第29話

この都市は交易地として国にとっても重要な都市である。治世は領主が担っているが、治安を維持する衛兵は国から派遣されていた。


経済的に潤う都市の領主が、王家にとってよからぬ謀をしないよう監視と牽制の意味も兼ねているのだろう。


「貴族の息子の狩場を調べることは可能か?」


「どうする気?」


「後でややこしいことにならないよう処理する。」


「そう。いちおう、活動場所についてはギルドに報告されているわ。」


放蕩息子が狩りを行っている間は、そこに冒険者を近づかせないために従者などがギルドに周知しているのだろう。


「その場所を教えてくれ。」


「かまわないけど、あまり危ない真似はしないでね。」


「カレンや冒険者ギルドが睨まれないようにうまく立ち回るさ。」


「···相変わらずね。」


カレンが小さくため息を吐いた。


俺とて貴族に目をつけられたくはない。


私兵を投入して命を狙われたり、冒険者資格を剥奪されては命を失うか路頭に迷うしかないのだから。


「いちおう言っておくけど、あなたのことを心配しているのよ。」


「···ああ、ありがとう。」


カレンがそう言うのは久しぶりだったので少し面食らった。


親密な関係になってからはほとんど言われたことのない言葉である。それだけ相手が厄介ということか。


いや、少し拗ねた表情をしているのを見ると、純粋な好意からかもしれない。


最初の頃は「また無茶ばかりして」とよく怒られたものだが、俺の実力や手法を知る度にそう言われることは減った。


代わりにベッドで俺の古傷を労わるような仕草で撫でられることが増えた気もする。


前の世界では家族がおり、いまだに娘への愛情が薄れない。さらに特異な経緯でこちらに来たこともあり、恋慕と呼べるような甘いものは感じられない。


それでも、様々な面で良くしてくれる彼女には報いたいと思う。いや···悲しませたくないのが本音だろう。


若干21歳とはいえ、前の世界の同世代とは意を異にする。ギルドマスターとして激務やプレッシャーの中で日々を過ごし、すり減った精神を癒してあげなくてはならない。


俺にとっても彼女は必要な存在なのだから。


立ち上がり、彼女の傍による。


今できることは少ないが、好意には好意で返しておきたかった。


そっと彼女の髪をすくい、瞳を見つめる。


そこに拒絶がないのを確認してから唇を合わせた。


ただ触れ合うだけのキス。


少しの間だけ彼女を抱き寄せて、肌の温もりを感じてから話の続きをはじめた。



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