第10死 椿姫
射撃が終わると、燐に連れられて廊下を歩く。
「どこに行くの?」
「さっき言ったろう。
姐さんに会わせてやろうと思ってな。」
「緊張するー……。」
「気さくな方なんでな。
緊張するよりはありのままでいた方がいい。」
「そ、そう……?」
扉の前に立つと燐が扉を叩く。
「姐さん、連を連れてきた。」
「入んな!」
扉を開けると、和室にお姉さんがこたつに入っていた。
「お、お邪魔します……。」
「あははは! なーに緊張してるんでぇ!
ほらこたつに入んな、ほれほれ。」
「はい。」
「そっちじゃねぇ、私の隣に来な。」
「そうですか?」
入り口近くに入ろうとしたが姐さんに誘われて
姐さんの隣に入ることにした。
「大きいこたつですね……。」
「そうか?
燐、冷蔵庫から飲み物を取って来てくれ。
何でもいい。」
「分かった。」
台所に向かう燐。
「で? 連つったか。」
「はい。」
「燐とどこまで行った?」
「ぶっは!」
「なんだよ、何もないのかい?」
「……燐から聞いてください。」
「あいつ、初心通り越して無知なんでねぇ。」
「可愛いじゃないですか。」
「……はーん。
あれを可愛いというか。
見る目あんねぇ。
燐をお前さん色のオンナにしてやんな。」
「ぶっは!」
「あっはははは!」
「姐さん、取ってきたぞ。」
「おぉ、座れ座れ!」
向かい側に燐が座る。
「燐。」
「ん?」
「連にアタシを紹介してくんな。」
「あ、すまん。
連、椿に姫と書いて
「あら、お綺麗な名前で。」
「あっははは! あんた面白いなぁ!」
バシバシ連の背中を叩く椿姫。
「いててて。」
「椿姫姐、連が壊れる。」
「じゃー、燐を壊すか。
連とどこまで行った?」
「ぶっは!」
「どこって射撃場なら行ったが。」
「……。」
「あれ? なんか違ったか?」
「燐、あんたさぁ。
年頃の女の子だろ。
どこまで行ったつったら恋愛事だろうが。」
「そうなのか?」
「そうだよ!」
「……言わなきゃ、ダメか?」
少し頬を染めて俯く燐。
「お。
あんたがそんな顔するなんてねぇ。
なんかあったんだ?」
「別にいいだろう。」
「何だ、抱かれたのかい?」
「ぶっは!」
「抱かれ……、へ?」
「あ、違うっぽいね。
あんた、女の子の日は来てるんだろう?
避妊はしなよ。」
「???」
「嘘だろあんた。」
「女の子の日?
いつでも女ではあるが……?」
「あっちゃー……。
連、あんたは意味わかるよな?」
「は、はい。」
「参ったねぇ。
燐、あんた14だろ。」
「大体そうだな。」
「来年来なかったらビョーインだね。」
「病院? 何の話をしている?」
「子供を産める体になる時期の話をしてるんだよ。」
「子供ってコウノトリが運んでくるんじゃないのか?」
「あんた……、いつの時代の話をしてるんだい?」
「私は捨て子だったんだろう?」
「そういう話をしてるんじゃあないんだよ。」
「???」
「見たところあんた胸も大きくなってないじゃないか。」
「……悪かったな。」
「そうじゃない。
そっちが育ってこないと来ないんだよ、準備が。
まぁ一回来て止まることもあるんでね。
思春期は不安定だから軽く考えてると大変だよ。」
「何を言っているのか全然わからん。」
「連に聞きな。」
「ちょっとー!?」
「あっははは! 冗談だよ。
しっかし、燐。
あんた相変わらずもの知らずだねー。」
「椿姫姐さん、燐は銃火器の知識は凄いですよ。」
「もう、連は燐を甘やかすんじゃないよ。
燐は自分の身体で自信のある場所はあるのかい?」
「顔?」
「いきなりとんでもないこと言うね、この子は。
ぶっこむじゃないかい……。」
「眉に目に鼻、口があるからな。」
「誰がパーツが揃ってるか否かの話をしたんだい。」
「4つ揃ってるが?」
「落ち物パズルじゃないんだよ。」
「ふふ……、ふふふ。」
「連も連で笑ってんじゃないよ。」
「すいません。」
「ふむ、まぁいいか。
しかし燐。」
「ん?」
「あんた、可愛くなったね。」
「そ、そうか?」
「堅物だったのがちょっと柔らかくなったね。
私は嬉しいよ。」
「ふむ、自覚がないんだが。」
「なーに言ってるんでさぁ。
あんたをずっと見てきたんだからね。」
「龍哉、さん?」
「親父の名前だぞ、連。」
「あれ?
親父さんと椿姫姐さんってご夫婦なんですか?」
「そうだよ?」
「お互いが好きなんでしょうね。
語る目が優しいです。」
「へ? あっははは!
嫌だよ恥ずかしいじゃないかい、この子ったら!」
バシバシと再び連の背中を叩く椿姫。
「いててて。」
「椿姫姐、連が壊れる。」
「燐、あんた連を逃がすんじゃないよ。」
「ん?」
「女を上手に褒めれる男は希少だよ。
加えて優しいじゃあないか。
こりゃ引く手あまただ、女がほっとかない。
うかうかしてると取られるよ、燐。」
「連の趣味は偏ってるから大丈夫だろう。」
「甘いね、燐。
そういう相手に乗っかる慢心が痛い目を見せるんだよ。」
「この胸で引き止まるようだが?」
「どっちにしても問題はないのかい?
