第43話 体育祭・午後の部
昼休憩も終わり午後の部が始まる。
ここからは特に盛り上がる競技が多い。
「校庭に戻るか」
桜ノ宮との食事が終わり校庭に戻ろうとすると、校舎の隅っこにある花壇からブツブツと声が聞こえる。
誰かいるんだろうか?
オレが覗き込むと風歌先輩が壁に向かってなにかを詠唱している。
「なにしてるんすか、風歌先輩?」
「わへッ!?ビックリした、鏡夜くんか……ちょっと応援合戦のおさらいを……」
「こんな場所でですか?」
「うん。ここ、あんまり人が来ないから落ち着くんだ」
「なんかガチガチになってません?あの後も練習はしてたんですよね?」
「そうなんだけど、やっぱり本番だと思うと緊張しちゃって……」
「はい」
オレは数日ぶりに手を差し出す。
その手を風歌先輩はゆっくりと両手で祈るように握ると深呼吸する。
「落ち着きました?」
「ありがと。ねえ、一つお願いしていいかな?」
「どうぞ」
「応援合戦の時、正面に立って見ててほしいの。鏡夜くんがいれば落ち着いてできる気がするから」
「お安い御用です。頑張ってくださいね、風歌先輩」
オレが風歌先輩のお願いを了承したところで、雷歌先輩が風歌先輩を呼びに来た。
「風歌ー!って、鏡夜!?あんたたちこんなところでなにしてんの!?」
「風歌先輩が緊張しているみたいでしたので、激励を」
「ふーん。……私にはないわけ?」
一応、敵チームなんだけどな~。
まぁいいか。
オレは風歌先輩にしたように雷歌先輩へと手を差し出す。
「え!?」
「どうしました?前やりましたよね?」
「あっ、うん」
雷歌先輩がオレの手を握るのを待って、オレは声をかける。
「頑張ってくださいね、雷歌先輩」
「うん!」
「じゃあ、オレ行きますんで」
オレは風歌先輩のお願いを聞くために指定の場所へ移動する。
「結構すごかったねー」
「先輩たちかっこよかったー!」
応援合戦を皮切りに行われる午後の種目は、騎馬戦やリレーなど盛り上がる花形種目が多い。
そのため、昼休憩で一度クールダウンした活気が再び戻り、生徒たちの表情や声色が明るくなる。
まぁ、それも楽しさを共有できる仲間がいるから盛り上がれるんだけどな!
ボッチつらい……。
オレが一人寂しく体育祭観戦していると、唐突に校門の方がざわつき始める。
『なにかしら?』
「さあ?」
オレとトーカも校門の方へと目をやる。
しかし、すでにギャラリーができており、よく見えない。
すると、オレのスマホが鳴る。
彩夜からだ!
「はいはい!」
「アニキ?校門まで向かいに来てくれない?」
「すぐ行く!」
『誰から?』
「彩夜」
オレは校門へと向かう。
人混みを作った正体は彩夜と楓であった。
まぁ、パッと見ハイパー美少女と美少年のカップルだもんな。そりゃ目を引くわ。
にしてもこの状況……声掛けづれ~……。
オレが日和っていると、向こうがオレに気付いてしまった。
「アニキ!」
「おお、鏡夜!」
周囲の視線が一斉にオレの方へと向く。
同時にひそひそが始まる。
どうせ、あの美少女の兄がこんな奴なのとか言ってんだろ!聞かなくてもわかるってんだ!
「約束通り来てあげたから」
「おう!来てやったぞ!」
「ありがとうな、二人とも。とりあえず、移動しようか」
ここだと、周囲の目がうるさい。
オレたちは白組のスペースへと移動する。
紅組が減った分ましにはなったが、それでもやっぱこの二人のルックスだと注目を集めるな。
でもこれで、ボッチから解放される。
「ケーキバイキングどうだった?」
「最高だったよ」
「だな!」
「そいつはよかった」
「そうだ!今度鏡夜のケーキも食わせてよ!」
「いいけど……なんでだ?たくさんケーキ食ってきたんだろ?」
「そうなんだけどよ~。彩夜の奴が鏡夜の作るケーキのほうが100倍おいしいとかいうからさ、しかも一口目でだぜ!」
「100倍とか言ってないでしょ!?」
「でも、鏡夜のケーキの方がおいしいとは言ったよな?」
「っ!?覚えてない!」
おお!彩夜が同級生と楽しそうに話してる!!
