第31話 紅白分け
『ねえ?せっかく昼休み一緒だったのに全然進展がなかったけどよかったの?』
「問題ない。攻略のカギが風歌先輩である以上、風歌先輩の歩調に合わせることが大切だ。圷みたいにガンガン行って敬遠される方が面倒だからな」
『一応考えてんのね!』
「まぁな……」
問題は進展がなかったことより、風歌先輩の姉に対しての思考が聞いていたものと違いそうなところだ。
風歌先輩は雷歌先輩を困らせるためにオレに近づいた感じじゃなさそうだ。ただ、純粋にオレに好意があるって感じでもない。
でも、だったらなんでオレに近づいてきた?
いや、そんなことはどうでもいい。雷歌先輩攻略のためには風歌先輩攻略がカギなのは変わらない。
今は風歌先輩に集中しよう。
この日のホームルームは体育祭のチーム分けが行われた。
チームは王道の紅組と白組。
しかし、その分け方が珍しく、くじを引きクラスの半分で敵味方が分かれる方式である。
他クラスとの交流を深めることが狙いの翁草高校伝統の振り分け方だそうだ。
その前に同じクラスですら交流を深められてないんですが……。
とりあえず、詞か村雨、最低でも圷と同じチームにならないとすみっこで縮まってることになりかねん!オレの運よ、頼むぞ!!
「では、名前順にくじを引いてください!」
運命のくじ引きが始まった。
引いた人から順に自分は何組だ!何組だ!と盛り上がっている。圷は紅だな。
くじが進み、クラスが盛り上がり始めたところで詞が振り返ってきた。
「一緒のチームだといいね!」
「おう。そうだな」
うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!
めっちゃ詞と一緒のチームがいい!!
頼む頼む頼む頼む!!神様仏様お天道様ー!お願いしますー!!
オレがくじを引くのは最後だ……なんで、たかが一日で終わる学校の行事のくじ引きでこんなに緊張してんだオレ!?
オレ以外の人が引き終わり、オレは最後に残ったくじを引く。
残り物にはなんとやらってな!!
「鏡夜、どっちだった?」
「白。詞は?」
「紅だった。残念」
ぐぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!!
まじか……。
「村雨は!?」
「うち?紅やけど」
終わった……。
「ほんとに!?同じチームだね!よろしくね!」
「あんま体育祭とか得意やないねんけど、うち」
「大丈夫だよ!みんなで楽しむのが楽しんだから!」
あんま目の前ではしゃがんでくれ……心に来る……。
心的ダメージがたたりこの日の補習はまったく身が入らなかった。
『ちょっと!実行委員遅刻じゃない!色増先生心配してたし!』
「ああー」
『シャッキっとしなさいよ!雷歌先輩攻略するんでしょ!!』
そうだった。終わったことを引きずっていてもしょうがねー。切り替えろ、湾月鏡夜!!
「ふぅーーー。もう大丈夫。サンキューな、トーカ!」
『どういてしまして!』
オレは切り替えて会議室に向かう。
「遅くなりましたー」
「おー、湾月くん!今日から実行委員は応援合戦の練習に入ろうかと思うんだ!湾月くんは何組かな?」
「白組です」
「えー!鏡夜白組なのー!?」
雷歌先輩のこの反応、雷歌先輩は紅組かな?
「そうか!同じチームだな!それじゃあ、俺たち白組応援団の手伝いをしてもらっていいかな!?」
「了解です」
応援合戦は本番までのお楽しみということで、各チーム分かれて練習するらしい。
白組は会議室に残り、紅組は別の部屋へ移動していった。
「よろしくね。鏡夜くん」
「風歌先輩、一緒のチームだったんですね!よかったです!」
「うん」
白組の応援合戦は長ランに白い羽織を着て、太鼓の音に合わせて踊るものだそうだ。
ということで、全員で参考ビデオを見たのち、練習を始める。
オレは応援合戦に参加しないので、カメラを持って記録を取るお手伝いだ。
『かっこいいのね!』
「大変そうだけどな」
今日は練習初日ということもあって、動きを確認するように軽く合わせるだけ終了した。
しかし、風歌先輩って想像よりもポンコツだな。
隣にいる雷歌先輩が異常に優秀だから、その比較で周囲から劣っているという評価をされているのかと思っていたのだが……これは誰の隣にいても劣っているレベルなのでは?
