第20話 正宗、魔力測定でやらかす
「ぶはぁあー。やばかったぁああ。マジ死ぬかと思った。別の意味で」
「まったくじゃ。妾も顔から火が出るかと思うたわ」
フランの部屋から執事と侍女が退室した後、二人でベッドに倒れ込む。
「俺の両親に会う時といい、フランのご両親に会う時といい、なんでいつも綱渡りというかヒキが強いんだろう」
いや、綱渡りどころか、地雷原を歩いていると言うのが正解かも知れない。
自分のヒキの強さを実感する。
「何じゃ? そのヒキというのは?」
「ありえない確率で、とんでもないものを引き当てるということだよ。逆に欲しいものは2分の1でも外すことだよ」
ヒキの強さを皮肉交じりにフランに説明する。するとフランは単に運が悪いだけであろうと話すが、俺はフランを引き当てた時点で運がいいと話す。
「な……お主はこんな時にそんなこと言って。まったくもう」
フランの顔が真っ赤になっている。やはり可愛い。
「ところでフラン、魔法大学校って知っている?」
「知っておる。魔法の単科大学と思えばよい」
フランは実技と筆記の試験があることを教えてくれるが、ふと魔界の文字を知らないことに気が付く。
「こっちの文字はどんなのよ?」
フランが本棚から持ってきた本を見ると、本にはエルダールーン文字が記載されている。
エルダールーン、それは古代ルーン文字という魔力を封じ込めた文字で、使い手の持つ魔力により如何様にも魔力を発する文字である。
すでに失われた文字であり、一部の考古学者や占い師が知っている文字であった。
俺は占いにも興味があったのでルーン文字はすべて覚えていた。
「お主、エルダールーン文字を読めるのか?」
「フサルク(ルーン文字のアルファベット)は読める。でも言葉自体が古ノルド語という失われた言語だから、単語はわからない」
フランの持ってきた本の一部を読み始める。
「おお! 合っているのじゃ」
「不思議と単語も八洲語と変わらないな。でも知らない言葉もあるぞ」
「それは、妾が教えるのじゃ」
「たのむ。フラン」
すると、ドアをノックする音が聞こえ、執事長のアスタロトさんが入ってきた。
「失礼します。王女殿下、正宗様。国王陛下より魔法大学校の件でご説明に上がりました。お時間よろしいでしょうか」
「うむ。苦しゅうない」
「魔法大学校でございますが、入学の際に基礎能力試験がございます。筆記能力試験、魔力試験でございます。筆記は魔法知識、算術、理学、魔力は実技でございます。一か月後の4の月、週日1の日の朝9時からです。こちら、以前の筆記能力試験内容でございますので、お目通しくださるように」
そういうと、アスタロトさんは大学校のパンフレットと過去問題を渡してきた。
パンフレットでは在学期間は1年間と言う事だ。
この間にマジシャンとウィザードにならなければいけないということか?
「それでは何かございましたら、私アスタロトまで」
「ありがとう存じます。お手数をかけます」
執事長が部屋から出た後、過去問題とパンフレットに目を通し始める。
すると、算術は人間界の高校レベル、理学は錬金術や化学もあるが中学から高校レベルだった。
魔法知識に関しては、全く未知の分野だ。
そして、魔力検査の実技と書いているが、一体何をやるのだろうか?
「魔法の知識なら、妾の本棚に魔法大全があるから、それを読めばよいのじゃ。魔力検査の実技はよくわからぬ。とりあえず、基礎的な魔法の練習をするしかないのじゃ」
明日から勉強と魔法の練習が始まることになった。
フランが言うには、火水風土光闇の6属性のうち、どの属性が使えるかは検査する必要があり、さらに属性や魔力量があっても鍛えないと使い物にならないということだ。
また個人が有する無属性魔法と言うのもあり、これは自分でイメージして作っていくものらしい。
魔法の発動は基本的に詠唱、術式の記述、イメージのどれかがあればできるが、入学時の検査では3つとも必要かもしれないことから、自分が有する属性を調べ、基本的な魔法の発動をこの3つでできるようにしなければならず、さらに語学も勉強しなければならないという無理ゲーを強いられることになった。
「これ……本当に間に合うのか? 1か月しかないんだよ。こっちの1か月って何日?」
「人間界と同じじゃ」
マジかよ。本当に付け焼き刃じゃねえか。
これで落っこちたらシャレにならん。
「死ぬ気でやればなんとかなる! まずは魔法の適性を見てみることじゃな。練習場へ行くぞ」
俺の表情を見たフランが励ましてくれるが、死なぬし朽ちもせぬと言った御方はどちら様でしたっけ?
