mission 17 モウフノムキドッチダッケ


「ついたー!」


俺たち3人は3時間程で月に着くことができた。

宇宙船って偉大だね!


「ついたー!じゃねえ!3時間ずっとウノやろ?ってうるせえんだよお前は!」


「月の表面ってやっぱボコボコしてんのな。」


「無視してんじゃねえよ!」


「なあなあ!あのうさぎみたいなやつなんだ!?やっぱ月にはうさぎがいんのか?」


アラタの視界の先には耳の長い小さな生き物が群れを作っていた。


「ああ、あれか。あれはヤクチュウだ。うさぎの様な耳とサイズをしてるが生物学的にはネズミだそうだ。電気草と呼ばれる月面でしか採取できねえ麻薬の一種を好んで食べるらしいがその電気を体内に溜めて攻撃にも使用してくる厄介な生き物だな。」


「うん。だめじゃない?それ。」


「ヤ…ヤック!ヤクチュー!」


「おい!鳴き方!だめだろ!!」


「ばか!でけえ声出したら…!」


「え?」


俺の大声に反応してヤクチュウの群れが一斉に襲ってきた。


「ぬおおおおお!たすけてくれえええ!」


「ばっかみたい…。」


ヤクチュウから逃げ回る俺を、冷ややかな目で見ているだけで助けてくれないピリカに殺意が湧いたがそれどころではない。


「…めんどくせえなぁ。」


あれ?ねずみどもの動きが遅くなったような…?前にもこんなことが…あっ!豚と喧嘩した時だ。

こいつの能力なのか?


「ねずみはあんまし美味くねえんだけどな。」


「えっ!?あんたあれ食べる気!?」


「当たり前だろ!次いつ飯にありつけるかわかんねえんだぞ?」


「ありえない!きもっ!」


うん。流石にネズミはないかな。さすが豚は雑食だ。


「食わねえなら別にいいけどよ…!さあネズミども食事の時間だ!」


豚の言葉を理解しているのかは不明だがヤクチュウ達は一斉に標的を俺から豚へと変更した。

そしてそのまま襲いかかって行ったが豚はその場を全く動こうとはしない。


「おい!あぶねえぞ!」


俺の心配をよそにヤクチュウの大半が瞬殺…。あり得ない。まじでどういう能力なんだ?


「あー。お前には俺の力説明してなかったな。簡単に言うとデバフってやつだ。周りの身体能力を低下させられる。」


「デバフか…卑怯っぽくてお前にぴったりだ。」


「一言多いんだよ!俺に関わってる悪魔の名前は『怠惰のベルフェゴール』7つの大罪の1つだよ。」


「いいよそこまで説明しなくても。どうせ7つの大罪って俺らの隊のメンバー関連なんだろ?メタ的に。」


「メタ言うな!」


「ほんでピリカはなんの能力なんだ?」


「他人にそんなの教えるわけないじゃない。」


「いやこれから一緒に戦う訳だし知っておいたほうが…。」


「嫌だっていってんの!一緒に戦う?笑わせないで。私はあんたらの力なんて借りないし1人で戦うわ。」


はあ?何言ってんのこの女。協調性ってものをお母さんの子宮に忘れてきたんじゃないか?


「ハムニタマ…ソレイ?」


「うおっ!?」


急に女性が声をかけてきた。意味わからん事言ってる気がするがとんでもなく美人だ…。


「は、ハロー?」


「ばかか。通訳機使えよ。」


あ…。そうだった。異星人と会話をする時は通訳機を使わないと会話にならないんだった。

これでよしっと。


「あなた方は…誰なのですか?」


「俺たちは地球人です!カグヤってのを探しに月にきました!」


「おい…馬鹿正直にベラベラと話すなアホ。」


「カグヤ…それは私の名前ですが…。」


「えっ!?」


この可愛らしい女性が今回のターゲットかよ!?


「まじか!あなたは何故、地球に来たんですか?」


「地球…。ああ、それが聞きたかったのですね。立ち話もなんですしこちらへどうぞ。」


そう言われてついて行った先にはでっかい屋敷があった。本来地球からは潮汐固定によって月の裏側は見ることが出来ない。まさかこんなものがあったなんて。


「私が地球を訪れた訳ですね…。ただの興味本位ですよ。まだ幼かった私は月以外の場所に行ってみたいという好奇心から地球を訪れました。もしかしてそれがいけない事だったのでしょうか…?」


