8 異世界崩壊編
episode.43 スイーツなご褒美がほしい!
「私、頑張ったよね?」
結衣はトオルに迫るような形で近寄った。エプロン姿、手にはおたま。キッチンでは美味しそうな料理の香り。
「いや、本当に感謝してます」
トオルはパチンと手を合わせて結衣に頭を下げる。結衣は学校に通いつつもマネージャーとしてトオルの身の回りの世話に加えてオファーがかかっている仕事についても専用のメールアドレスを取得したり、交渉したりと大活躍だったのだ。
「実は、私あまいもの大好きなんだよね?」
「おっ、じゃあ一緒に魔法使いの里に行きます?」
「あの不思議な色のカップケーキ、とっても美味しそうだったよねぇ。甘かった?」
「激甘、日本にはない甘さって感じだね」
「そうなんだ。昔パパの転勤でニューヨークに行った時に食べたカップケーキ……角砂糖より甘かったからそんな感じかな?」
「いや、そこまで甘くないよ。中にフルーツのジェリー? ジェルが入っててそれが甘酸っぱいから爽やかな感じかも?」
結衣はトオルの配信をスマホで見直しつつうっとりした視線を彼に向ける。大の甘いもの好きである結衣にとって「推し」が甘いものを食べているというのが多幸感以外の何者でもないのだ。
「そうだ。この前、話した魔女のユリーヌさんににゅーるの差し入れしないといけないんだった。一本持っていって、彼女が似通ったものを作って販売するって言ってたな」
***数日前***
ユリーヌの住む場所に、にゅーるを届けに行った時、トオルは彼女の変貌に大変驚いた。
表情は明るく希望に満ち溢れ、明日は何をしようかと何かにワクワクしているようなそんな感じでトオルを出迎えてくれた。
「私、この村ですごく歓迎してもらったの。魔女の経験も魔法使いの血も……素敵だねって。こんなの初めてで……だからこの村でできることをしようと決めたのよ」
彼女の部屋はまだ狭い小屋だったが、中には魔女らしい大釜や不思議な植物が並んでいる。彼女の話によればこの近くのハンターのために回復薬や解毒剤などを調合しているとのことだった。
「調合……?」
「えぇ、魔女という生き物は長い時間を生きる中で様々な植物と共生をしてきたの。こうして魔法薬を調合したり……一時的に特殊な魔法を使用できるになるものもあるわ」
といって彼女が見せてくれたのは小瓶に入った小さな炎だった。
「それは……? これは黒ドラゴンの種火のかけらよ。これを火スライムの喉汁と調合すると一時的に炎攻撃に耐性がついて口から豪炎を吹くことができるの」
「あ、あはは……」
彼女は楽しそうに自分が調合した薬を紹介してくれた。その奥では満足げに丸くなって寝ている不死猫がゆらりと尻尾を振っていた。
***
「へぇ〜、じゃあ噂のコグー串も食べたいかも?」
結衣は目を輝かせた。
「じゃあ、アルファ村でコグー串やらなんやらを食ったら、魔法使いの里でスイーツ巡りにしますか」
「うんっ。トオルくん、私楽しみだよ〜」
「じゃあ、早速行きます?」
結衣はエプロンを脱いで急いで玄関へ行くと靴を持って戻ってくる。そのまま、トオルの腕に掴まった。ケンシンはひょいっと結衣の腕の中に入り込み、トオルはそれを確認すると強く念じた。
「アルファ村へレッツゴー!」
出現した
着陸したのは土の上で、そこでトオルは違和感に気がついた。
活気付いた人々の声もしなければ、露店の良い香りもしない。見渡す限りの焼け野原と戦う竜人の戦士たち。真っ赤な空には黒い影のドラゴンが飛んでいた。
「は……?」
「危ない!」
黒い炎が目の前に迫り、何処かからの怒号と共にトオルたちは
黄金に輝く髪は膝につこうかというほど長く、ギリシャ神話の女神のような白い一枚布を体に巻きつけ、金色のリボンでところどころ結ばれているような不可思議な格好をした女性。
リボンは風もないのにふわふわと揺れ、
ただ、彼女の表情は険しい。
「トオルさん、大変な時に
かなり厄介な状態になっているらしいと彼女の声色で察したトオルたちは事情を聞くことにした。
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