第28話 正宗、ワイバーンをギルドへ持ち込む

 三人でギルドの受付に到着する。


「え? Eランクの方が一人でワイバーンを討伐? 姫様、お戯れがお上手でいらっしゃいますね」


 フランがクエストの結果を職員に伝えたが、職員は笑って取り合おうとしない。


「姫様やアスタチナ様のようにSランクやAランクのお方ならともかく、Eランクの冒険者が一人でワイバーンを討伐なんて聞いたことがありません」


 そりゃそうだわな。幕下力士が大関倒すようなもんだわ。いや、そもそも幕下力士は大関と対戦しないか。


「ええと、すいません」


 受付のお姉さんに声をかける。


「クエストで討伐した獲物はどこに出すのでしょうか?」

「そこの台の上に置いて下さい」


 受付のお姉さんは目を合わせることもなく台を指差して事務的に答える。

 ディメンジョントランクから出したワイバーンを台の上にそっと置くが、


 バキッバキッ! グシャッ! ドドーン!


 巨大なワイバーンを載せられた台が一瞬で轟音とともにひしゃげ、ワイバーンの死骸が床に横たわり、床に血が流れ始める。

 ギルドの職員や他の冒険者が何事かと振り向いた先には、10メートルをゆうに超えるミンチ寸前になったワイバーンの死骸というか元ワイバーンの肉の塊が見えたものだから、ギルドの中は大騒ぎになった。


「えぇえぇえ?! これワイバーンですよね! 頭が半分ありませんし、翼も片方しかありませんが。ちょっと確認させてください!」


 ギルドの職員が顔面蒼白になり慌てふためいている。

 ほかの職員もわらわらと駆け寄ってくる。

 他の冒険者は「おい! ワイバーンが持ち込まれたぞ!」と電話で連絡している者や、仲間を呼びに行く者などてんやわんや状態になった。


 騒ぎを聞きつけたギルドマスターのジークフリード・クロプシュトックが駆けつけてくる。


「おお! クロプシュトック。先日は世話になったの」

「あら、ジーク、お久しぶりね。お元気かしらぁ」


アスタはギルマスと顔見知りの様だ。


「姫様、アスタチナ様、ご機嫌麗しゅう。一体何の騒ぎでございま……え? これは?」


 ギルマスは目の前にある獲物に言葉を失った。


「姫様、ワイバーンを討ち取られたのですか? いや、姫様とアスタチナ様であれば何ということはないでしょうが」

「いや、正宗が討ち取ったのじゃ。妾とアスタは見ておっただけじゃぞ。とりあえず、ワイバーン討伐はBランク以上が1名以上いるパーティーであればよいとの条件じゃったからの。妾とアスタでクエストを受けて、一緒に来た正宗に取らせたのじゃ」

「そうですわよぉ。今まで見たことのない魔法で、あっという間にですわぁ」


 アスタってそんなに強いのか? いや確かにヴァンパイアだから魔力は相当なものだろうけど、ギルドマスター自らワイバーン討伐が「何ということはない」って何よ?

 可愛い顔してお兄ちゃん怖いです。

 でもそのギャップがたまりません! お兄ちゃん、ギャップ萌えで逝きそうです!  


「ギルマス、やはりワイバーンですね。確認が取れました」


 ギルド職員の確認報告を受けたギルマスが俺をバンバンたたく。


「紀伊さん、Eランクの冒険者がワイバーンを討伐したのはギルドの歴史で君が初めてだ! おめでとう! ワハハ!」


ギルマス、痛いんですけど。


「それでは、紀伊正宗様、ギルドカードをお願いします」


 それを聞いた周りの冒険者からはどよめきと喝采の声がでる。


「おい! あんちゃん! キイマサムネとか言ったな! すげえな!」

「マサムネ? だっけ。あんた何者だい? まあよ、なんでもいいけど、すげえな!  ヒュー!」


 返ってきたギルドカードを見ると、緑だったカードが青色に代わっていた。


「あれ? 色が変わっていますが」

「はい、ワイバーンを討伐されましたので、ランクがEからDへ上がりました。あとワイバーンスレイヤーの称号も入っております。それで、本来の報酬は200万クレジットですが肉の部位が相当ダメージを受けておりまして、またその他有益な部分も欠損しており、価値が大幅に下がってしまいまして、大変申し訳ありませんが、50万クレジットになりました。こちらもカードに入金しております」

「あんちゃんよ! 残念だったな。けどよ、あそこまでワイバーンをボコボコにするやつは初めて見たぜ! まあ次はうまくいくさ!」


 見ず知らずの冒険者が俺に声をかけてくる。


「いや、命あっての物種ですよ。今回は運が良かっただけですからね」

「すげえ賞金だな! 一杯奢れや! ワハハハ! 冗談冗談! まあ、とにかくおめでとう!」


 モヒカン頭の冒険者が背中をバンバン叩きながら大笑いしている。


 そうだ、せっかくギルドに来たんだから、ギルド酒場ってのも見てみたいな。

 そうだよ! ギルドといえば荒くれ物の冒険者が集う酒場だよ。

 RPGの世界が俺の目の前に、いや俺がその世界にいるんだよ!  

 フランとアスタにギルドでランチ食べていかないかと誘う。


「うむ。それもよかろう。アスタお主もよいか?」

「もちろんですわぁ。あとでお兄様から頂ますけどぉ。うふっ」


 アスタが舌なめずりをしている。ああ、そうか、アスタの食事は俺なんだよな。

 ん? 俺ってアスタの食糧? 


 と言うことは、「お兄ちゃんはぁ、アスタ専用なんだからねっ。うふふっ」って言われて、か細く白い腕で抱き着かれて、かわいい口と牙で「はむっ ちゅー」って噛まれるってことですか!?  

 ビバ妹! ビバ美少女ヴァンパイア! ウェエエィイ!  

 

 頭の妄想エンジンがフルスロットルで回り始める。


「お姉様ぁ、お兄様がまた変になっていますわよぉ」

「放っておけ。あやつにはつける薬がないのじゃ」


 二人がジト目で見てくるが、もう慣れた。



〜〜〜あとがき〜〜〜

この度は沢山の作品の中から拙作をお読み下さりありがとうございました。

もしよろしければフォロー、レビューをよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る