「…ああ。俺たちはお前を不法侵入の罪で探してた。」


「私ったらなんて事を…!」


「で、でも!悪気があったわけじゃないんだし見逃そうぜ!」


「だめだ。それを決めるのは隊長であって俺らじゃねえ。」


確かにカグヤに悪意があろうが無かろうがそれを判断するのは俺達じゃない。


「すみません。一緒についてきてもらえますか?」


「ふざけるな!姫を連れて行くだと?」


え?誰あのおっさん。頭めっちゃ長いけど…。


「ねえねえ、月ってあれが流行ってるのかな…?」


「知らねえよ…。」


「わしは月の大臣。コスタリスである。貴様たち姫を月から出すことは決して許さんぞ!」


「いや…事情を聞くだけなんで…。」


「貴様らの事情など知ったことか!護衛隊奴らを始末しろ!」


コスタリスの掛け声で数十名の護衛隊とやらがゾロゾロと屋敷から出てきた。もちろん武装状態で。


「俺は護衛隊長のカーラン。姫を攫おうとしてんのはお前らか?」


「攫うって訳じゃなくて…。」


俺がそう言った瞬間…槍のような物が俺の頬を掠めた。

ひぃいいい!!


「そっちがやる気ならこっちも力尽くで構わねえんだけどなぁ?」


いやいや…戦いは避けましょうよ。


「なんだ…?お前が俺の相手をするか?随分と肥えて…いや油で揚げたら美味そうな身体だな。」


ええ。こちらはトンカツです。


「なんだぁ?月じゃあ笑いのセンスも低レベルなのか?」


笑いというかお前が笑われてるだけじゃ…?


「よく喋る豚だな。」


「てめえこそお喋りさんかぁ?さっさと始めようぜ!」


月にも豚とかいるのかなぁ…?いやそんなことよりやばい戦いが始まっちまう。早く逃げなくては!


「おいおい…誰も逃さねえよ。」


「げっ!ばれた!」


「あんたねぇ…。」


「よそ見してる場合か!?喧嘩はもう始まってんだよ!」


ヒヅメはカーランに殴りかかるが間一髪のところで腕でそれを防いだ。


「な、なんだ?この男なんてパワー…いや違う!俺の力が弱まってるのか?」


「ほぉう。気がつくのが早いじゃねえか。まあ気が付いたところでお前は何にも出来やしねえよ!」


「さあ…それはどうだろうな。」


「なっ!?ぐぅえっ!」


殴りに突っ込んでいったヒヅメの勢いを利用してカーランは背負い投げをお見舞いした。自分が投げられるなんて想像していなかったヒヅメは受け身なんて取れるわけがなく思いっきり地面に叩きつけられた。


「ぶたぁ!!」


「…。」


「ふん。声も出ないようだな…。粋がってた割にはこんなものか?…次はお前だが今すぐこいつらを連れて立ち去るのであれば痛い目を見ることはないがどうする?」


「はいっ!帰ります!失礼しました!」


「えっ?ちょ!あんたほんとに最低ね!」


「そ、そうか。では今すぐ立ち去れ。」


「私は帰らないわよ。D程度で尻尾巻いて帰るなんてあり得ない。」


「やめておけ。この男で勝てなかった俺にお前が勝てるわけがない。」


「はぁ?なにそれ。私がそいつより弱いみたいじゃない。男女差別ってこと?あり得ないんですけど。」


「いや!まじでやめとけって!死ぬぞ!」


「黙ってくれない?あんたはさっさと逃げれば良いじゃない。腰抜け。」


ムキィー!!この女…人がせっかく心配してやったのにぃ!!そうですかそうですか。では俺は1人でも帰りますよっと。え?


「逃すわけがなかろう。」


だいじぃいいいいん!!


俺が宇宙船に乗り込もうと視線をそっちに向けると既にコスタリス達の手によって俺たちの宇宙船は破壊されていた。


「どうやってこんなの壊したんだよ!くそじじい!」


「ヤクチュウ達の電気を流してやったらすぐに壊れたわい。」


「だからヤクチュウ出すのやめろって!!」


くそっ…これじゃ帰れねえ。どうする…?ここはひとまず…!


「ピリカさん!あいつはやっちゃってくだせえよ!」


「あんた…。」


ピリカにこいつらを倒してもらってとりあえず安全確保だ!こいつはクソ女だけど自信ありそうだし多分強めの能力を持ってんだろ!


「はあ…。」


ピリカはため息をつきながら懐からナイフを取り出した。


「ん?能力使わねえの?」


「私は能力をつかえないの!」


「は?嘘だろ?そんなナイフ1本で勝てるわけ無いだろ?お前って馬鹿なの?ねえねえ?馬鹿なの?」


「その男の言う通りだ。そんなものでは俺には勝てない。」


頼みの綱が消えた。おわった。

トンカツあげるからゆるしてええええ!!

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