第20話 衆目

 病院 AM10:35

 九条未来の連絡により貴音の両親が病院に到着。

「貴音は!?俺の息子はどこだ!?」

 

「お義父さん、まだ手術中です......」

 

「未来ちゃん......あの子は......あの子は助かりそうなの?」

 

「正直......わかりません。ただ貴音は異常な程にタフさがあり、能力を完全に無力化されていない様で、切断された手足と潰された陰茎、眼球が再生する可能性が0では無い為に縫合などが出来ないのです......なので遺物の摘出中です。そして、今はアルペシアと言う8歳の娘が輸血とエネルギーを分け与え続けています......」

 

「そんな子供が!?そうなのか......?ん?どういう事だ?」

 

「アルは吸血鬼の様な力を持っているんです。他に、殺した相手の命を己の残機とし、存在する血液型全てに変えれる力があり、それらを使って貴音の命を繋いでいます」


「つまり、魂をエネルギーに変換して貴音を生かそうとしているのか!?大丈夫なのか?その子自身は?そして何故、そこまでしてくれるんだ?」

 

「大丈夫です......貴音の信条に反しますが救出の際に何十人も吸収しています......そして、アルペシアは貴音を心の底から愛しているんです。恋する乙女は止められないと言う感じですかね......」

 

「......そうか。8歳の子供にあいつは異性として見られているのか......」

 

「アルはもう成長が出来ないんです。不老不死なのです。そして、知能も私達以上なので、子供の勘違いの憧れというのではないです、真の愛です。それよりも移動しましょう、どこに貴音が入院したかバレたら敵対勢力はこの機会を逃しませんので」

 

「そうか......なら、この恩はうちの息子が責任取るしかねぇなぁ......」

「ありがとうねぇ......」


 空の広い病室 十数分後

 

「ここです、許可は取ってあります」

 

「ありがとう、じゃあ失礼し......すごい人数だ......」

 そこにはチームのほぼ全員がいた。

 

「貴音のお父様とお母様ですか!この度は貴音に命を助けて貰った身なのに何も出来ず申し訳ありません......」

 とリカは一目見るなり近づき謝罪した。

 

「......リカさんですよね、フギンが会ったという?気に病まないで頭を上げてくだせえ......貴女に非は無ぇ......寧ろ、俺ら人間を恨まず貴音の友人になってくれた事の方がこちらが頭を下げないといけない」

「それに私は新聞紙で引っ叩こうとしたのだから......」

 

「人間の常識的に考えたら家に大きい毒蜘蛛が出たらそういう対応になりますから......責めるつもりは全く微塵もありません。ありがとうございます」

 

「すまねぇな......それにしても何故テレビで見たメンバーのほぼ全員がここに?」

 

「メテオブレイカーを始末しにくる刺客に備えています、手術室には私の孫がいるから心配は無いと。ただその手術室まで到達させない様にする為です。それと申し遅れました、孫のアルペシアの祖父、ウォルタークルツです。そして......私の孫がどうやら、貴方のご子息に恋慕の情を抱いたようで......それも初恋......何と言ったら......」


「そうでしたかぁ。私は梶原時克です。愚息は気にせず受け止めるので、お気になさらず......寧ろ、愚息が何をしたのかわからないですが、アルペシアちゃんの初恋を奪ってしまって申し訳ないです......」

 

「いえ、尊大な孫が他人に対する対応が良くなったので、逆に感謝しています。......話を脱線し過ぎましたな、リックさんご説明をよろしくお願いします」

 

「ああ、端的に言うと、梶原貴音をとても楽に始末するのには千載一遇の好機チャンス•オブ•ア•ライフタイム。だから、それを防ぐために病院の屋根にホープという蜂ミュータント、それと早井という少年にフギンが待機。病院内を大山と久遠が徘徊している。そして自衛官や警察官もな。」

 

「息子の為にありがとうございます......」

 

 と貴音の両親が頭を下げていると響が突然叫ぶ。

「ちょっと!?Zとかネットの記事ふざけてんだけど」

「どうされました?」

 

「病院の位置がバレてる......ネットにアップしてんだよ!一般人が!」

 

「何?なら巨大化できる俺はもう外で、敵対勢力に対しての威嚇をする為に出る」

 そう言いながら窓からリックは飛び立って行った。

 

「行動が早い......それにこのスレ......」

「響?そんなに深刻な顔してどうし......」

 記事を見た未来は怒りに我を失いそうになった。


   【世界ヒーロー速報】

 [悲報!メテオブレイカー四肢を失い敗北ww]

 1.見てこれw運ばれていくメテオブレイカーの腕と足が千切れてるw偽善者が調子乗るからww (添付ファイル4つ)

 2.グロ注意つけろよ、なんだよ胸とかは隠されてんじゃん。しかも、これ目と身体に何か刺さってんじゃん。

 3.場所は都内の○○病院だってZでかなりの人がそう言ってる。

 4.本当はメテオブレイカーの強さはトリックだったんじゃ無いか?今回調子乗って殺されかけたんだろw

 5.俺もそう思っている。ただの国の客寄せパンダなのに身の程知らずに調子乗ったんや

 6.てか、メテオブレイカーをこんなにするのどうやったんや?ワイもミューテェイトで怖いんやが、薬か?