ならないよりは大きくして連に揉ませりゃいいだろ。」
「何言ってるんですか……。」
「どうしたら大きくなるんだ?」
「さっきの話に戻るんだよ。
あんた、まだ少女のままじゃないか。
15までに胸は成長が決まっちゃうんだからね。」
「え? 手はあるのか?」
「あんまり遅かったら病院行きな、内診ないから。」
「ないしん?」
「自分で調べな。」
「絶対じゃないけど、
恥ずかしいことがないって言うか……。」
「???」
「あら、連は知ってるのかい。」
「気持ち悪いですよね。
すみません。」
「いいんだよ。
あんたは燐を思いやるんだねぇ。」
「そうですか?」
「燐。
ひょっとしてあんた、仕事上のストレスとかないかい?」
「無いんじゃないか?」
「体重も少なそうだし。
もっとよく食べないと来ないよ。」
「じゃあ姐さん、肉カレー作ってくれ。」
「うまいこと甘えるじゃないか。
ちょっと待ってな。」
「手伝います。」
「へ? 連、あんた料理するのかい?」
「しますよ?」
「こりゃ驚いたね。
燐、あんた体張ってでも連をつなぎ留めな。
こんな男なかなかいないよ。」
「体を張るって、どうしたらいいんだ?」
「何だい、女が体を張るって言ったら脱ぐしかないだろう。」
「そうなのか? 連は嬉しいのか、それで。」
「し、知らないっ。」
「恥ずかしがっているが。」
「初々しいじゃないか。
男が照れてるときは愛情があるんだよ。
これ以上付き合っても先がないと思うと男は離れるからね。
アタシはあんたが心配だよ。」
「そ、それはまずいな……。」
台所で椿姫とカレーを作っている連。
「はーっ! あんた包丁を使えるのかい!
若いのに大したもんだよ!」
「褒めないでください、照れますよ。」
「野菜とかも切れるのかい?」
「流石に飾り切りまではやりませんけども。」
「連、あんたバケモンかい。」
「あはは……。」
「連なら燐も野菜を食べるかねぇ。」
「あれ? 燐って野菜食べたことないって言ってましたよ?」
「物心つく前に食べさせたんだけど、酷く泣かれてね。
嫌われるのが怖くなっちゃってさ。」
「椿姫姐さんは優しいんですね。」
「そうでもないよー。
本当に優しかったら無理にでも食わした方がいい。」
「どちらが正しいとは言えないですけども、
どちらも行きつく先は”燐のため”、でしょう?」
「連、あんたいくつだっけ?」
「16ですけども……?」
その言葉を聞いた椿姫が連に頭を下げる。
「ちょ、ちょっと椿姫姐さん。
頭を上げてくださいよ。」
「燐を、頼む。」
「大丈夫ですよ。
僕、燐のことが大好きですから。」
「ダメだね。
連の年が近かったらアタシが惚れてたよ。
龍哉に爪の垢を煎じて飲ませてやりたいね。」
「な、仲良くされてください。」
「あはは、そりゃそうさ。」
出来たカレーを3人で食べている。
「うん? 何か入ってるな。」
「野菜だよ、燐が気にしてたから入れてみた。」
「おぉ、これが野菜か。」
もぎゅ。
「……不思議な味がする。
草の匂い?」
「ありゃ、よく茹でたんだけどなぁ。
青っぽさが残ってたかな、ごめんね。」
「あんた、謝るのかい……。
怒んないんだね、連は。」
「燐が可愛いですからね。」
「よくもまぁ、
こんな燐みたいなアンポンタンを好きになったねぇ……。」
「誰がアンポンタンだ。」
「燐、真面目に言ってんだよ。」
「ふむ。
で、どれが何の野菜なんだ?」
「橙色なのがニンジン。
黄色いのがジャガイモ。
透明なのがタマネギ、かな?」
「……好きだな、これ。」
もくもく食べている燐。
驚いている椿姫。
「あんた、野菜大丈夫なのかい?」
「別に? 平気だな。」
「連。」
「あ、すみません。」
「違う違う。
連、あんた私をお義母さんと呼びな。」
「……いいんですか?」
「うちの会が迷惑かけたからねぇ。」
「背負う必要までは……。」
「あっははは!
真面目だねぇ。
私が呼ばれたいだけだよ!
連、あんた私の息子になりな。」
「はいっ!」
「なんかまとまっているな。」
「燐、あんたは連に嫉妬させるんじゃないよ?」
「どうしてだ?」
「どうしてだって?
あんたいつからそんな魔性の女になったんだい。
いいかい?
嫉妬は男にさせるもんじゃねぇんだ。
感情を抱いている自分を嫌うからね。
結果自分を肯定したくて、女を切り離すのさ。
嫉妬させる女なんて先がないよ。
あんた、連が嫌いなのかい?」
「そんな……、ことは……。」
「連と違ってあんたははっきり言わないねぇ。
いっちょ前に照れてるのかい?」
「……むむ。」
「マサとあんまり絡むんじゃないよ。
アタシからマサには言っとくから。」
「ふ、ふむ。」
「あんたも連と同じ呼び方にするかい?」
「照れくさい。」
「あっははは!
そうだろうねぇ。
連、燐。
一日一回は顔見せな。
仕事がなけりゃ夕食には必ず。
あんた達を見てると幸せになるよ。」
「はいっ。」
「気さくな方だとは思っていたが、
連をここまで気にいるとはな……。」
その日は夕食を楽しく過ごした。
次の更新予定
2025年1月1日 00:00
甘い死をあなたに 大餅 おしるこ @Shun-Kisaragi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。甘い死をあなたにの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます