第40話 いいのか、女達に守ってもらわなくて?

「いいのか、女達に守ってもらわなくても?お前が死んだら、彼女達は力を失うぞ?」

 ニジュウは、ケンセキを牽制するように、余裕の笑いを浮かべて、彼に対峙して、聖剣ではないただの人間の造った長剣を構えているケンセキに語りかけた。

「どうして、どいつもこいつも情報が中途半端なのかな?」

と呆れたよ、という表情を浮かべると、その後は続けず、彼に斬りかかった。剣には、光の波動が纏いつき、ニジュウの火球も火炎も弾き、その聖剣を余裕で受け止めた。そして、聖剣の、ニジュウの勇者としての力をも込めた波動をも押し返し、彼を後退させた。"後退したと見せて、一気に。"

「アッチョー!」

との掛け声で一気に、体全体に光の波動を纏って、聖剣の力を全開にして反撃に出た。が、簡単に押し返された。"な、なんだ?"

「キャー!」

 タツ達の悲鳴が聞こえてきた。その悲鳴が、深手を負った時のものだと直感した。"彼女達が?こいつ、誰を支援しているんだ?"ニジュウは焦り、混乱していた。タツ達を助けないと、自分を助ける者がいなくなるというやはり矛盾した切迫感も感じた。一人が、二人の間に割って入って、ケンセキに弾き飛ばされた。その隙を、彼女が作ってくれた隙を、つこうとして、一気に勝負にでたニジュウは、逆にその隙を突かれて、右腕を深々と切り裂かれた。聖鎧の腕あてを切り裂かれたのである。血が噴き出した。

「く、くそ。」

と呻いて、なおも態勢を立て直そうとしたが、待ってくれないケンセキの攻勢で動きが止まり、膝を大地につけて動けなくなった。

 その時には、ソウラはうめき声をあげて大地に横たわり、動けなくなっている連中を尻目に、ニワの加勢に赴いていた。

「流石に勇者様だったよ。時間がかかったよ。あちらも、もう終わりそうだ。後はまとめて始末するから、少し待っていてくれ。」

 ケンセキは、電光と衝撃波を纏った剣で勇者ニジュウの胸を刺し貫いた。彼は死ななかったが、身動きすらできなくなって、大地に倒れた。


「お前も勇者だろう?プ、プライドというものがないのか?どうしてこいつらに味方する?自分が何をしているのか、わからないのか?」

「勇者?もうそんなもの関係ないさ。それに、その言葉、お前に全て返すよ。どうして、あいつの手駒になったんだ?」

 勇者二人は渡り合っていた。一人は何とか、ニワの方に向かおうとし、もう一人は仲間とともに、彼の行くてを阻むことに終始していた。こちらが進めば退き、退ければ進んでくる、攻撃は受け流すことに終始し、嫌がらせのような、大したことはないが無視はできない攻撃を仕掛けて来る、勇者サバと仲間達に対して、勇者スキマはいら立ち、焦っていた。

「勇者様。ありがとうございます。ご苦労様でした。後は私がやりますから、休んでいて下さい。」

 取り合えず聖女ナミを顔だけではなく、体全体も見分けがつかないほどにぼこぼこにし、他のメンバーを倒したニワが、深々と頭を下げ丁寧な調子で呼びかけた。

「つくづく卑怯な奴め。俺が疲れていると思って、出てきたか。その傲慢さ、自惚れで身を亡ぼすことになるぞ。」

と荒い息を何とか落ち着かせようとしていた。それでも、ナミ達を心配そうにちらちらと見ていた。彼女達の傷を目にすればするほど怒りがこみあげてきていた。それをニワは冷静に観察していた。

「あらあら、お優しい事。でも、彼女達を利用としていたせいかしら?それとも利用されていたお馬鹿さんなのかしら?どちらでしょうね?取り合えず、すぐには殺しはしないから安心していいわよ。」

「な、なんだっとー。」

 魔導士タイプの勇者であるスキマだが、剣術も格闘技も決して劣っているものではなかった。剣でドラゴンを、魔族の騎士団長クラスを一刀で切り倒したことも度々あった。聖女、戦う聖女と言われて、あるいは自称していても、魔法に頼っている、剣の扱いも大したものではないという考えが抜けきれなかった。彼のパーティーの面々がニワに、剣士、聖剣ですら魔法杖の仕込み剣で切り裂かれていたことを目にしていても修正できなかったのだ。

 剣で、聖剣を持つ彼が押されてしまった。

「これならどうだ!爆裂雷撃弾!」

 必殺の、彼の勇者としての最大の必殺技を聖剣に集めて集約し、聖剣の力を加味して放った。考えていた技だが、完全な形で放つのは初めて、ぶっつけ本番に近かった。が、予想をはるかに上回る威力で、予想外にうまくいった。これで勝てる、終わった、と確信した。彼女が目の前に、いつの間にか立ち、自分の胸を剣で貫く直前までは。

「ぐわっ!」

 勇者スキマは、血を噴き出して倒れた。“このくらいで、勇者の俺がどうして…体がもう動かないなんて?”

「な、何やっているのよ?こ、この役立たず、勇者が聞いて呆れるわ!」

と聖女姿の女が呻いた。

「剣からね、魔法をね、体を破壊する、毒のような効果を持つのをね、注ぎ込んだの。勇者様の回復力なら死なないでしょうけど、当分は動けないわ。その間にとどめも刺せるわね。あら?」

とニワが視線を向けた先に、

「勇者様。」

と這って、彼の楯になろうとする娘、格闘家、と彼のために立ち上がろうとして立ち上がれない騎士達もいた。

「あら、あなた方と違って勇者様を本当に慕うのもいたのね。勇者様は救われたわね。あなた方は違うけど。」

 ニワは視線を戻すと高笑いをした。



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