 とメテオブレイカーの力すら疑う者が現れ、更にこれは好機とZにポストした物があった。


『なぁ、今なら〇〇病院行ってメテオブレイカーを殺すのは今が絶好の機会なんじゃ無いか?よく考えるとあんな力が本物だったら精神病のあいつが錯乱したら日本は危ない!俺らが立ち上がりヒーロー気取りの能力者は排除しよう!首相を無視できる組織は危険!』

 #打倒メテオブレイカー、#SADF解体、#天誅というタグがつけられて25万いいねに19万リポスト、それに対しての返信は。

 

「助けてもらったけど、あの明るさうざかったんだよね。俺も病院に行くわ」

「チヤホヤされていたのに思ったより弱かったね」

「薬如きに負けるヒーローwww」

「流石に可哀想だし、助けてもらったなら恩があるでしょ?」

「こんな奴に恩を感じる必要はない、何故なら偽善者だからだ。俺達の税金で生活しているんだぞ!許されない!」

「どうやって生活しているのかと思ったら税金だったのか!あんなデカい家住みやがってぶち殺してやる」

「隕石が落ちる前から調子乗って脚切断された活動家兼自警団ごっこの奴だからねw」

とあまりにも人の心のない内容ばかりだった。

 

「ふざけんじゃ無いわよッ!テメェら市民を守り続けたのは貴音でしょ!そして、国が運営する組織、つまり、公務員みたいな物なのだから税金に決まっているでしょ!本國首相だって会見していただろ!!何故、殆どの人が感謝すらしていないのよ!!それも人助けは隕石が落ちる前からやっているのよ!アナーキストユニオンやらアフターメテオ、それにどこにも所属しないテロリスト達とかを、何人わざわざ殺さず捕まえたと思っているよッ!」

 

「なんでこんなに馬鹿な人がいるの......」

 

「人間は信じたい物だけを信じる物です。そして、人は一度与えられた特別な事は感謝しますが、何度もそれを与えると当然と思い感謝をしなくなるのです。暴徒や能力者のテロリストに外国の工作員がここに来るでしょう。私達で必ず貴音さんを守りましょ......」

 発言中に全員の携帯からけたたましい警報音が鳴り全員が確認をした。

 

「なっ!?本気なの!?」

「この国諸共、息子を消す気か!?」

 

それは中央朝鮮とロシアに中国が合計6発の核ミサイルを発射してきた事を知らせるアラームだった。そこにメンバー達に本國からの連絡が入る

『何者かによって迎撃システムが破壊された。誰かミサイルを対処してくれ、無理そうなら早く避難を』

 

 「そ、そんなぁ......1番楽に出来る貴音がダウンしているのに......卑怯だよ......」

 

「......貴音は............この3ヶ国の工作員とかに狙われたのに、その狙ってきた国の国民は何度も守りに行っているのよ!!......なのにざけんなァ!クソがァ!恩を仇で返すクズ共めが......変ッ身ッ!」

 

 未来は激昂し変身したが、それはいつものと姿が違った。

 「く......黒いし、赤い......?」

 (やめなさい、未来)とA.S.H.の機械音声が聞こえた。

「うるさいッ!いいわっ!いいわよッ!貴音の愛する者達に!それに喧嘩を売ったことを、自国民共々あの世で後悔しやがれぇえ!!!」

 そう言うと窓を突き破り空に飛んで行く。

 

「あれ?もしかして九条さん?」

 

「そうね、ただいつもの姿じゃないわ、追うわよ」

 

「でも私達ではあの速度には追いつけないですね!早井君!貴方なら間に合うかもしれませんね!羽で飛んでいる訳ではないので!早く追ってください!」


「わかった!」

 そう限界まで己を浮かせ加速させていく。

 

「......フギンわかっているわよね」

「ええ!ホープ!あの遠く、空飛ぶあれはどう見ても貴音を狙う者の軍勢!」


 ――――――――――――――

 個室病室 AM11:09


「マズいよ!あーしが考える限り、未来はミサイルをそのまま国に返して落とす気だよ!」

 

