魔法のスクロールの使い道


 五層。火山エリア。スキーの遊びの後、ボクたちはそのエリアに立っていた。配信もすでに開始していて、いろんなコメントが流れてる。


『マジでいきなり五層から始まってて草なんだ』

『いやわりと笑えない状況では?』

『ついこの間、自衛隊で結成されたパーティがダンジョン都市に入ったところなのにな!』


「え、そうなの!?」


 なにそれ知らない。ボクが知らないところで地球の人も着実に攻略を進めてるらしい。いやまあ、ダンジョン都市にたどり着いたところということは、これからが本番ということなんだろうけど。

 あとでその辺りも調べてないと。情報に取り残されそう。


『ところで、なんかクレハちゃんたちがすごく緊張してるみたいなんだけど』

『お前なにしたの?』


「いや、ボクは何もしてないけど」


 振り返ると、クレハちゃんとバーバラさんは今までで一番真剣な表情で準備をしてる。服装は変わらないんだけど、クレハちゃんはポーチの数を増やして持てる道具の種類を多くしてる。バーバラさんも同じ感じ。

 何を入れてるのか聞いてみたら、魔法のスクロールだって言ってた。魔法のスクロール、ロマンだよね!


「あ、リオンちゃん。これ渡しておくね」

「え、なに?」

「治癒のスクロール。何かあったらすぐに使って。開けば発動するから」

 クレハちゃんに渡されたのは、紙をくるっと回して縛ったもの。これが治癒の魔法がこめられたスクロールで、これを開けばその魔法が発動するのだとか。とても便利。


『魔法の……スクロール!?』

『マジかよなんか異世界っぽい!』

『異世界だって言ってんだろうがw』


 いや、言いたい気持ちも分かるけどね。ボクもアスティから杖を渡されて魔法を使えるようになったけど、やっぱりそれは杖に頼ってるだけだし。

 ダンジョンに入った時点で魔力の使い方は頭に叩き込まれるらしいけど、だからってすぐに完璧に使いこなせるわけじゃないからね。魔法の道具はなんだが改めて異世界って感じだ。


「ありがとう、クレハちゃん」

「そんなものがなくても、私がリオンさんを危険にさらすわけないじゃないですか」

「いや、アスティ。今までの言動で信用できないから。なんならアスティのうっかりで何かありそうだから。信頼皆無だから」

「ええ……」


 ショックを受けるようなことかな。自覚ぐらいしてると思ってたよ。

 とりあえず、準備ができたところで出発だ。




「へい、アスティ」

「はい、リオンさん」

「何やってんのお前」

「殲滅です」

「なにそれ怖い」


 どうやら。やはりアスティはまともにボクに攻略させるつもりはないらしい。改めてそれを確信した。

 五層、この火山エリアに来て、アスティの過保護が増した。増したというか、なんというか……。クレハちゃんから聞いたようにオーガが出てくるんだけど、いつも一匹だけ残してアスティが殲滅してる。ボクたちはその一匹を倒せばいいだけ。

 クレハちゃんたちにとってもオーガは強敵らしいけど、さすがに一匹だけ相手ならどうにかなる程度らしい。


「安心安全の異世界ダンジョン旅行です!」

「いや、ボクはダンジョン攻略配信をしたいって言ったような気がするんだけど……」


 ダンジョンをただ見て回るのはちょっと違うと思うんだけどね?

 でもアスティはこの方針を変えることはないみたい。意気揚々とオーガを虐殺してる。なにこの女神、実はストレスでもたまってたの?


「ストレス発散……?」

「違いますよ!?」


 信用できるかこの状況。

 さすがにクレハちゃんたちも何とも言えない表情だ。覚悟を決めて挑んだ攻略がこれだと、肩すかしもいいところだと思う。


「本音を言ってもいいですか、リオンさん」

「本能のままに動いていたアスティに本音なんてあったの?」

「本能と本音はまた違うんですよ?」

「アスティがまともなことを言ってる……!?」


 なんだこいつ本当にアスティか!? いつも暴走一直線のくせに!

 そう言おうと思ったけど、さすがに自重しておいた。一応真面目な話をしたいらしいから。


「実はですね、リオンさん」

「うん」

「もっと遊べる場所をたくさん作ったんですよ」

「…………。うん」


『なんか真面目な話が始まると思ってたのに』

『風向きが変わったな』


 ボクもそう思う。


「ただ、そのですね。冒険者もたくさんいますし、下層に配置したんですよね」

「うん」

「早く行って遊びたいのでちんたら行きたくないです」


 うん。よし。なるほど。


「クレハちゃん、いい感じのスクロールをもらってもいい?」

「はい」


 クレハちゃんにお願いすると、すぐにいい感じのスクロールを渡してくれました。なんか、持ってるだけでこう、魔力を感じられるすごいスクロールです。これはすごい。たぶん。


「リオンさん? クレハちゃん? なんですかそのあうんの呼吸。ちょっと羨ましい……いえ待ってください、どうして私に向けてスクロールを開こうと」

「てんちゅう」

「わああああ!?」


 ボクがスクロールを開くと、アスティにでっかい雷が落ちました。いやこれ、本当に結構いいスクロールだったのでは……?


「クレハちゃん?」

「女神様ならこれぐらいやるべきかなって」

「ボクが言うのもなんだけど、遠慮がなくなってきたね」


『唯一の良心のクレハちゃんにすらこの扱いをされる女神様』

『どんどん扱いが雑になりそう』

『それを楽しんでそうだけどな、あの邪神』


 それはボクもなんとなくそう思う。

 そうして、土煙が晴れていって。そこにいたのは、アフロになった女神様でした。


「…………」

「…………」

「さて行こうか!」

「無視ですか!?」


『あまりにもわざとらしすぎて』

『もうちょっとこう、自然にですね』

『つまり自然な反応は死ぬべき』


「ひどくないですか!?」


 ひどいのはどっちだと言いたい。

 でもとりあえず、アスティの方針は分かった。まあ、うん。拒否もできないし、好きなようにやらせておこう。攻略が早くなることに文句はないからね。

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