第8話 怪盗ノットの流儀

 七つ道具の一つ・カプセルバッグと言って、モノの持ち運びがラクチンになる道具だ。

 ジュニアスパイとしてデビューするとき、七つ道具は五朗のおじさんから渡された。

 ミッションのために渡されたものだけど、これは母さんが開発したものなんだ。



「うわー……いっぱいある」



 ルーフバルコニーに転がった、数十個ほどあるドッチボールにげんなりする。



「それだけ子どもたちを『ロボット』にしたいってことでしょ?」



 五朗のおじさんは小首をかしげて、当たり前のように言った。



「見てごらん。このドッチボールに、小さな『ロボチップ』がつけられてる」


「ホントだ」



 五朗のおじさんが指さした部分には、一センチよりも小さな、筒のようなものがあった。

 それは、『ロボチップ』と呼ばれるマイクロチップだ。

 これこそがジュニアスパイの仮の姿である、怪盗ノットが盗む目的のものだ。



「いつも思うけど、こんなマイクロチップで子どもが『ロボット』になるのかな?」


「なるんだなーコレが。ロボチップで『ロボット』にされた子どもは、カンタンにコントロールできる。言うことを聞く、カワイイお人形の完成だ」


「お人形って……おれたち子どもは大人のモノじゃないのに」


「大人より子どもの方がコントロールしやすいからね。だから、子どもが狙われる」


「子どもを狙うから、おれたちにとって身近なものに、ロボチップがくっついているんだな」


「そう。ロボチップがついているものを使い続けると『ロボット』になるからね」



 こんな小さなものが、おれたち子どもをロボットにするのか。ホント、ぞっとするよ。



「コントロールするってことは、オレらの未来を勝手に誰かが決める、ってことだろ?」


「そう。怜音の言う通り、それが世界管理機構EDENの目的だよ」


「ひでーな」


「将来をつぶすなんて、ホント悪趣味。俺たち国際共創組織CREOの敵だね」



 おじさんは吐き捨てるように言った。



「ま、おれたちジュニアスパイが阻止するけどね!」


「だな」



 おれが元気よく宣言すれば、怜音が肩をぽんとたたいて同意した。


 おれたち双子は、国際共創組織CREOのジュニアスパイだ。

 子どもをロボットにするロボチップを見つけ、破壊するミッションをやっている。

 おれたちはジュニアスパイのため、EDENに見つからないように、こっそりとミッションをやりとげなきゃいけない。


 だから、ミッションを成功させるために、おれたちは『怪盗ノット』になっているのだ。



「さてと、仕事を進めようか。今日はこのドッチボールのロボチップを破壊しよう」


「はーい」



 げげげな数だけど、これも立派なジュニアスパイの仕事だ。



「じゃあ、クラッシュペンを使うよ」



 五朗のおじさんがクラッシュペンを取り出し、おれたちはそれを手に取った。

 クラッシュペンは七つ道具の一つで、ロボチップを破壊できるツールなんだ。

 おれは転がっているドッチボールの一つを手に持った。



「どこにあるかな、ロボチップ……」



 小さいからよく見ないと、見落としてしまう。



「お、あった、あった」



 手にしたクラッシュペンのスイッチを入れ、見つけたロボチップに、赤い光をあてた。

 瞬間、シューっと音を立ててボロボロに崩れた。いつもこうやって破壊しているんだ。

 今回は数が多くて、メンドクセーって思うけど、それをいくつもこなしていく。



「手慣れたもんだね、二人とも。頼もしいね。きっと紗弥加も心強く思ってるよ」



 おれの手元をのぞきこみながら、五朗のおじさんがぽつりと言った。

 紗弥加っていうのは、おれたち双子の母さん、神木紗弥加(かみきさやか)のことだ。



「母さん大丈夫かな……少しでも早く、一緒に住めるようになるのかな?」


「二人の頑張り次第でしょ。ロボチップを破壊しまくったら、紗弥加の仕事も、EDENから命を狙われることも減るんだから」


「なくなるんじゃなくて、減るぐらいなんだ?」


「俺の妹様は天才科学者だからね。残念だけど、なくなりはしないんじゃない?」



 天才科学者である神木紗弥加は、EDENに命を狙われている。

 おれが小学三年生の時に、おれたち双子の目の前で、銃で撃たれた。

 その時は運よく助かった。

 だけど、まだまだ狙われているから、今はCREOの本部に身を隠しているんだ。



「……母さん、かわいそう」



 おれがぽつりとつぶやいた。

 すると、ぶほっ、と五朗のおじさんが吹き出し、げらげら笑い出した。



「いろんな意味で天才な紗弥加は、かわいそうって言われるキャラじゃないよ。いやー、君たちホントにいい子だね~」



 五朗のおじさんはおれたちの頭をわしゃわしゃと撫でた。



「やめろっ、髪がぐちゃぐちゃになるだろ!」


「小さい子どもじゃねーし!」



 おれたちが口々に文句を言っても、五朗のおじさんはやめなかった。



「大丈夫、きっとまた一緒に住めるよ。さ、続き続き! それが終わったら、ドッチボールを学校に返却するからね」



「うわぁ、メンドクセー!!」



 怪盗ノットの目的は『ロボチップ』であって、今回盗んだドッチボールじゃない。

 だから、怪盗ノットはそっと盗んだものを返すんだ。


『盗む』→『破壊する』→『返す』


 めんどくさいけど、これが怪盗ノットの流儀ってヤツ。




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