しかも、オレのいないところでオレの話をしてくれていたとは!
嬉しい……今度、ケーキ作ってやるか!
「……鏡夜くん」
オレが微笑ましく二人の様子を眺めていると、背後から声をかけられる。
この声、風歌先輩か?
オレはパッと振り向く。
「ふ……雷歌先輩?」
そこには見た目はもちろん、醸し出す雰囲気まで風歌先輩そっくりの雷歌先輩が立っていた。
「誰?鏡夜の彼女とか?」
「ちげーよ」
「だよなー、鏡夜の相手には美人過ぎるよな」
楓の奴、遠慮がねーな……。
「なんで変装してんですか、雷歌先輩?」
「……なんで、なんで私が風歌じゃないってわかったの!?」
「はぁ?」
そりゃまぁ、初恋マーカーが出てるからだけど……って、言うわけにはいかねーよな。
「ここ最近一緒にいることが多かったですし、わかるようになりますよ」
「そっか……えへへ。その子たちは?妹さんとその彼氏さんとか?」
「こいつは妹の彼氏じゃないです!そもそも女の子ですし」
例え楓であっても、彩夜の彼氏とか絶対認めん!
「へー。女なんだー。男にしか見えなかったー」
「あ゛ぁ!?」
「雷歌ちゃん!?」
雷歌先輩と楓がピリついた雰囲気になったところで、風歌先輩が現れる。
「なんで……なにやってるの雷歌ちゃん……」
風歌先輩の声は震えている。
それに対し、雷歌先輩はケロっとした感じで返答する。
「いや、鏡夜騙されてくれるかな~と思ったんだけど、見破られちゃった!」
「え!?」
風歌先輩も雷歌先輩同様、驚いた表情でオレを見る。
この二人よっぽど間違えられてきたんだろうな……。
実際、オレも初恋マーカーがなかったら判別できなかったろうし。
しかし、雷歌先輩が来てから空気重いな……。
彩夜が楓と楽しくおしゃべりしてたのに、沈黙しちゃったじゃねーか!
「で?なんで雷歌先輩は白組の格好してんですか?」
「だって、紅組が白組の陣地にいるのよくないじゃん!だから変装?」
「いや、変装すればいいという問題ではないでしょ」
「そうだよ、ちゃんと自陣の戻らないとダメだよ」
「鏡夜と風歌のケチ!」
雷歌先輩はこちらに舌を出しながら、紅組の方へと戻っていく。
「ごめんね、鏡夜くん」
「いや、別に」
「えっと……その~……」
風歌先輩は彩夜と楓の方を見てオロオロしている。
人見知り発動か……。
「オレの妹の彩夜と、その友人の東江楓です」
「ども!」「兄がお世話になってます」
「あ、いや、こちらこそお世話になりっぱなしで……あッ!?あの、阿雲風歌って言います……」
「それにしてもすごいな、鏡夜!さっきの人と風歌さん、瓜二つじゃん!よくわかったな!胸の大きさが違うとか?」
「むッ!?」
楓に言われて風歌先輩は恥ずかしそうに胸を隠す。
「いや、そんなんでわかるわけねーだろ!」
「まぁ鏡夜、童貞だしな!」
「ど!?何で知ってんだよ!っていうか、そういうお前だってどうせ処女だろ!」
「女の処女は価値があるからいんだよ!」
「二人ともうるさい!!」
「「すんません……」」
しまった……彩夜の機嫌が悪くなってしまった。
「あ、東江さんって女の子だったんだ」
「そうだけど?なに?」
「あっ、えっと、アンセルフィッシュな感じでかっこよかったからどっちかな~って」
「ふーん……。ねえ、風歌さん!……──」
楓の奴、阿雲姉妹に対してピリピリしてたけど、風歌先輩には気を許したのか?
てか、あった時から思ってたけどめっちゃコミュニケーション能力高いな。
割と人見知りな風歌先輩ともう楽しそうに会話してるし……。
それよりも、オレは怒らせた彩夜の機嫌を戻さねば!
「あの~彩夜?」
「この後、アニキなんの競技に出るの?」
「え!?ああ、障害物競走かな」
「それだけ?」
「うん」
「じゃあ、それ見たら私たち帰るね」
「え!?あ……そう……」
ああー!さっきの会話で完全に彩夜を怒らせてしまったー!!
せっかく来てくれたのに……。
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