第16話 強くて優しい
アランはトレーニングして汗がダラダラだった。
セルティスにやり過ぎてもダメと言われた。
そのため、短時間で質の良いトレーニングをした。
そして、必ずリラックスさせて行っている。
(脱力して投げる瞬間だけ力を入れる。同時に息を吐く。脱力するということはリラックスに繋がる)
手裏剣を木に投げつけた。静かな音がする。
「おぉ!!」
アランは五感を使った投げ方の感覚がなんとなくわかってきた。
脱力してトレーニングをすると、脂肪燃焼が激しいように感じる。
脱力してトレーニングするだけでこんなに違うとは。
アランはトレーニングを終えて、シャワーを浴びる。
この時も常にやろうとしているのは、脱力。
筋肉や脳、身体がトロトロ溶けているようなイメージをして脱力。
シャワーを浴びて戻ってくると、ホークがのんびりと酒を飲んでいる。
アランは呆れてた。
「ホークさ、セルティスに怒られるぞ」
ホークは既に酔っている。
「あぁ……んん……?」
寝言なのか独り事なのかわからない。
そんなことを呟いて、うたた寝している。
セルティスは相変わらず、おひとり様時間を堪能している。
おひとり様が好きなようだ。
アランはそんなセルティスを見て、なんとなくだが、寂しい背中だなと思った。
「なぁ、セルティス」
アランが声をかけた。
「どうした?」
セルティスは優しい声だった。アランはその優しい声に、心が癒されるような感覚になった。
「……あっ……いや、その……」
聞きたいことがあったが、言えなくなってしまう。アランはゆっくりと呼吸をしてから、質問する。
「あのさ、なんで、セルティスは剣士になったんだ?」
セルティスは少し考えた。
「そうだな……強くなりたかったから……かな」
優しく答えていたが、やはり、どこか寂しさを感じさせる。
アランは、なんとなく強くなりたいと思った理由がわかった気がする。
「もしかして、四天王に大事な人を……」
アランは聞いた。
セルティスは一息ついてから言った。
「まぁ……そんなところかな」
「……寂しくないのか……?」
アランは余計なこと聞いたかなと思ったが、つい、気になってしまった。
セルティスは目を丸くした。
「どうしてそんなことをきく?」
アランは言いづらそうだった。
「えっと……寂しそうだなぁと思ってさ」
セルティスはフッと笑った。
「寂しいか……まぁ、確かに大事な人を失くして、その気持ちもないわけじゃない。だけど……その気持ちはアランもだろ?」
「えっ?」
アランはキョトンとした。セルティスは優しい声で言った。
「だから強くなりたいって思ったんだろ?それに……」
一回、ここで話を切った。
アランは頭に疑問符を浮かべた。
「それに……?」
セルティスの声は穏やかだった。
「あたしやアランだけじゃない。詳しいことはわからない。でも、ホークもきっと寂しいんだよ」
アランは驚愕した。
失礼だが、ホークが寂しい気持ちには見えない。
「セルティスは、それを分かっていて、ホークが悪戯しても優しく接してるのか?」
セルティスは苦笑いした。
「いや、それは違う。でも、本当に強い人っていうのは、優しさもあって……人間力のある人だと思うぞ」
アランは再び、頭に疑問符を浮かべた。
「人間力?」
セルティスは頷いた。
「昔、あたしの仲間が言っていた。本当に強い人っていうのは、ちゃんと人のことを想うことができて、優しくて、自分のことも人のことも認められるだって。弱いところも含めて」
アランはニッと笑った。
「そっか、セルティスの大事な人が言ってたことをしようとしているんだな」
セルティスはアランを見た。
「ん?」
アランは、はっきりとした口調で言う。
「俺、セルティスを尊敬するよ。強くて優しくて凛としていて。俺もそんな人間になりたい」
セルティスは困惑した。
「……それはどうも」
その時だった。
酔ったホークがいきなり、ガバっと立ち上がった。
「……俺がおまえを守るっ……!!」
そう言って、セルティスに歩み寄ってくる。
セルティスは、フラフラで倒れてくるホークの身体を支えた。
「……」
仕方なくホークを、すぐそばにあったソファにホークを寝かせ、毛布を掛けてやる。
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