フランに連れられて練習場へと向かう。練習場は学校の体育館の程の大きさのドーム状の空間で、射撃場のようなエリア、体操競技をするようなエリア等々、まるで総合競技場のような作りになっている。
すると、数名の係員が駆け寄って来る。
「これはこれは王女殿下、ご機嫌麗しゅう。今日はどのようなご用件で。ここまでご足労賜りませんでも、御用がありましたらお呼びいただければ馳せ参じましたのに」
係員が
「いや、それには及ばぬ。忙しい所すまぬが、この者の魔力検査を行ってほしいのじゃ」
「かしこまりました。それでは……あの、王女殿下。お言葉ではございますが、この者いやこの方は、人間ではございませんでしょうか」
明らかに係員は狼狽している。そりゃそうだろう。魔族が住む魔界に人間が来ていれば誰だって驚く。
逆に人間界に魔族が来ていたら誰だって驚くいやパニックになるだろう。
「うむ。人間じゃ。いや正確に言えば元人間と言うべきじゃの。妾の血により眷属となっておる。見てくれは人間じゃがの」
「左様でございますか。大変失礼いたしました。それではあちらの部屋で検査致します」
係員の誘導で検査室らしき部屋に入るが、扉が閉まるや否や、係員の態度が先ほどとはうって変わってさげすむような眼で俺を見始める。
「おい! お前! 人間の分際でよくもまあここまで来られたもんだな。王女殿下のご依頼だから付き合ってやるようなものだぞ。まあ、魔力なんぞ
周りにいる数名の係員もニヤニヤとしながら蔑んだ目やドヤ顔でこちらを見ている。
まあ、コネで入社した社員への対応と同じだろう。実力もないのに入りやがってと思われても仕方がないか。
右腕の袖をめくり、差し出すと係員は腕に何やら血圧計のようなものを取り付けた。
「あの、これは何でしょうか」
「これはな、マジックテスターというものだ。お前から出る魔力と適性を計測するものだ。結果はここに出る」
係員が指をさした方向には、ホログラム投影装置があり、装置上に値が0を、6属性と思われる色が投影されている。
火水風土光闇なので、赤色、水色、青色、茶色、金色、黒色がそれぞれ対応しているのだろう、
「平均的にはどのような結果になるのですか? 」
「まあ、値的には魔導士で1,000、ウィザードで5,000ぐらいだな、属性を表す色は平均で3から4、極稀に5というのもあるな」
「全属性持っていることはあるのですか? 」
「陛下をはじめ王族は全員、貴族は半分ぐらいだ。それでは計測するからな」
係員が興味津々で見つめる中、スイッチが押され計測器が動き始めた。
一体どのくらいの魔力と適性があるのだろうか期待と不安の中ホログラムの数値が動き始め、色が点滅し始める。
「ビッ!」
ホログラムの装置から音が鳴ると同時に、数値がすべて消え色も現れなくなった。
「何で? 俺って魔力ないのか? 適性もなし?」
「ちょっと待て、装置が故障したのかもしれん。予備の装置に切り替える」
係員が予備の装置に切り替え、マジックテスターを装着しなおした。
「もう一度やるからな」
しかし、結果は全く同じだった。
「これは魔力がほとんど、いや全く無いということだな。適性も不明だ」
「検査終了だ。これが結果だ」
「魔力0の上に適性も無しなんて、前代未聞だぞ。やはり人間だな」
係員達の蔑んだ視線は
「正宗や、どうであった?」
「どうもこうも、まったく魔力なし。0点、適性もなし。これ、結果だよ」
がっくりと
「畏れながら、王女殿下。この方はやはり人間であったので、このような結果になったと推察されます」
フランの前では丁寧な言葉を使っているが、明らかに憐みの気持ちで報告している。
「そうか。わかったのじゃ。忙しいところ、大儀じゃったの」
「勿体ないお言葉でございます」
係員たちはフランに一礼をした後、俺を一瞥し持ち場へ戻っていく。
が、
「正宗や、次に行くぞ」
フランに袖を引っ張られる。
「え?魔力0なのに」
「よい。
フランに連れられたのは射撃場のような場所であった。
「あの計測結果は間違いじゃ。ディメンジョントランクを詠唱なしですぐに使い、念話もすぐに使える者が魔力0などとはあり得ぬわ。故障しているか壊れたのかもしれん」
フランの目は真剣そのものになっている。
「言われてみれば……」
「正宗、あそこの的があるじゃろう。あそこに向かって攻撃魔法を撃ってみよ。最大限の力でじゃ」
凡そ50メートル先を見ると、鎧の胴部だけのような的が複数並んでいる。あれが的か。
脇では数名が攻撃魔法の練習をしており、詠唱が聞こえ、火の玉や雷が掌から次々と的に放たれている。
が、的が傷つくことはなかった。おそらく初心者なのだろうか。
「どんな魔法があるの?」
「そうじゃのう、お主の頭の中のイメージによる。お主の世界で見たアニメというやつで考えてみればよい。敵に対して攻撃するアニメのシーンを思い浮かべ、集中するのじゃ」
「わかった。ダメもとでやってみる」
敵に対しての攻撃か。うーん、よしあれだ!
