第39話 もういいよ、殺(や)る

「もう長々と説明する必要ない。もういいよ、殺(や)る。」

 冷たく、吐き捨てるように言ったのはコウだった。いつも、つかみどころがない、人の顔色を見て右往左往しているような八方美人的な彼女は、無表情で落ち着きすぎるように見えた。

「勇者ハチノスナ、今殺してあげる。」

 それをケンセキが止めた。その前にやることはやらねばならないことがあるのだ。

「勇者達と私達の関係者以外は、ここから立ち去って下さい、危険が及ぶかもしれませんから。あ、勇者ハジョ様とそのチームの皆さまも、ご一緒に退いて下さい。そして、高貴な方々をガードをお願いします。どうせ、不利になったら高貴な方々を人質にしようとする輩ですからね。それから、お前達は屑勇者達と屑のメンバーを殺す手伝いだ。」 

 その言葉を聞いて、

「お、おい、本当に俺達を捨てるのかよ?あ、あいつらの言葉を信ずるのかよ?この後、お前がやられるんだぞ。そ、そうだ、お前は、こいつらが好きだったんじゃないのか?」

「え?…そ、そうよ。見棄てないで!」

「私のこと、好きだって言ったじゃない?」

と勇者ハジヤの背に懇願の混じる声が突き刺さった。ただし、弾き返された。その代わりに、

「その言葉、そいつに抱かれて、喘ぎ声を出す前に言いなさいよ、あんた方。」

と振り向いて言い返す女剣士の手を、無言で勇者はつかんで、引いていった。


「みんな、心配しないで、彼の支援魔法は封じました。女達は、ただの冒険者、そいつはそれ以下です!」

 勇者ハチノスが、皆を励ますように叫んだ。勢いづく面々。

「力がなくなったか?俺は、勇者様以上の力がみなぎっているのが感じられるが。」

とケンセキ。

「同じよ、勇者様以上よ。少なくとも、そこにいる勇者様よりはね。」

「右に同じよ。」

「やれる。」

「全く効いていませんよ。大体そういう関係ではありませんから。」

「問題ないです。」

「馬鹿な・・・。そんなはずはない。虚勢よ!」

「じゃあ、行こうか!」

 ケンセキ以下、皆得物を構えた。勇者サバ以下もそれに倣った。勇者ハチノスナ、ニジュウ、スキマとそのチームのメンバーも得物を構えた。リュウ達は、リュウ以外は戸惑って、動揺して、戦うどころではなかった。


 真っ先に動いたのは、コウとマキイだった。二人とも無言で相手に飛び込んだ。

「こ、この魔族女が。」

と叫んだハーフオーガのリュウだったが、自慢の、そして得意のダブル大トホマークは真っ二つどころか、ほとんどバラバラといった具合に砕け散り、素早く逃げようとしたものの、袈裟懸けに近い形で斬られて、血を吹き出して倒れた。

「リュウ!」

 この時になって、女達が彼を守ろうと動いた。男達は唖然としたままだった。 


コウはハチノスナに槍を横殴りで叩きつけた。ハチノスナはそれを受け止めたが、苦痛の表情を浮かべていた。彼女には、パーティーメンバーの加勢はなかった。メンバーは全てソウと相対していたからだ。

「ひゃー。」

 ソウの短槍に突き刺されて、哀れな悲鳴を上げて倒れたのは、彼女の祖父一家を殺したという女だった。革命軍の副司令官とされる男達の魔法攻撃はソウに全て中和され、彼らの剣も槍も斧も軽くいなされ、鞭などは伸びて来る時に軽く斬り落とされた。懐に入り込み拳と蹴りを加えて来るのを軽く避けて、逆に蹴り飛ばし、拳を叩きつけた。瞬く間にハチノスナのチームメンバーは残り少なくなっていた。ソウは、だが、誰にもとどめを刺さなかった。

「後であなた方はゆっくりなぶり殺してあげるから、痛みで苦しんでいなさい。」


「私を単なる魔法だけの勇者だとは思わないことね、後悔するわよ。」

 勇者ハチノスナは、剣を抜きコウに斬り込んだ。そして、片手、両脚で拳、蹴りを叩きつけ、さらに当身を加えようとした。もちろん、同時に火球、火炎、火柱など火系の魔法攻撃を多連発、斉射で放った。

「な、何故・・・お前は平気なの?」

 槍に横殴りにされて飛ばされ、強風のような圧力で叩きつけられながら、驚愕する、自分の攻撃が全く効果を上げていないことに、ハチノスナに、彼女の質問には答えずコウは、畳みかけるように攻撃を続いた。

「きゃあー!」

と竜巻のような風で、かまいたち=真空により斬られ、逆に火球を撃ち込まれ、よろめいたところに槍を突き刺されて、血を流して悲鳴を上げた。

 さらに、何度も反撃を試みたものの、コウに何度も槍と衝撃波を加えられ、苦痛をあげて動けなくなった。

「その身であの方の苦しみを受けるがいいわ。」

「?」

 コウは説明しなかった。ぎりぎりまでいたぶり、最後の最後になってから、告げてやるつもりでいた。




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