第6話
冒険者には強い自己責任が必要だ。
俺はこの世界の生まれではないため、こちらでは考え方が変わっているとよく言われる。しかし、だからこそ生き残れてこれたと自負していた。
宵越しの銭は持たないという江戸っ子気質の様な冒険者たちは、金を散財するように命も散らしていく。
「こんなはずじゃなかった」と死に際に泣く奴は多い。
しかし、それは自分自身の甘さゆえの当然の報いだといえた。
ギルドマスターであるカレンの紹介で定宿とする宿がすぐに決まった。
値段の割に設備も良く、各部屋にシャワーまで完備している。とはいっても水しか出ないため、疲れた体を解すには厳しい。
ここは前の世界でいうところの海外の一部地域に似ている。
貞操観念やお湯が出ないシャワーなどはその最たるものだろう。田舎に行くとシャワーどころかトイレまで共用の宿が多くなり、生水も腹を壊すため不用意には飲めない。
ただ、文化水準に関しては似ても似つかないというのが率直な感想である。
科学という概念がないため電化製品などは存在しない。王制の国が多く貴族が存在するのは中世ヨーロッパ的だといえるが、異常に発達した魔道具や魔法などが存在しているためどこか非現実的である。
俺は元の世界で死亡して転生したわけではなく、ある契約によって送りこまれた。
あまり元の世界に未練はないが、たまに娘は幸せに暮らしているだろうかと思うことはある。
人生とは様々な経験によって成り立つが、俺のそれは稀なケースで彩られた。
「こちらに来て7年、いやもう8年か···」
ベッドに横たわり、こちらに来ることになった経緯を反芻する。
俺は元の世界で事業に失敗して多額の借金を背負うことになった。
二十代で起業し、それなりに順調だったのだが何年にも渡る世界的な
残ったのは数億円の借金と未払いの税金である。
従業員だった者たちへの給与は優先的に支払った。さすがに彼らの人生や家族までをも不幸にすることはできなかったからだ。
返済に関してはあらゆる手段を講じたがそれほど簡単な話でもなく、破産手続きによって借金はなくなるも資産は一切残らない結末を迎えた。
さらに厳しかったのは、税金の未払いによる税務署の追い込みである。借金とは異なり、こちらは破産しても支払いは免れない。彼らは直接的な言葉は避けながらも、「どのような手段を使ってでも支払え」という主旨のものを投げてくる。
血も涙もないというのはこのことではないかと思った。借金しようにも破産者である俺にあてはなく、当時四十代に差し掛かった元事業主など好条件で雇用してくれる会社など皆無である。
「臓器でも売れと言うのか!」
そう罵声を浴びせたい気持ちを何とか抑えながらも、苦悩する日々が続いた。
そんなある日、突然見知らぬ男が訪ねてきたのだ。
「あなたの支払いを立て替えますよ。」
その男は甘言とも、怪しいとも思える言葉を吐きながら、俺の弱い部分を巧みに攻めてくる。
「このままだと娘さんの将来がろくなものになりませんよね?」
言い方にイラッとしたが、それは事実だった。
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