第二話 フィットネスジム(出会い)


 あれから一カ月、Bのレストランは、産地偽装の他に、食中毒の隠ぺいなども発覚して廃業。Bは裁判で、悪質だとされて、執行猶予が付かない重い判決が出た。


 外交官Cは自国へ強制送還されたが、私の配信が引きがねとなって、外交問題になっている。


 そして、国から畜産農家への助成金が決まった……内閣官房が立案し、農林水産省が所轄だ。



「配信はバズったけど、危ない橋を渡ってしまった……」


 海外に置いている私の配信サーバーが、閉鎖の危機にあるのだ。配信者として私のリアルな個人情報がもれて公表されたのだ。


 もちろん、サーバー開設時に私が作った偽の個人情報であり、実害はない。

 犯人はバイヤーC……いや、外交官Cの可能性が高いが、なぜ私の偽の個人情報をつかめたのか、そこが分からない。



「ウォーミングアップはこれくらいか」


 私は、バーベルを受け台に置き、ベンチ台から上半身を起こす。

 濃紺色のレオタード姿だ。スクール水着だとヤユされるヤツだ。


 近くのイスに置いたタオルを取って汗を拭く。


「これは、誰かが私を売ったか」


 イスに置いてあったスマホを手に取る。

 偽の個人情報を知っているのはスポンサー……国の内閣官房の奴らだけだ。


 内閣官房と外交官Cとの何かしらの裏取引きか……なんにしても、私の情報を流すのは契約違反だ。



「さようなら、内閣官房のタヌキ親父」


 内閣官房のホームページに潜り込む。

 ちょうど、内閣官房長官が今回の外交官Cによる外交問題についてメッセージを配信するところだった。そのメッセージに特別な画像を添付してあげた。


「一人で動ける範囲は、意外と狭いものね」


 単身の限界を感じる。しばらくは、身を潜めた方が良いかもしれない。



 スマホをイスに置いて、筋トレを再開する。

 今日の種目はベンチプレスだ。胸のふくらみ、いや、厚みを増す種目だ。


 ここは会員制の女性用フィットネスジムだが、インストラクターがいない自由スペースで、マックス重量にチャレンジする。


 バーベルにウエイトを追加する。初めての重さに、緊張が高まる。

 上半身を倒し、バーベルを受け台から上げ、胸の近くに降ろす。重い……


 潰れそうだ……これが私の限界か、悔しい。


 目の上に、深みのある赤いレオタードの股間が覆いかぶさった。

 女性だ。私が男だったら憧れる景色だ。


 バーベルが少し動いた。彼女がサポートをしてくれたのだ。


「うぉ……!」気合一発、私の力だけでバーベルを上げる。


 赤いレオタードが、バーベルを受け台に戻してくれた。

 サポートがあるだけで、こんなにも違うのか。全力を出した爽快感が体を走った。


「はぁはぁ、ありがとうございました」


 まだ、息が苦しくてベンチ台から起き上がれないが、赤いレオタードの女性にお礼を言う。



「どういたしまして、貴女はアップルさんよね」


 マッスル女部長だった。私をハンドルネームで呼んだ……これは、マズい状況だ。


「直接会うのは2回目、話すのは初めてですよね」

 彼女は楽しそうに話す。


「たった今、内閣官房長官のメッセージに、彼のセクシー画像が添付されるイタズラが起きたの」


 犯人は私だ。逮捕にきたのか? それにしては早すぎる。


「イタズラの発信元は、このジムで、そこへ偶然に私がいたから、私の仕業だと疑われているのですが、どうしてくれます?」


 彼女は、私の瞳をのぞき込んだ。これは私が犯人だと確信している。


 ミスった。発信元にいたのは二人だけで、片方は彼女だから、残りの一人が犯人か……私のスマホを処分すれば、無罪を主張出来るかも……


 私のスマホは、イスの上に置いてあるが、彼女が脇に立っていて、下手に手を出せない状況だ。



「タヌキ親父のセクシー画像は、なかなか色っぽい偽造画像だったけど、内閣官房長官はカンカンに怒って、貴女とのスポンサー契約を打ち切ったそうよ」


 タヌキ親父には、契約違反があった場合は、セクシー画像をばらまくと言ってある。契約の打ち切りは、予想どおりだ。


 しかも、私との契約も、彼女にバレているのか。内閣官房の奴ら、ぶん殴ってやる。



「誤解しないで、私は貴女をスカウトに来たのよ。私は今月末で新しい部署に移るから、貴女に仕事を手伝ってほしいの」


 スカウト? 私は、やっと呼吸が整い、上半身を起こした。

 彼女は、私のスマホを手に取り、私に渡してきた。


「タヌキ親父より優遇するわ、連絡先を交換しましょ」


 私に選択肢など無い。拒否した途端に逮捕されるだろう。



「よろしくお願いします、フランソワーズさん」


 私は、彼女をハンドルネームで呼んだ。美人は、微笑むと、さらに美人になることを、私は目にした。


 彼女のスマホと、私のスマホを「乾杯」の所作で合わせ、連絡先を交換した。これで、契約が成立した。



 鬼が出るか蛇が出るか……でも、私の低い限界が、高く広がったようだ。


 彼女の後姿を見送る。

 お尻の筋肉が丸く仕上がっていて、女性から見てもセクシーだ。いいなぁ〜



―― FIN ――


【後書き】

あとがき

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令和の「のぞき屋」アップルはチート技術を駆使して犯罪者にざまぁする 甘い秋空 @Amai-Akisora

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