第23話「ペドレニャル」

-コパカバナ宮廷-

チカ「なんじゃそれは。」

まだあどけなさが残る高貴な出立の少女。

片目は金色に光輝いて見える様から、

チャスカ様(ケチュア語では金星の女神)と呼ばれている。

ただ、側近の者達にその名で呼ぶものはいない。


オトナ「ペドレニャルと呼ばれるもので、俗に銃と呼ばれている代物です。

この引き金を引くと、凄まじい殺傷力を生み出す兵器です。」


オトナはチカに小型の銃を手渡した。


チカ「面白そうじゃのう。」


オトナ「お納めください。我らの置かれている状況は芳しくありません。

我らの象徴である貴女様は何としても生き延びなくてはなりませぬ。」


チカ「案ずるな、わらわを誰だと思っておる。」


オトナは銃をチカに渡しながら、念を押すように言った。


オトナ「くれぐれも、こちらを所持していることは気取られぬように。」


チカ「分かっておる。」


チカはまじまじと小銃を眺めながら、オトナに語りかけた。


チカ「ところで、

最近奴らの言うサンティアゴなる都市で、マプチェが騒いでおったそうな。」


オトナ「はい。

厳密にはピクンチェ族の者です。

ミチマという者を筆頭に小競り合いがあった様です。」


チカ「ふん。

マプチェや、ピクチェは元々我らの傘下から離れていった者達だと聞くが。

みな散り散りになり、新たな脅威の中で、かつての同胞達が踊らされておるな。」


オトナ「時代の流れは目まぐるしいですな。

かつては我らの影響下にあり一部族に過ぎなかったクスコの民が全土を支配したかと思えば、すぐさま海の果てから新たな勢力が現れ世界は一変してしまいました。」


チカ「そう言えば、先ほど話してたミチマとやらの争いを収めたのは、何やら女だったと聞いたが。

もしや、あやつか?」


コツコツ・・


チカ達に足音が近づいてきた。


チカは咄嗟に小銃を懐に忍ばせた。



イネス「ご機嫌いかがです?女王様。」

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