第28話 友誼
「いやあ、いい一撃だったぜ?」
「六撃は打ち込んだが?」
奴は頭をしこたまぶつけているはずが、大してダメージを負っていない。
わずかに頬から血が流れてるだけだ。
「よし、決めた。お前、俺の友達になれ。」
「……え?」
「いや、既に友人だ。これだけ楽しく戦うことができたのは初めてだ。お前もそうだったんじゃないのか?」
「待て、お前は俺を討伐しに来たんじゃないのか?」
「そうだが?でももったいないだろう。お前を生け捕りにできるほど俺は強くないし、なんならこのまま戦えば負けてしまうかもしれない。その場合、俺の領民はどうなる?家臣は?だからもう戦わない。」
「は?勝手な奴だな。」
「おいおい、それはお互い様だろう。守る者がある物は弱いよなあ。」
「な?」
「ちょっと刃を交えれば分かるさ。お前、常に後ろの街を気にしてたもんな?まあだから俺は死ななかったし、お前は俺に勝ちきれなかったんだろうが。」
「勝手なことをべらべらと。それが遺言でいいのか?」
「いや、俺は生き残るよ。なぜなら君が殺さないからだ。いいかい、君は俺の友人だ。この領内において、君を討つことは俺が許さない。」
「なぜそこまでのことをする。家臣の顔を見てみろ。あまりいい顔はしていないようだが?」
「おっと、さては人を率いる経験が無いんだな。家臣の顔色なんて気にしたらダメだろ。見るのは血色だけで十分だ。」
「引くと言うなら深追いはしない。干渉してこないなら、攻撃する理由は無いしな。だが、友人とやらにはならん。」
「別にすぐに仲よしになれるなどと子供じみたことは言わないさ。そしてなによりそう遠くない未来に君は俺の友人になる。君を単なる暴の化身にしなかった軍師さんにそう伝えておくんだな。君より状況が良く見えているはずだ。」
そう言うとセルジュ・アルデリアンは自分の野戦陣地に撤退していった。
君のことは友人と言いふらしておくから、ちょっかいを掛けてくる者はいなくなるはずさ。
そう言い残して。
「ただいま。無事だったみたいだな。」
ラツァライの街に戻ったのは夜になってのことだった。
戦闘の痕跡はなく、俺をすり抜けて攻撃が来たということはなさそうだ。
「アル!大丈夫?怪我はない?」
「ぐふぅ!」
慌てて出てきたんだろうが、もう少し服をちゃんと着てきてほしかった。
ラツァライの門扉の前で、いつものようにアリシアに抱き着かれてしまった。
「ああ、大丈夫だ。ほら、マントでも羽織ってろ。」
「うん。」
いつもの一幕の後にディーナもやってきた。
「あれ?今日は一人も倒していないようですね。」
「ああ。敵将が一騎打ちに応じてきてな。引き分けた。」
「ほう。やはりセルジュ・アルデリアン子爵は血の力の使い手でしたか。」
「知っていたのか?」
「申し訳ありません。推測の域を出なかったのです。彼の戦功を考えるとありえなくはないものでした。」
「さては何か知っているな。今後の作戦もあるから、あとで相談な。」
「はい。」
さあ作戦会議だ。
「で、ディーナ。セルジュの意図が読めない。強さも人間離れしているし、武器も壊せなかった。奴は血の力を使っていると言っていたし、俺を友人と呼んで来た。不気味だ。」
「なるほど……。確かに不気味に映るでしょうねえ。ただ、私から見れば至極妥当と言うか、覚悟が決まっているように見えます。」
「というと?」
そこからのディーナの推測は以下のとおりだ。
・セルジュ・アルデリアンもまた血の力を使える。つまり教会による迫害対象になりうる。
・友人呼ばわりの目的は自領内における俺への手出し無用の表明と教会と王家からの離反。
・この事実が公になれば彼は、教会権力と世俗権力を敵に回すことになるということ。
「あいつも何か抱えてるということか?」
「はい。その疑いは私の中で確信に変わりつつあります。そもそも、私が騎士団を率いて彼の領地内に居たのは彼の監視のためでした。」
「何を監視していた?」
「血の力の使い手か否かを見極めるためです。」
「なあ、前から変だと思っていたんだが、血の力は王の力でもあるわけだろう?なぜ目の敵にするんだ?」
「そこについて話し始めると長くなるのですが、」
本当に長い話だった。
どうにか覚えられた話をまとめると、戦いの果てにこの国を平定した初代の王は血の力を使いすぎて暴走気味になったが、教会の聖女による祝福によって正気を取り戻すに至り、教会が正当と認めない血の力は悪とされるようになったらしい。
「あー、紆余曲折があって、ちょっと簡略化しすぎなのですが、まあそれでいいです。」
ディーナ的には不服らしい。でもしょうがないじゃん。
登場人物多いし、なんか複雑だし、様々な立場の思惑が入り混じってるんだもん。
「いや待てよ。ということは、俺も暴走する可能性があるのか?」
「無いです。少なくとも血の力の使い過ぎによる暴走は歴史上無いはずです。というのも教会と王家が結託して王家以外の血の力を排斥しつつ人体実験を行ってきましたから、それによるストレスの方が計り知れなかったかと。」
なるほどね。ここは血塗られた国だったわけか。
「分かった。まあお前が居るから、俺にはその心配はなさそうだな。」
「はい。このディーナ。命に代えてもご主人様をお守りします。」
目がガチだ。怖い。
「あー!アル、私もいるってこと忘れないでよね!」
そしてアリシアの声が大きくこだましたのだった。
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