閑話 成金子爵殺人事件 ~犯人視点~
黄金郷で宝を手に入れたあと、俺は死んだ。
毒が入ったメシを食ったのだ。
どうせ死ぬんだから一か八かでその辺に生えてる草を食べまくったら、どうやら解毒作用があったらしく、なんかギリギリ生き延びた。
せっかく拾った、九死に一生。
当然使い道は――
復讐だよな!
世間的には俺は死んだ扱いだし、本当に死にかけたのでこの際すべてを捨てる。
若手一番の美男子なんて呼ばれた俺も、毒の所為で面影すらない。
しかし、これは好都合。
絶対にあの野郎――ハゴスに素性が知られないようにするため、俺は覚悟を決めた。
顔面を、焼いたのだ。
酷い傷病を
腫れ物扱いに自らなれば、根掘り葉掘り素性を調べられたりもしないはず。
少なくとも相手の心理的には難しい。
ついでに名前も変えよう。
そうだな……冒険者である俺は既に死んだ。ここからは復讐者、仮面のベツトリヌとして生きるとするか。
ハゴスは俺たちから奪った元手で成り上がり、いまやお貴族さまだ。
円滑に接触するためには、こっちもある程度の身分を整える必要がある。
……が、俺は元冒険者。
他にやれる仕事もないからと、肉体労働と荒事に明け暮れていた大馬鹿野郎だ。
いまさら学を付けるなんて無理筋もいいところで……待てよ?
冒険者の間に伝わる〝ガチ〟な噂話。
ギルドを介さないような闇商売を望むなら、砂漠の都市を訪ねてみろ――というわけでやってきました辺境伯領、大ナディア砂漠!
この中央に位置する
俺みたいな人間が経歴を
もちろん、無名過ぎちゃ使い潰されるのが関の山。
だから俺は働いた。
荒くれどもと乱闘に勤しみ、
そしてある日、ついに打診が来る。
〝結社〟を名乗った奴らは、驚くべきことに俺が復讐したい相手を知っていた。
そしてどうやら、ハゴスは〝結社〟にとっても
〝結社〟は俺に協力してくれた。
莫大な資金と人脈を援助してもらい、商会を一つ立ち上げる。
だが、付け焼き刃なんてすぐにバレるし、金満家に成り上がったぐらいでハゴスと接点が持てる訳がねぇ!
俺は再び働いた。
がむしゃらに、一生懸命に働いた。
やったことのない商売を、〝結社〟の家庭教師に指導してもらいながら必死に覚えて、ない知恵を絞っていくつもの商談を成功させて。
商談の中には、ときに地獄みたいな落とし穴があって、大損失を出したこともあったけれど。
いまじゃ従業員を100人以上構え、王都にも支店を出す一大商社だ。
あとは羽振りをひたすらよくして、待てばよかった。
あいつが人を集めていることは知っていたから。
そして、待望のお誘いがやってくる。
ハゴスが俺を招待したのだ。
なにが、自分のサロンへ参加しないかだ。本当ならそのお願いを蹴り飛ばしてやりたいが、ここは我慢の子。
商会を立ち上げたときから、ハゴスのことは調べていた。
奇遇なことに、やつは俺と同じで氷がダメらしい。
俺も毒にやられて以来、冷たいものが身体を焼くようで無理になっていた。
……冷たいもの、氷、毒。
その時、俺の中で確かにひとつながりになるものがあったんだ。
氷に毒を仕込み、やつの宴席で客人だけが死ぬように仕向ければ……あいつの過去の悪事も全て露見するんじゃないか……?
思いついてしまったら、もう止められなかった。
無関係な人間を巻き込むことには抵抗があったが、絶対に死ぬと限ったわけじゃない。
蘇生魔術が間に合うかもしれないからと自分に言い聞かせた。
〝結社〟から毒を都合してもらい、ハゴスの周りにいた老魔術師を買収し氷をすり替えた。
……ただ、どこかでやつと同じことをする自分が許せなくて、毒の量を減らすことにした。
ちょっと痛い目に遭ってくれればいい、そんな気持ちになりつつあったんだ。
けれど本番で、ハゴスが死んだ。
あいつの杯には毒なんて入れていなかったし、仮に入っていたとしても死ぬほどの量じゃなかったはずなのに。
思えば、このときに俺の作戦は崩壊し、復讐は
その場に居合わせた
おまけに俺が大馬鹿野郎だってことも突きつけられたんだ。
ハゴスは誰も殺しちゃいなかった。
だってよ、あの日メシは全員で作ったんだ。
凱旋するから、少しでも景気をよくしようってその辺の草を入れたのは俺たち自身で――
ああ、いまなら解る。
ハゴスは無傷で生き延びたわけじゃない。
俺と同じように毒に侵され、それでもポーションによる解毒が間に合って助かったんだろう。
だから冒険者ギルドで、安くポーションや道具を仕入れられるようにしたかったんだ。
悲劇の芽を、未然に摘み取るために。
つーわけで、完敗さ。
あのお嬢さんにじゃないぜ?
俺はハゴスに、人間としての器の大きさで負けたんだ。
……え? それでももし、あのお嬢さんを出しぬこうと思うならか?
うーん……俺は動機でバレちまったし、なんでそんなことやったかわかんないって事件なら、出し抜けるんじゃないか?
それより俺はハゴスの志を
罪を
絶対に出来るさ。
だって俺は――幸運な男なんだからな!
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