飼い犬げっと?
翌日はまた自宅でゆっくりと過ごし、さらに翌日、つまり今日は六層の攻略だ。もう攻略と言うのは他の探索者さんたちに失礼だと自分でも思う。
「はい、というわけで、二回目の草原エリアなわけだけど……。ここに出てくる魔物は、さすがに知らないよね?」
「うん……。ごめんね……」
「いや、クレハちゃんを責めるつもりはないから。悪いのは全てアスティだから」
「なんでですか!?」
お前が無茶な攻略していくからだよ。自重はもう諦めた。
「じゃあ、アスティ。責任とってはあとはよろしく」
「はーい!」
このハイテンションがむかつくんだよなあ……!
「この草原エリアは前回の草原エリアと大差ありません! 登場するものは狼系の魔物です!」
「あれ? 四層や五層と比べて難易度下がった?」
「出てくる魔物は量産型フェンリルと量産型ケルベロスです」
「なんて?」
『量産型www』
『なんでも量産型をつければ許されると思ってんのかおおん!?』
『ロボットじゃないんだから……』
相変わらず適当すぎるけど……。いやそれよりも。
振り返る。クレハちゃんとバーバラさんが顔を青くしていた。
「えっと……。大丈夫?」
「う、うん……。がんばる……」
「この世界の人なら仕方のない反応ですねえ。なにせフェンリルもケルベロスも、この世界では討伐報告がありませんから」
「ええ……」
そりゃクレハちゃんとバーバラさんもこんな反応になるよ。
でも、一応希望もある。それはアスティがわざわざ量産型とつけたこと。さすがに量産型が本物より強いとは思えないから、ある程度の弱体化はあるはずだ。
それを聞いてみると、アスティは笑顔でサムズアップした。
「正解です! さすがリオンさん! 量産型は本来の能力の二分の一です!」
「思ったほど弱体化されてないな……?」
てっきり十分の一とかそれぐらいだと思ってたのに!
『つまりあれですね、三体ぐらい出たらもう本物が出た時より厄介ってことですね』
『ちょっと開発さん? バランス調整失敗してるんじゃないんすか?』
『クソゲーかな? クソゲーだったわ』
「クソゲー言うな」
クソゲーの中にいる身にもなってほしい。明らかに難易度が上がりすぎで笑うしかない。
「まあまあ任せてくださいよ! アスティちゃんにどんとお任せ!」
「何度も言うけどそれはもう攻略じゃ……、いやまあ、いいか……」
むしろクソゲーのテストプレイをしなくてもいいと思ったら、もうこれでいい気がしてきた。六層でこれなら、多分七層以降もかなりやばいと思うから。
アスティの先導に従い、二回目の草原エリアを進んでいく。クレハちゃんとバーバラさんはかつてない以上に周囲を警戒していて、進みも少し遅めだ。それでもかなりアスティに合わせてると思う。本来ならもっともっと警戒して進むものだろうし。
けれど今のところは魔物と遭遇していない。なんだかちょっとしたピクニックみたいだ。気分上々だね。笑うしかないってやつだけど。
「これは、あれだね。ザコが強すぎるから、エンカウント率を調整とかとかそんな感じ」
「おお! さすがはリオンさん! 分かりますか!?」
「うん。分かる。リアルゲームでもたまにあるよね。現実だと控えめに言ってクソだけど」
比較的弱い魔物だけなら、警戒はもう少し緩くてもいいんだと思う。でも今は、ボクも少し怖い。オーガ以上、下手をすればジャイアントオーガよりも強いザコが出てくるのかもしれないのだから。
「クレハちゃんにバーバラさん。ちんたら歩いてたら終わりません。さくさく行きましょう」
あ、二人の額に青筋が浮かんだ。その、なんだ。ボクは何も悪くないはずだけど、ごめんなさい。
『この女神様、リオン以外にだと口が悪すぎない?』
『残念だったな、この女神はリオンに対してもちんたら歩くなって言ったことあるぞ!』
『つまりこの女神にとっては悪く言ったつもりはない……?』
そっちの方がたちが悪いと思うけどね。
クレハちゃんたちもちょっと馬鹿らしくなってきたのか、警戒は最小限に、アスティのあとをついていくのを優先するようになった。正直、アスティの側が一番安全だからというのもあると思う。
多分、ボクの予想通りだと、まともな戦闘はしないと思うから。
そうして、一時間ほど歩いて。それは出てきた。
一回りも二回りも大きな、黒い狼。ものすごく大きくて、あの大きな足で踏み潰されたらひとたまりもないと思う。こっちがフェンリルかな。
そしてもう一匹、三つ首の巨大な犬。ケルベロス、かな。こちらもフェンリルと大きさは大差ない。大型のトラックぐらいの大きさだ。
両方とも、威圧感が本当にすごい。フロストドラゴンやジャイアントオーガと対面した時よりもよほど怖い。クレハちゃんたちがあれだけ警戒していたのもよく分かる。
けれど。ああ、けれど。
「うーん……。ケルベロスはあまりかわいくないですね……。いりません」
アスティがそう言うと、剣を一振り。ケルベロスが頭から尻尾まで真っ直ぐに真っ二つになった。
『ぎゃー!』
『正直やると思ってました』
『さすがアスティ! そこに痺れないし憧れないしクソだと思う!』
「そこまで言いますか!?」
「むしろまだ言い足りないよ」
まあ、うん。ボクもやると思ってたけどね。
実はこの中で一番驚いてるのは、フェンリルだ。いきなり真っ二つになった仲間を二度見、三度身して、固まってしまった。そしてすぐにアスティへと平伏。強いものに従うのは自然の摂理ってやつだね。
「ふむ……。あなたはなかなか、かわいい……かもしれません。どれ、もふもふ具合はいかがです?」
アスティがフェンリルを撫でる。どうやら満足のいくもふもふだったらしく、アスティは頷いて言った。
「よろしい。あなたを連れて行きましょう。いいですか? この人たちは仲間です。そしてこの人は主人です。危害を加えたら、そうですね……。生まれたことを後悔するぐらいに痛めつけて苦しめて殺します」
「ヒェッ……」
なんかやばい脅し方してるよこの女神!
「聞いた!? ねえみんな聞いた!? 今時悪役ですら言わない脅し方したよこの邪神! いやもう邪神ですらもっとかわいげがあるのでは!?」
『聞いた聞いた。やばいこと言ってた』
『邪神より上とか……もう俺らには想像もできねえ』
『大邪神さま!』
そこまで言います? アスティがそんなことを言うだろうと思ってたんだけど……。予想と違って、アスティはフェンリルの側で何かをしていた。
何か、というか首輪をつけてる。犬かな? 犬か。
「これでよし。これでこの子はリオンさんの飼い犬です!」
飼い犬言うな。こんなでっかい飼い犬、面倒見れる気がしないよ。
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