某アニメの1シーンを思い浮かべ、右手首を左手で持ち意識を集中する。
「おい、あの男、姫様と射撃場にいるぜ。何をやるつもりだ? 魔力も適性もないくせしてな」
「全くだ。姫様も物好きだな」
「何も出ないほうに、百クレジットかける」
「おい、それじゃ賭けが成立しねーじゃんか」
「あ、そりゃそうだ! わははは!」
俺を検査した係員たちの冷笑が後ろから聞こえてくる。
集中しろ、イメージ……イメージ。
目をつぶり、
心臓から魔力が左腕を通して右手に伝わり始め、掌が熱くなり始める。
パッと目を開け、標的に照準を合わせる。
「よし! 行けぇええ! 」
同時に右手に充填された魔力が放たれる。
カッ! バーン! バリバリバリバリ! グワワァアア!
瞬間、猛烈な光が周囲を襲うと同時に落雷のような爆音が発せられ、青白いビームが周りの空気をつんざきながらバリバリと轟音を立てて的に向かっていく。
的に当たる手前でビームの先端が分裂し、目標の的と周りの複数の的を
パンデモニウムの外に射出されたビームが街並みの上空へ吸い込まれた瞬間
ピカッ! ゴォオオオオ!!
眩い閃光と共に青白い火球が現れ、大爆発を起こす。
ヒュン! バーン!
爆発の後に出たソニックブーム(衝撃波)が地上に届くや否や、あちこちでガラスの割れる音がする。
「ハゥア!? なんだあいつ? 練習場ぶっ壊したぞ。あそこの壁は攻撃魔法用に魔力障壁で防護してんだぞ」
「ありえねえ。何だありゃ? あんな攻撃魔法初めて見たぞ! おい、本当に計測したんだろ? 0だったんだろ? 適性なかったんだろ!」
冷笑していた係員たちが鼻水を垂らして真っ青になっている。
横のレーンで攻撃魔法の練習をしていた練習生の目と口は完全にポカーン状態になっている。
「おい? パンデモニウムで何が起きた?」
「何かわからんが、壁がぶっ壊れて、青白い光が飛んで行ったと思ったら上で爆発したぞ」
「事件か? 事故か?」
街中で通行者が上を見上げ大騒ぎになり、そこに衝撃波が到達する。
「バーン!」という音と共に、あちこちのガラスが「ボーン!」と大きな音を出して割れて地上へと落下していく。
「危ない! 逃げろ!」
「きゃああ!」
地上の通行人は、魔法障壁を自分や家族らしきものに張り巡らせガラスの破片から身を守っている。
「へ? 何? 何事? あの、これって? イメージ通りだけど……」
壁に大穴をぶち開けるという予想外の状況が目の前で起き、ついていけなくなっている。
やばい……俺、逮捕されちゃう? それとも弁償と称して地獄でひたすらただ働きか? 直すにもお金ないし……どうしよう。
冷や汗を出しながら恐る恐るフランの方を見ると、フランもポカーン状態になっていた。
「おい……正宗や。お主一体何をイメージした? このような攻撃魔法初めて見たぞ」
フランも冷や汗をかいている。
「いや、その、フランの言った通り、アニメで敵に攻撃するシーンを思い浮かべて……」
「そうではなく、具体的に何をイメージしたのじゃ?」
「えっと、あの、星間戦争のアニメにでてくる、ブラックホールクラスの重力で爆縮したエネルギーを一方向に一挙に放出して、敵を素粒子段階まで分解する宇宙戦艦用の兵器をイメージして……」
フランは額に手を当て
「ふう……何を言っておるかよくわからぬが、異世界の者の知恵や知識は侮れんわい。しかし何という魔力量じゃ。お主、後先のこと考えぬのか?」
「まさかこんなになるとは想像もつかなかった。俺自身、何が起こったかわからん」
「フラン! 正宗君! 大丈夫か!」
フランのご両親が駆け寄ってくる。
執務室で仕事をしていたところ爆発音と振動があり、練習場で事故があったとの一報が入ったらしい。
フランと俺がいることを知るや否や飛んできたとのこと。
「お義父様お義母様、本当に申し訳ございません! すべて私の責任です!」
ピョーン、ビッターン!
