第14話 突き付けられる選択

帰路に着いたのは翌朝だった。

心配そうに出迎えたリリーナを抱き寄せた。


「遅くなって悪かった。…薬草の……代償の情報を探してきた」


ハオルドの胸に抱かれながらリリーナは静かに頷く。


「あの薬草は"サクリファイス"という名らしい。犠牲や生贄いけにえという意味だ。青い目が摘むと目が見えなくなり、不老が摘むと生きてきた齢の体になるらしい。…普通の人間が摘むと、薬効が消える上に即死だそうだ……」


リリーナへ嘘偽りのない情報を伝えたのは、牧師の先祖のように何も知らないリリーナが薬草を摘んでしまわないかという懸念と、どちらにせよ80年生きてきた自分はリリーナと過ごせる時間が後10年ほどしか残っていないと分かっていたからだ。

リリーナはそれを聞き、即答した。


「薬草は、私が摘む。いきなり80歳の老人になるよりマシだろう?」


「忘れたのか?俺は不老であって、不死ではない。齢は変わらないんだ。平均的な寿命と同じと考えれば不老のままでも生きられるのは後10年ほどだろう。この先何十年生きていくリリーナを失明させる訳にはいかない」


忘れていた訳ではなかったが、こんなにもはっきりとハオルドの寿命という現実を突き付けられ、リリーナはこれから話そうとしていた事を伝えるべきか迷っていた。

しかし、ハオルドも真実を伝えてくれたのだ。

リリーナは少しの沈黙の後、口を開いた。


「永遠の愛を誓ったんだ。死せる時も共にと。ハオルドがこの世を去ったら、私だけなら迷わず後を追うだろう。……私だけなら」


「ん…?何が言いたいんだ?」


「赤ん坊が出来たんだよ、私たちの」


「本当か?!こんなめでたいことがあるか!」


ハオルドは大喜びしたが、リリーナの顔は曇ったままだ。


「私もこの子も、ハオルドと共に生きられるのは後10年ほどなのか?」


ハオルドは挙げていた両手をゆっくりと下げ、リリーナを優しく抱き締めた。


「例えば俺たちの子供が10歳になる頃、父親は天に召され、母親は目が見えないともなってみろ。あまりに可哀想じゃないか。リリーナには子供の成長を見ていてほしい。俺の最期の時も、俺を見ていてくれないか?」


やっとの思いで芽が出た薬草。

愛する人との子供を身篭ったという、こんなにもめでたく待ち望んだ瞬間であるというのに、二人に突き付けられた現実はあまりに残酷なものであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る