温泉の代わりは三冊目
「文句はないけど限度はある」
「えー?」
火山エリアのボス部屋。ボスはジャイアントオーガ。文字通り、でっかいオーガだ。でっかいはずのオーガだ。
真っ二つになって半分になっちゃってるけど。すぷらった。
『たまに容赦なくなるよなこの女神』
『もうちょっとこう……手心をですね……』
「え、いります?」
「こわい」
いつかそれがこっちに向かないか、という恐怖はあるものなんだよ。それをもうちょっとアスティには知ってほしい。やっぱりボクたち人間にとって、神というのは未知で怖いものだから。
というのを実際に言ってみたら、アスティに首を傾げられた。なんでだ。
『恐怖を感じてる人間がする反応じゃないんだよな、リオンのは』
『リオンがそういう反応をしても許されてるから俺らも好き放題言えるんだけど』
『リオンちゃんの心臓には毛でも生えてるんですかね?』
「怒るぞ」
いくらなんでも言い過ぎだと思います。
とりあえず素材を回収、するわけだけど……。
「クレハちゃん、ジャイアントオーガの素材ってどれになるの?」
「んー……。角、かな……? 他はちょっと分からないよ」
「そっかあ……」
仕方ないかな。この世界の人たちは六層にはたどり着いていない、つまりこのボスは倒されたことがないってことだし。とりあえず角と魔石だけもらっていこう。
「アスティ。角が取れない」
「はい」
「…………」
『はい(スパッ)』
『剣で角の根元から斬っちゃうとか』
こういうのが怖い部分なんだと言いたい。
ともかく。素材は無事に回収。魔石はともかく、角はすごくかさばるからアスティに持ってもらうことになった。いやあ……。
「アイテムボックスは便利だね!」
「あの、リオンさん? 今、私のことを指してアイテムボックスって言いませんでした?」
「言ってないよ? 被害妄想はだめだよ、アスティ」
「そうですね!」
『この邪神は相変わらずリオンに対してはチョロい』
『チョロ神様?』
『変な言葉作んなw』
なんかちょっとかわいく聞こえてしまうのが不愉快だね!
いつものように階段を下りて、たどり着いたのは以前来たことがある草原エリア。エリアそのものは二層と似通ってるけど、出現する魔物は絶対にもっと強いんだと思う。
「ではリオンさん! 戻りますよ!」
「知ってた」
これはあれだ。雪原エリアの時と同じだ。絶対に余計なものを作ってる。
ボクのその予感はやはり的中していて、アスティに連れられたのは火山エリアの隅にある大きな山。その山にある、洞窟。とてもひんやりしていて気持ちがいい。
「ここだけすごく涼しい……」
「休憩にはもってこいの場所ね」
「ここまでたどり着く前にボス部屋も見つけますけどね!」
つまり普通の冒険者だと休憩エリアには気付かないってことだね。これがゲームだったらプレイヤーからものすごく怒られるやつだと思う。
いや、レベル上げに利用できるセーブポイントみたいな扱いになるかも?
「そしてここには、火山らしくこんなものを用意しました!」
アスティの案内で向かった先には、たくさんの温泉があった。広い部屋にいくつも穴があって、温泉が満たされてる。しかもどれも種類が違うみたいで、色も若干違ってたりもする。
広い部屋と言っても、温泉と温泉の間はそこまで離れてない。それなのに、種類は違う。どういう理屈だよと言いたい。
「温泉比べができますよ! 是非入って比べてください!」
「うん……。もう何も言うまい……」
やりたい放題は今に始まったことじゃないからね。仕方ない。
でもせっかくなので温泉に入ろう。幸い火山エリアなのに涼しい洞窟で暑くはないから、気持ち良く入れそうだし。
「もちろん配信は終わりだ!」
『そんな!?』
『ここまで来てそれはないぞリオン!』
「そんなあなたたちに、リオンさんの水着写真集を販売します。今回は水着ということで一冊二千円! いつもの場所からどうぞ!」
「なにやってんの!? 本当に何やってんの!?」
温泉の代わりとかでも言いたいのか! やっていいことと悪いことの区別をいい加減つけろクソ女神!
「ていうかいつの間に撮ったのさそんなもの!」
「リオンさんが無我の境地ってる間に」
「無我の境地ってるって変な動詞を……あれかあ!?」
クレハちゃんたちと買い物に行った時か! あの時に水着も着させられていたのか! ぜんっぜん覚えてない!
「ちなみにこの写真集はその時にリオンさんから許可を取りました。録音もばっちりです」
『やったぜ!』
『さすが女神様! 一生ついていきます!』
『この配信をおっかけていてよかった!』
「ぬああああ!」
もうやだこいつら! ちくしょう自業自得だけどボクのバカ!
そんなボクの叫びは涼しい洞窟でずっと響いていましたとさ。
ところでクレハちゃん、しれっと持ってるのは……。いえ、なんでもないです。
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