第30話 お誘い
「しかし、壮観だねえ。」
皮肉たっぷりにヘラが言う。
視線の先は未だ目覚めないディーナの姿があった。
「私ももっと血を注がれたらあんな風になってちまうのかねえ。」
「ん?ヘラは特に不穏な気配感じないからその予定はないかな。もっと奴隷を増やせと簡単に言うが、血を注ぐと疲れるんだよ。」
「まあ血を抜いてるんだからそりゃそうか。」
注ぐ血は俺の血でなければならない。ある意味当然だな。
「ああ、ということでアリシア。暫くは無理だぞ。」
「へう!?」
寝室の扉の影で立ち聞きをしていたアリシアを咎める。
「気づいていないと思っていたのか?昨日の夜もうろうろしていたな。」
「う、うるさいわよ。馬鹿!」
「はっはっは。モテモテだねえ。」
ヘラは相変わらず笑うばかりだった。
今日は「親睦会」だ。
いきなり奴が来た。そう、セルジュだ。
血を注いで奴隷にする人物リスト作成会議をしていたんだがな。
「邪魔するぜ友人。」
親友の手前でその使い方する奴居たんだ。
「なんだ共犯者?藪から棒に。」
相変わらずこいつのステルス機能はヤバい。
部屋の扉の前まで気づかなかった。
「いやあ、俺の配下がな。血の気が多いのよこれが。」
「そうか。自慢か?主君に似たんじゃないか?」
「おいおい、まあそう言うなよ。でだ。模擬戦をしようということになった。」
「俺は同意してないが?」
「わが友ならしてくれるだろうと思っていたから、このまますっ飛んできたわけだ。」
「はあ……。お前、強引って言われないか?」
「そうかな?よくイエスマンと言われるからそんな印象は無いが?」
「王からの無茶ぶりに全部イエスって言ったんだろ、どうせ。」
「で、君じゃ相手にならないのは彼らも重々承知だから、君の配下の戦闘訓練を見物する会にしよう。」
「え、俺は戦わないのか?」
「それは俺だけの特権だろ。」
「……敵だけの特権です。」
「きっも、て顔すんなよ。」
「するだろ。」
「まあお前のところの配下も活躍の機会が無かったんじゃないか?色々茶化したが俺の配下も前回の征討でなんの手柄も立てられなかったから戦いたいんだろ。それはお前のところもそうだろう?」
「え?うちの戦力ってそんなことあるかな?」
「え?武人なのに腕前を主君に見せたがらないのか?」
ヘラが助け舟を出してくれた。
「元冒険者だからね。腕は確かだが実力の秘匿癖は抜けないのさ。」
「うお!びっくりした。いきなり部屋に入らないでくれよ。」
「それはこっちのセリフですよ。私の監視網を突破してくるなんて、子爵のすることじゃないでしょう。正面玄関から入ってくださいよ。」
お前ら高度な模擬暗殺してくれるなよ。
「さておき、ご主人様も彼らの実力を見ていた方がいいでしょう。どの程度やれるのか、その目で見ておくことも主人の務めだよ。」
ヘラのやつ、敬語使えるんじゃねえか。俺にはタメだったのかよ。
今度制裁しよ。
「ああ、それは大事だぞ。留守を預けれるかどうかは特にな。」
「分かった。やろう。いつだ?」
「ああ、明日だ。」
「早いよ!」
いくら何でも早すぎる。
「いやいや、すぐに参集できない兵力なんざいくらあっても無駄だろうが。遠くにいてもすぐに来る。『いざ王都』、家来の基本じゃねえか。」
「いくらなんでも早いだろう。明後日、明後日にしよう。」
「ええ、こちとら宴の準備までしてるんだぜ?」
「前夜祭って便利な言葉があるだろうが。気付けに一杯やっとけ。」
「はあ、釣れないねえ。まあそういうところも大事だな。自分のペースを失わないことは特にな。」
「はいはい。分かったら帰りな。メンバーの選抜で忙しいんでな。」
「はいよ。人数は出せるだけでいいぞ。余ったらこっちの陣営同士で戦わせるからな。」
「ああ。まあいい機会だ礼を言う。ありがとう。」
「……。なあアサシン女、こいつ礼が言えるのか?」
「あっはっは。まあそりゃあ驚くよねえ。命令以上のことを実行したら言ってくれるねえ。」
「ふっ。おれももっとお前のことを知らねばなるまい。」
そう言ってセルジュは帰っていった。嵐のような奴だ。
「さて、せっかく名簿を作成していたのに、ぐちゃぐちゃだよ。」
「お、さっそく現有戦力の確認かい?」
「当たり前だ。それに書類管理はやはり厳重にしておかなければな。」
ヘラと話しながら髪を一枚燃やした。
それはこれから隷属させる予定の人物リストだ。
一番上の名前はセルジュ・アルデリアン。
「さて、ご友人の期待に沿えるといいんだけどねえ。」
「私も手伝うよ。公開してよい手札の多い奴と少ない奴がいるし、どこまで開示するかも向こうは見ているはずだ。」
「どこまで公開するんだ?というかすまん。お前の推薦で【闘園の誓い】を結ばせたから正直よくわからんのだ。」
「私も全部知ってるわけじゃないんだ。まあこればっかりは秘密の面談だね。」
「長い夜になりそうだ。」
「まだ昼だよ?」
「でもかかりそうだろ。」
「そんな気はしてる。」
「厄介な能力だな血の力。全部自分で賄うこともできるから、どこまで権限与えればいいのかマジでわからん。」
「まあ、王様だろうが領主様だろうがそんなもんさ。人を使うのはいつまでたっても大変さ。」
太陽は沈み、夜は更けていった。
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