第5話 盗賊と女海賊5

「セイラが回復したら、セイラの仲間を殺した奴を俺も一緒に探すよ」


 ジャックの言葉に、セイラはキョトンとする。


「はい?」


 思わず聞き返した。それも、何故か丁寧に。


「俺もセイラの仲間を殺した奴を探すって言ったんだよ。俺もちょうど探している奴がいるし、ついでにな」


「何言ってんだ? あんたに関係ないことじゃないか」


「あのさ、俺、ちゃんと、ジャックっていう名前があるから。ジャックって呼んでくれよ。それと、ひとりで探すより良いんじゃねぇのか?」


「そうだけど……なんで、あんた……ジャックは、そこまでしようとするんだ? これは、私の問題で……」


「困っている人を助けるのが、俺の仕事だ。ただ、盗賊をやっているわけじゃないんだぞ」


 セイラは、ジャックに一緒に探すと言われて、想像以上に困惑している。


 まさか、助けられると思っていなかった。いや、助けられただけではない。何故か、心が動揺している。ただ、助けられただけのはず。


 ジャックは呆れている。


「あのさ、助けるのに理由なんてないだろ。俺は、セイラのように、人が傷つくのも、人の死も見たくない」


 セイラは、このモヤモヤしている心をどうすることもできなかった。


 意味がわからない。助けられるということは、こんなにもモヤモヤするものだったのだろうか。



「……いや、違う。このモヤモヤした気持ちは、悔しいからだ……」


 ボソッと呟いた。


 ジャックは目を丸くした。


「えっ?」


 セイラは拳を握り締めた。


「本当なら、私が助けなきゃいけなかった。でも、助けられなかった。それどころか助けられた」


 セイラの声は震えていた。同時に強い意志も感じられる。


「海賊仲間がいなかったら、私はいなかった。恩がある。だから、恩返ししたかったのにできなかった。それで凄く悔しいんだ」


 ジャックは優しい笑顔を向けた。


「そっか、なら、その仲間の仇を討たないとな。仲間の命を無駄にしないためにも」


 セイラは目をパチパチさせた。


「えっ……そ、そんな優しくしないでくれ。どう反応すればいいか、わからないんだよっ……」


 ひどく動揺している。


 そんなセイラの様子が面白くて、ジャックは笑っている。


 セイラはムッとしてジャックを睨みつけた。


「な……なんだよっ……!! わ、笑うな!!」


「なんでもない。まぁ、今はゆっくり休め」


 ジャックは笑いが止まらなかった。


 セイラは深呼吸をして、心を落ち着かせた。


「助けてくれてありがと……」


 小声でボソッと感謝の言葉を述べる。


 その声をジャックは聞き取れなかった。


「今、なんて言ったんだ?」


「知るかっ」


 セイラはお礼を言うことが、恥ずかしくて、ジャックに聞き返されても、そっぽを向いた。


 ジャックは誤魔化したなと思いながら念を押す。


「とりあえず、今はちゃんと休めよ。ちゃんと休んでるか監視するからな」


 セイラはジャックに言われて頷いた。


「わかった。ちゃんと休むよ」


 それから、数秒、沈黙してから口を開いた。


「ジャックが、私の仲間を殺した奴を一緒に探すっていうなら、私は、ジャックの探している奴を一緒に探す。これで、貸し借りなしだ」


 ジャックは一瞬、意味を理解できなかった。だが、すぐに納得する。


「わかった。これで、貸し借りなしな」


 ジャックはニヤリと笑った。


 セイラは、お互いに納得したところで、ジャックに疑問を見つけた。


「探している奴って、何か手掛かりはあるのか?」


 ジャックは視線を左斜めに向けて考える。


「わからない。でも、ここの街にいることは間違いない。ここの街の人の命を奪って、物を盗むらしいから。セイラこそ、仲間を殺した奴の手掛かりは?」


「わからない。殺した奴の姿を見ていない。気がついたら、海に投げ出されていたし、仲間も死んでいた」


「そっか。手がかりはなしか」


 いつの間にか、ジャックとセイラは一緒になって手掛かりを考え始めていた。


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