第34話 陸上部よりも文化部が多い2組の選手
『それではこれより、クラス対抗リレーを始めます!』
放送からまた声がする。リレーは任意なのがありがたい所。
「もうそろそろ始まるですね」
「ああ、そうだな」
「光雪学園の体育祭のリレーは凄く盛り上がるらしいので楽しみです」
「そうなのか、初耳だ」
俺と胡桃はリレーの集合場所から少し離れたところにあったベンチへ座って競技開始を待つ。……ん? あそこのレーン……確か2組だったよな……?
「速そうなやつらがわんさか居るな。……あれ? あの男子、確かバレー部じゃなかったか?」
「あの人は陸上部です」
「え、嘘だろ」
マジで? 俺この約2ヶ月くらいずっと勘違いしていたってことやん。
驚愕に目を見開いている俺を見て胡桃は呆れたような目を向けてきた。痛い、その視線が痛い。
「まさかクラスメートの情報も覚えて無いですか? それはやばいです」
「……耳が痛いです」
「他のクラスである私が知っているのに何故お前は知らないですか?」
「い、いや……え〜と」
これは胡桃がおかしいよね? 俺がおかしいんじゃないよね? 普通はあまり話さないクラスメートの部活とか知らないよね?
俺が気まずさで視線を逸らすと、何故か不機嫌そうな冬奈と目が合った。……なんであいつ不機嫌そうなの?
3秒ほど経った後に冬奈はリレーに出場するだろう女子に話しかけられ、そちらに視線を移した。なんだったんだろ。
「お前は50m走何秒だったです?」
俺が先程の冬奈の事で少しだけ悩んでいると、隣から質問が飛んできた。リレー繋がりの話題か?
「随分と急だな。え〜と……7,3秒くらいだった気がする」
「……え、結構速いですね。もっと遅いと思ってたです」
「あまりにも失礼だなお前」
男子の平均くらいだと思うのだが……まあ前日に平均調べてたから間違いは無いと思うけど。
「お前は?」
「……聞かないで欲しいです」
「おいおい、お前から聞いて来たのにそれは無いだろ? お願いだ、教えてくれよ。気になるじゃん」
「……まあ、正論かもですね。仕方がないです。……10,59秒です」
「へ〜」
「そっちから聞いて来たのになんですかその反応は?!」
いや、聞いて来たのはそっちからだろ。興味無さそうにしたのは単純にその方が面白そうだったから。
『1年生の選手の皆さん! 自分のクラスのレーンへ並んでください!』
「お、来るか。冬奈と水初と泰晴がんばえ〜」
「こいつ、応援する気0です」
失敬な。俺のどこを見てそう判断したんだ。ただ背もたれに両手をかけ、ぐだぐだしていただけだと言うのに。……ん? あそこの石……。
「選手達が出て来たですね」
レーンを見てみると第1走者が気を引き締め、闘志に燃えていた。1人ずつ見ていくと見知った顔を発見する。
「へえ、最初から水初か」
「まあ、卯月水初さんはめちゃめちゃ速いですから」
「50mは7,4秒くらいだったか。あいつ、やばいよな」
だが、それよりもやばい人が居る。……もう勘づいている人も居るかな?
「流石に関わりのある人のタイムは覚えているですか」
「お前俺の事舐め過ぎだろ! ……え〜と、アンカーは……」
「あ、冬奈さんです! 頑張ってです〜! 応援しているです〜!」
「急にテンション上がるじゃん。……まあ、アンカーは妥当か。確か6,8秒切ってるもんな」
「同じ人間とは思えないです」
両親から受け継いだ才能に驕らず努力を重ねた結果だろう。その努力の理由は少し他人とは違うかもしれないが能力無しであれはやばい。
泰晴を探してみると多分あの位置なら第3走者だろう。選手は全5人なので真ん中だ。第2走者は……
「佐奈田裕里、か。あいつ足速かったんだな」
「私もわからないです。まあ、リレーに出たいと希望を出すのなら速いとは思うですね」
佐奈田裕里は隣の別のクラスの女子生徒と笑顔で話している。……ほんと、前に泰晴達と相対していたやつと別人のように思えてくるな。
『行きま〜す! ——on your mark』
「……体育祭にしては随分と本格的だな」
「陸上の大会みたいです」
流石にクラウチング・スタートはしていないが雰囲気はかなり近いと思う。選手達の緊張が空気を通して俺達にも伝わる。
……全く関係無いんだけどさ。on your markってめっちゃネイティブだとオニヤンマ〜って聞こえない? 俺だけ?
『set——go!』
次の瞬間、選手が一斉に走り出す。先頭は水初。その後ろに1組、3組と並ぶ。
帰宅部とは思えないほどの速さで水初は2位の1組をどんどんと離していく。……良かった、つまづいてないな。
かなりの距離を離したまま第2走者の佐奈田裕里へ。少し後に1組、3組も第2走者へバトンを渡す。佐奈田裕里も中々速く、1組と差は縮んだかもしれないがそれでもまだ1位は揺るがない。第2走者はそのまま第3走者の泰晴へ。
泰晴も帰宅部だが、水初と同じくかなり速い。それでも——
「……差が縮まって来たな」
「ですね。3組も私達1組と同じ最後の方に陸上部などの足が速い人達を固めて巻き返す作戦ですか」
あの陸上部の男子がどれくらい速いかはわからないがこのままじゃ逆転も十分にあり得るぞ。それにしても女子3人、男子2人の5人までと言う条件が付いていルらしいがこの条件でも盛り上がってるっぽいのが凄い所だな。
「頼むぞ!」
「おう!」
泰晴がバレー部の男子へバトンを渡す。一応まだ差はあるが……。
その男子も陸上部なだけあって中々速い。縮まった距離がまた少しずつ離れていく。——そこは駄目だ!
「おい、危ないぞ!」
「よし、このまま……! ——おわっ!」
俺の声は会場の歓声に消されて聞こえず、あの男子は石につまづき、転んでしまったのだった。
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