おとまり!


 スキーで良い汗をかいた後は、温泉だ。スキーが終わったらさっさと帰るつもりでいたんだけど、今日はログハウスで泊まることになるみたい。

 ちなみにボクの家族の許可はいつの間にか取っていたらしい。

 言えよ、と言いたい。アスティが言わないのは仕方ないとして、どうしてボクの家族は何も言ってくれないんだ。その方がおもしろそうだから、とか言われそうで聞きたくないけど。

 さすがにアスティも寝てる間には何もしてこないはず。そう信じよう。してこない……よね?


 ともかく、温泉だ。ここから先はプライベートということで、配信は止めさせてもらった。変態どもがうるさかったけど、無視でいいと思う。

 体を洗って、さっと入浴。一応は女しかいないことになってるけど、みんなにはタオルを巻いてもらった。ボクの性自認は男なので。男だってば。

 …………。あれ? それはそれで、問題では? 気付かなかったことにしておこう。


「ふいー……」


 温泉って、どうしてこんなに気持ちいいんだろうね……。お風呂よりも謎の満足感がある。とても、不思議。


「気持ちいいねー……」

「クレハちゃんは、あっちでは入らなかったの?」

「ダンジョンにあるのは五階層だから……」

「ああ……」


 あの灼熱の火山エリアに温泉があるわけだね。魔物もいるから、とかそれ以前に、魔物がいなくても入るのには躊躇しそうだ。暑すぎるから。


「これもリオンちゃんと仲良くなった役得ねー……」

「そう言われるのは複雑だなー……」

「冗談よー……」

「知ってるー……」


 この二人は、本気でそんなことを言うことはないと信じてるから。もし本気だったら、ボクの人を見る目がなかったというだけだし。

 まあ今はとりあえず、難しいことは考えずにじっくり温泉を堪能しよう。


「うふふふふ……」


 ちょっと遠くで覗いてる女神は無視ということで。


「マイナファイア!」

「ぐえー!」


 無視ということで!


「いいのかなあ……?」


 いいんだよ!




 温泉の後は、晩ご飯。晩ご飯はクレハちゃんとバーバラさんが作ってくれることになった。二人が旅をしている間によく作っていたものらしい。お手軽で、なおかつそれなりに美味しいんだとか。


「調味料とか何もなかったからそれなりの味になっていただけで、調味料があればすごく美味しくなるはずだから……!」

「うん。楽しみにしてる」

「う……。リオンちゃんの視線が痛い……」


 なんで?

 作り方はとても単純。クレハちゃんの世界で取れる、火に強い木の葉でお肉を巻いて焼くだけ。焼く前に調味料をどばどばかけていた。ちょっと不安になったのは内緒だ。

 地球にも似たような料理があった気がする。もちろん細かいところは違うだろうけど。

 そうして焼き上がった……蒸し上がった、かな? そのお肉を切り分けて、テーブルに並べて。あとは家から持ってきたパックご飯をそれぞれ温めて、完成だ。

 それでは、実食。


「おお……。香辛料がしっかりときいていて、美味しい。お肉も柔らかいね」

「そう? よかった!」

「さすがは雪山でとれるウサギね」

「まって?」


 雪山でとれるウサギってなんだよ。

 詳しく聞いてみると、雪原エリアに出てくる魔物らしい。戦闘能力がほとんどない魔物だから気にも留められていないだけで、こうした他の魔物もいることはいるんだとか。

 しかも味は悪くないから、探索中のご飯としてよく狩られるとのこと。悲しいいきものすぎる。


「もぐもぐ……。これならピザの方が美味しいですよ」

「お前は黙れアスティ」


 ボクと同じで何も手伝わなかったやつが言えるセリフじゃないんだよ。この場所を用意した、とか言われたら何も言えなくなるけど。

 でもお昼の残りのピザを出してくれたので良しとします。ピザ大好き。




 晩ご飯のあとは、くつろぎの時間。一階でトランプやボードゲームを遊ぶ。パソコンがないから、いつもよりこの時間が長くなってる。

 正直パソコンがないのはとても退屈だけど……。

 目の前のクレハちゃんは、手持ちのカードを見つめながらもちょっと機嫌が良さそう。ほんのりと笑ってる。そんなクレハちゃんを見れただけでも、十分すぎるかもしれない。


「まあ、たまにはこういうのも悪くないよね」


 それに、この後は個人の部屋で休めることになってる。日本だと、どうしても部屋がないからみんなボクの部屋で寝ていた。

 警戒とかはされてなかったと思うけど……。それでもやっぱり、ゆっくり休むのは難しかったと思う。仲良くなれたとは思うけど、それでも赤の他人だから。そんな人の部屋で寝るのは、ちょっと気が休まらなかったんじゃないかな。


「今日はゆっくり休んでね、クレハちゃん」

「え、どうしたの急に?」

「なんでもないよ」


 一応、言っておきたかっただけだから。

 クレハちゃんは不思議そうにしていたけど、少しして薄く微笑んだ。


「いつも、ゆっくり休んでるよ。リオンちゃんの側は安心できるから」

「あはは……」


 うん。その、なんだ。とても嬉しかったです。

 遊んだ後は、部屋で就寝。あとは、それだけ。それだけのはずだった。


「さあさあ、どうぞリオンさん!」


 温泉の後からおとなしかったと思ったら、ここで来やがった……!


「何やってるのアスティ」

「うっふーん、あっはーん」

「あ?」

「あ、マジトーンですねキレてますねごめんなさい悪ふざけがすぎました」


 いそいそと出てくるクソ女神様。こいつはもうちょっと自重を覚えてほしい。もちろん無理なのは分かってるけど。


「それじゃあ、リオンさん」

「うん」

「明日はそのまま五層に行きましょうおやすみなさい!」

「え、ちょ」


 気付けばアスティは消えていて。部屋のドアはきっちりと施錠されていた。

 あのバカ、何を勝手に決めてるのか。いや分かってる。それがアスティだから。

 気にしても仕方ないから、ボクも寝る。おやすみなさい。

 部屋の施錠? どうせ閉めても変わらないからどうでもいいよ。

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