どの口が言ってんだって感じだが。
『風歌先輩って運動音痴?』
「……かもな」
そう!トーカが指摘するくらいひどいのだ!
基本的に数テンポ遅れている。それと動きが固い。さらに、周囲との間も測れていない。
要は壊滅的である。
オレは決して顔に出さないように意識しているが、他の人は明らかに顔が引きつっている。
あの、誰にでも笑顔で接している岩筋先輩でさえもだ。
「ま、まあ、今日は初日だからこんなもんにしておこう!体育祭までは一週間くらいだから、余裕があったら各自練習しといて欲しい!以上、解散!!」
解散の号令で、みなバラバラと帰り始める。
『声掛けたら?』
「そうだな」
オレはシュンっと小さくなっている背中に声を掛ける。
「風歌先輩?」
「なっ、なに?」
「……風歌先輩ってあんまり運動得意じゃないです?」
『ちょっと!!なんでぶっ刺しにいってんの!!』
いや、他に言葉が出てこなかったんだよ!!
「うん。ちょっと……と言うか全然ダメで……」
『ほら!さらに悲しそうな顔になっちゃったじゃない!!』
やばい!なんとかフォローしないと!
えーっと……えーっと……。
「ねえ、鏡夜くん!」
「は、はい!」
「も、もし、もしよかったら、応援合戦の練習に付き合ってくれたりとか……」
「いいっすよ!いいっすよ!オレでよければぜひ!やっぱ、バシッと決めて体育祭いい思い出にしたいっすもんね!」
「ありがと。今回は雷歌ちゃんにも頼れなかったから」
ああー。敵チームだしな。
しかし、思ってもみなかった展開が転がり込んできたな。
くじ引き分の帳尻がここで来たか!?
まぁ、瀬流津との秘密の練習がなくなった帳尻もここにきて戻ってきちまったんだが。
「じゃ、じゃあ、明日からで」
「わかりました」
今日からって言わないところが風歌先輩らしいな。
「ただい……まー」
またか。
オレが帰ると玄関にすでに見慣れた靴が置いてある。
オレはリビングへと直行する。
「今日は何の用だ、日菜?」
「別に」
『なんか不機嫌じゃない?』
みたいだな……。
彩夜と喧嘩したって感じではなさそうだな。
「アニキ、女の子をとっかえひっかえしてるってホント?」
は?彩夜はなに言ってんだ?
「いや。事実無根だけど」
「でも、いろんな女の子たちと仲良くしてるって……」
オレの学校の情報先なんて一つしかあるまい。
オレは日菜の方を見る。
「事実でしょ!今日は阿雲先輩たちと食事してたし、桔梗さんには勉強見てもらって、瀬流津さんの応援もしてたでしょ!それと村雨さん?その人とも仲良く話してるじゃない!」
「そうだけど、とっかえひっかえって表現はちげーだろ!
彩夜に余計なこと吹き込むなよな!」
「余計ってどういうこと!?彼女ができたら教えてくれるってアニキ言ったじゃん!!」
「いや、だからできてないって!なんなんだ急に二人して!」
「だって!……最近、アニキ帰り遅いし……帰ってきてもすぐ部屋行っちゃって出てこないし……話しかけても……」
ああ……そうか……。
ここんとこ攻略にばっかに頭がいってて彩夜の顔全然見てやれてなかった……。
彩夜に淋しい思いをさせないと決めたはずなのに、何やってんだオレは!
「ごめんな彩夜」
「別にいい。アニキが不良やってるって聞いたからちょっと心配になっただけ」
それも日菜の情報か……。
「なによ?迷惑ならもう来ないわ!」
「いや、そうじゃなくて……ありがとな、日菜。彩夜と一緒にいてくれて」
ミッションがある以上、今後も家にいられないことも多いだろうからな。
「また来てくれ!」
「そう……じゃあ、また来るから!」
相変わらず嵐のようだな。
「淋しい思いをさせてごめんな、彩夜!兄ちゃん日曜の体育祭は応援しに行くから!」
「別に淋しくないし、てか体育祭来なくていいって言ったでしょ!」
なっ……!?
そんなに来てほしくないのか……。
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