第12話 一難去ってまた一難?

 その日は、湯屋で体を洗い合って、

「当分、ベットの上では…、だから…。」

と、宿のベットの上で、組んずほぐれつ、互いの臭いをつけまくった二人だった。


「でも、出がけに大盤振る舞いなんてしなくてもよかったんじゃない?」

 旅立ち、並んで街道を歩きながら、思いだしたようにマリエッタが言ったのは、

「これで、みんなに酒一杯とつまみをだしてやってくれ。」

とロレンツオが食堂の主に大金貨1枚を渡したことだった。

 それでも余るくらいの価値があるから、

「流石に、鮮血の二人、だな。寂しくなるが、元気でやってくれよ。」

と上機嫌で受け取った。

 それを聞いて、

「行っちゃうのか?夜の声が聞けなくなると思うと、寂しいな。」

「まあ、行った先でも仲良くやってね。」

と軽口をいう連中が集まり、見送ってくれた。

「まあ、ほんの少しでも印象を良くすれば、後々、いいことがあるだろう…かもしれないからな。」

とロレンツオは弁解するように言った。

「でも、あいつらの唆した黒幕のチームも、その大盤振る舞いにあずかるんじゃない?」

「さらに追うのは止めるとか、あいつらをさらに焚きつけることはないか、と思ってくれるかもしれないじゃないか?」

「まあ、ロレンツオらしいわね。」

と納得したマリエッタは、ロレンツオらしいというのは?と心の中で首を傾げた。とにかく、誰も追っては来なかった。


「どうでしょうか、私達の護衛を引き受けていただけませんか?」

 若い男から、ロレンツオとマリエッタがミロ市に向かう途中の小さくない村での宿の食堂で夕食をとっているところでのことだった。

 別にミロ市に行くべき用件はない。少し離れた大きな都市だから、新しく仕事をするのにはよいということで、そこを目指して旅をしているだけだ。その途中の村々の宿に立ち寄ると小さな仕事でも受けて、こなすということを続けながら来た。金はあったほうがいい、かなり貯めこんでいるが、それに、この方が金を持ってないように見えるだろう、というロレンツオの考えだった。冒険者ギルド、というものはないが、よそ者などは滞在に届け出をしないと、後々面倒なことになるし、彼らのような者を受け付けるところはあり、仕事の依頼の張り紙などもあるし、手続きもしてもらえる。時には、その担当者が元冒険者という場合もある。ただし、巨乳の若い、少なくとも年齢より若く見える、娘と同年齢にしか見えないう美人のお姉さんは、その間見かけなかったが。

 彼の後ろのテーブル、一つ挟んで、この村のものではない、いわゆる冒険者とは異なる女が二人テーブルにいて、こちらをチラチラ心配そうに見ているのが目に入った。一人は、かなり小柄で頭にフードをかぶり、もう一人は、まだわかい、その従者であることが分かる服装だった、二人とも旅装束だ。男もそうだ。

「なぜ、私達を?初対面ですし、信頼できないかもしれませんよ?まあ、そこに座ってください。」

 訳ありの一行、主従に見えたから、断りたい、と思いながら、ロレンツオは探るように答えた。

「お言葉に甘えさせていただきます。」

と一礼してから、椅子を引き、座った。その彼からは、今まで道々でやって来た盗賊退治、引き受けた仕事、魔獣退治~薬草採取、雑用、そして、決闘のことが、語られた。

 

「おい、決闘を逃げた臆病者の鮮血のロレンツオとマリエッタ。俺達と勝負しろ!」

 この日の2日前。このトロン村直前に、男女6人のチームに、決闘を挑まれた。リーダーの剣士は、ロレンツオより少しでも若いくらいだったが、後ろの魔道士は30半ばに見えた。反対したが引きずられてということではないように見えたから、“いい歳して、判断力がないのか?”とロレンツオは、心の中で舌打ちをした。

「断るよ。臆病者と触れ回っていいから、このまま行かせてくれないか?」

「私達は、お金にならないことはしたくないの。」

とはマリエッタ。あ、少し挑発になったかしら?と思い直して、

「危ないことはしたくないのよ。そのくらいなら、逃げることにしているの。」

と慌てて付け加えた。しかし、

「馬鹿にするな!」

と先方は、即戦闘モード。名を揚げるにはちょうどいい相手とみたらしい。全員、迷いはないようだった。

「仕方ないわね。」

とマリエッタはロレンツオを見た。ロレンツオも頷いた。こちらも、即戦闘モードに。

「行くぞ。」

と先方は、考えぬいただろう、多分、の隊形で挑んで来た。

 

 魔道士と半弓を持った二人が後ろに下がり、大盾を持った女がその前に立つ。陽動、混乱、様子見のための火球、矢が飛んでくる。拘束魔法もかけてきた。同人に、剣、槍、大鎌を持った男女3人が連係を取って突っこんで来た。

“回復術士か聖女がどこかに、隠れているわね。”


 ロレンツィオの張った防御結界が火球、矢を弾き、彼の衝撃波が大楯を持った女もろとも、さらに魔導士と弓手を巻き込んで、吹っ飛ばした。風と炎を纏ったマリエッタが3人を迎えうつ。同時に、ロレンツィオが小さな火球を飛ばして、彼らを混乱させた。一合も交えず、剣士を斬り、返す刀で大鎌使いを斬った。槍を避けて踏み込み、蹴り飛ばした。そのまま、魔例導士達の方に向かった。血を吹き出した2人と痛みを堪えて立ち上がろうとする1人はロレンツィオが抑える間、マリエッタが起き上がろうとしていた魔導士達を斬りつけて倒す。後は、ロレンツィオに追いつめられていた3人をマリエッタが協力して、たちまち切り伏せた。

「た、助けてー!」

と中年の聖女が木陰から飛び出した。無慈悲にマリエッタが、背中から剣を刺し貫いた。その間、ロレンツィオが他の呻き声を上げている面々に止めをさしてまわった。


 闘いを挑んできた連中への対応は、これが常識だった。後で復讐されては困ることと、それだけのペナルティーがあるべきだということだった。そのチームがそこそこ高いランクであったこともあり、2人の噂が広がった。


 その上での依頼だと分かったから、かなり危ない依頼だとロレンツィオは感じた。だから断ろうと思った。が、

「受けましょう。」

「?」

「彼女、ハイエルフよ、しかも王族。同族だからわかるの。」

「そうか。」

 マリエッタの言葉に、ロレンツィオは同意した。



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