第73話 お気に入りの街

 結局、あれから10分弱もの間、如何に俺の事を好きなのかを熱弁された。

 ツグミの人気ぶりは知ってたつもりだったけど、まさかここまでとは思ってなかったぞ。



「ツグミ、大丈夫、ます?」

「あ、ああ。ちょっと疲れたけど」



 魔法少女の姿じゃないし、サングラスを掛けてたからバレないと思ったんだけどな。重度のファンの前では、その程度じゃ無力らしい。

 しばらく人目を避けながらその辺を散歩していると、段々と人通りが多くなってきた。そろそろ通勤の人たちが家を出る時間らしい。



「リーファ、そろそろ帰ろうか。このままじゃもっと人が多くなるから」

「もっと外を見たい、ます」



 そんなことを言われても、俺たち2人が揃ってると目立つんだよ。主に美貌的に。自意識過剰じゃなくて、美少女だからな。



「なら、行きたい場所はないか? ミケにゃんの動画、いろいろ見たんだろ?」

「行きたい場所……?」



 うーん、うーんと首を傾げるリーファ。

 少し待ってると、ぴこんとフードの中の耳が動いた。



「みなとの町を見たい、ます」

「港の町?」

「ます。みらいの町、です」



 ……港の町で、未来の町? 何言って……あ。



「もしかして、みなとみらいに行きたいのか?」

「! そう、みなとみらい、ます!」



 ああ、なるほど。確かにミケにゃんって、よくみなとみらいに行ってるイメージがある。

 あそこなら観光地としても申し分ないし、ここからも割と近い。行けない距離じゃないな。



「よし、行くか。リーファ、しっかり掴まってろよ」

「ますっ」



 リーファを抱き寄せると、しっかりと首にしがみついて来た。添い寝するようになってから、なんか距離が近いんだよなぁ。俺もこれが当たり前と思ってる節があるし……気をつけねば。

 軽くジャンプをして、近くのマンションの屋上まで跳び上がる。方向を確認してから、マンションとマンションの間をジャンプで移動した。



「ツグミ。ミケにゃん、みなとみらいにいる、ます?」

「さあ、それはわからないな……」



 ミケにゃんは魔法少女としての仮の姿。その正体である陽乃瀬美々ひのせみみは、ギャル可愛い普通の高校生だ。今日も平日だし、学校に行ってるだろう。……サボっていなければ。



「ミケにゃん、会ってみたい、ます」

「すっかり推しだな」

「おし?」

「好きって意味だ」

「好き……うん、好き、ます。でもリーファ、ツグミが1番好き、ます。おし、です」



 そんな真っ直ぐに好きって言われると照れるからやめれ。

 気恥ずかしくなり、誤魔化すように頬を掻く。



「あー……こ、今度紹介してやろうか、ミケにゃん。俺、あの子と知り合いだから」

「ほんと、ますっ? ツグミすごい、ですっ」



 リーファは目をキラキラさせて、期待マックスの目を向けてきた。

 ぶっちゃけ、あまりツグミの姿で会いたくない。また厄介限界オタク化されるだろうし。かと言って、継武の姿になったらリーファが嫌がるからなぁ。



「ま、タイミングが合ったらな」

「あいっ。楽しみにしてる、ますっ」






 そのまま移動すること5分ちょっと。みなとみらいの街並みが見えてきた。

 軽くランドマークタワーの屋上まで駆け上がり、リーファを下ろす。さすがに風は強く、少し肌寒かった。



「リーファ、寒くないか?」

「ます。リーファ、風とお友達、ます。寒くない、です」



 よく見ると、俺の髪は風で靡いてるのに、リーファの髪は微動だにしていなかった。

 そういや、リーファって風の魔法を使ってたな。もしかして風の影響を受けない、とか? それめっちゃ便利だな。

 リーファは俺の手を握り、屋上の縁から眼下に視線をやった。



「どうだ? これがリーファの見たかった、みなとみらいの街並みだぞ」



 巨大なビルが立ち並び、それらと共存するような歴史的建造物も多数ある。

 それだけじゃなく、観光地として名高い横浜中華街や遊園地もあり、心躍るものが目に飛び込んできた。



「すごすぎる、ます……」



 気持ちが高揚しているのか、リーファは頬を上気させ、自分の胸を抑える。



「向こうの記憶はない、ます。でも……リーファ、これ以上のものを知らない、です……!」

「……そうかい。そりゃあ何よりだ」



 俺もこの街は好きだ。いつ来てもワクワクする。

 自分のお気に入りを褒められると、こっちまで嬉しくなるな。



「それじゃ、早速街を歩こうか」

「あいっ!」



 再びリーファを抱きかかえ、危なくないよう最大限注意を払いつつ、屋上から地上に向かって飛び降りて行った。

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