魔物らしい。


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