「息子の為に怒ってくれるのは嬉しいが未来さんをこれ以上大量殺人者にさせたく無いです」

 

 窓からフギンが顔を出した。

「早井翼君が今追っています!それよりミサイルが落ちると言うのに、続々と貴音を始末する為に病院に入ってきている!それに外から攻撃しようとしているのもいる!私もホープの加勢に行かないといけないので戻りますぞ!空には何百人も飛んできているので!!」

 

「そ、そんな......警察や自衛隊も病院内にいるはずなのに何してんの?みんな出よう!」

 廊下に出ると少し離れた所に自衛官の死体が幾つも転がっていた。

 

「は?」

 響は駆け寄り息を確かめるが全員確実に死ぬ様に心臓と喉が潰されていた。

 

「クソ......なんであーしの前でばかり失われるんだよ......」

 

「炸羅さん、私達でこれ以上被害が増えない様にしましょう。私は血を操る事しかできませんが」

 

「そうっすね......すみません。じゃあ今ここにいるリカ、ウォルターさん、私でスリーマンセルで行動しよう!」

 

「あの......俺も貴音程強くないですが戦えますよ、ハリネズミみたいなもんですけど」

 

「私は最近能力者になったけど環境適応って感じの能力だから防御くらいしか出来ないの......ごめんなさい」

 

「助かります!環境適応で防御ができるならばいいと思います!じゃあ、リカは貴音のご両親と行動して!ウォルターさんとあーしで動く」

 

「わかったわ!」

 そう分かれて行った。


 ――――――――――――――

 

 病院内 同時刻

 自衛官とテロリストの銃撃戦の真ん中に大山がいた。

「僕の後ろに皆さん隠れて!」

 

「ありがたい!」

 

「遮蔽を広げる!そして僕は突っ込むから僕ごと攻撃して!」

 

「うおおおぉおお!!!」


「ここは終わりましたかね」

 

「助かり......ぐふぁ!?」

 いきなり頭が砕けたり、腹に穴が開く自衛官達

 

「なっ!?」

 

 上を見上げるとほぼ透明の巨大サソリが複数体いた。

「皆さん逃げて!」

 

「ぎゃあ」「ひぃっ〜」「ぐあぁ」

 

「呆気ない、人間は脆い」

 と異形の者が近づいてくる。

 

「皆さんん!?」

 巨大サソリを連れ前に現れた異形の者は、サソリの人型ミュータントだった。

 

「お前がサソリを操ったのか、それが能力か!」

 

「違う、俺はドミネーター個体だ」

 

「ドミネーター?」

 

「知らないのか?日本は遅れているな、能力者の元の種族で自分より知能が低いものを操れる個体なのだよっ!」

 

 そう言いながら腕のハサミで大山の首を狙うが金属が勢いよくぶつかり合う音がして弾かれた。

 

「僕の方が硬いみたいだね」

 

「チッ、テメェらフォーメーションBだ、攻めろ!」

 

「受けて立つ」

 負傷された方を助ける為に早くケリをつけないと......

 

 ――――――――――――――

 

 病院内 ほぼ同時刻

 

「ミサイル!?アタシが空を飛べてめちゃくちゃ目が良ければ位置を動かせるだろうけど......」

 

 と言う千劔破に向けて弾が背後から放たれる。

「ハッ!」

 一瞬で抜刀し振り返りながら切り伏せた、それを見ると骨の様な物だった。

 

「不意打ちなんて卑怯ね、それに骨?何これ?」

 

「なぁぜえ!?俺様の弾をガード出来たぁ!」

 

「なっデカいカニ!?そのハサミの間の不自然な穴から出したと見た!」

 

「わかったからってなんだって言うんだよ!」

 

 そう言いながら連射をするが悉く弾き切られてしまう。

 

「お前は身体強化系の能力者かぁ!!並ば逆に詰めて挟み殺してやるぅう!!」

 

「違うわ、これよ」

 そう言うと目の前のカニ人間の位置と廊下の横並びソファの位置を交換した。

 

「なんだこれはぁあ!?じゃあ何故防げるぅう!?」

 

「鍛錬よ」

 そう言いながらカニの後ろに残っているソファと自分の位置を変えた。

 

「悪いけど手加減してあげれる余裕ないの」

 そう言いながらも、ブレードの出力を下げて背後から複数の関節を狙い瞬時に切った。

 

「ぐぅうええ......」

「死んでないみたいだし良し、この様子だと病院内は地獄絵図ね」

 そう急ぎ走る千劔破。

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