人生最大のジャンピング土下座をお義父さんとお義母さんに披露する。
「いったい何があったのかね」
計測結果を見せながら、分かる範囲で事の顛末をすべて話し始める。
「そうか。フラン! 儂が言うた事を忘れたのか?」
説明を聞いたお義父さんがフランに問いただす。
「魔力の使い方が全然できていないのじゃろ? 魔力量も適性も判らぬから調べただけじゃが、何かいけなかったのか? 」
「魔力量はアークウィザードを凌ぐほどあると言うたであろうが。だから使い方、つまり制御がうまくできていないと言うことじゃ。見事に暴走させおってからに。儂の説明の仕方も悪かったかも知れぬが」
その言葉にハッとしたフランは自分の理解不足を認識する。
「父上、申し訳ない。妾の理解不足じゃった」
「よい、やってしもうたことは仕方ない。まずは壁の修復じゃの」
お義父さんが壁の方を向き右手を一振りするや否や、消滅したはずの壁が一瞬で元に戻る。
「す、すごい!」
お義父さんの魔法を目の当たりにし、思わず声を出してしまう。
「こんなもの儂にとっては児戯に等しい。アスタロト!」
どこからともなく執事長のアスタロトさんが姿を現す。
「アスタロト、御身の前に」
「被害を調査し必要な対応を行え。詳細は各部隊に任せる。報告をさせよ。良いな」
「御意」
そういうとアスタロトさんはすっと姿を消した。
「正宗さん。お怪我はありませんか?」
リリスが心配そうに尋ねてくれる。
「はい。大丈夫です。フランも大丈夫です。ただ、外にいる方々に怪我がないか、被害がないか心配です。知らぬこととはいえ、大事な建物を壊してしまい、またご心配をかけてしまい、本当に申し訳ございません!」
額を床にこすりつけ、アクセル全開の土下座で答える。
「仕方ないわよね。何も知らないのに、あの結果を見せられたらね。でもおかしいわね」
お義母さんが係員を呼び、
「正宗さんの検査、どうやったのかしら」
と問いただす。
係員は王妃から直接問いただされ、顔面蒼白になっている。リーダー格の係員が検査方法は決められたとおりに実施し問題ないことを説明した。
「そのマジックテスター一式、すぐに検査しなさい」
「御意!」
係員たちは検査室へ蜘蛛の子を散らすように去っていった。
「さてと、正宗君や」
お義父さんが声をかけてくる。
「は……はい」
やばい! 終わった!
「とりあえず今日は休みなさい。フランの部屋の隣に君の部屋を用意してある。フラン、正宗君を連れて行ってあげなさい。それと正宗君、いい加減に頭を上げなさい。こっちが苦しい」
「はい」
ずっと土下座しっぱなしで、額は真っ赤になっていた。
「まずは魔力制御から訓練しなさい。それと、本気で射撃する時には郊外に屋外演習場があるからそこを使うとよい。フラン、後は頼むぞ」
「正宗さん、気にしないでくださいね」
「ありがとうございます。本当にご迷惑をおかけしました」
〜〜〜あとがき〜〜〜
この度は沢山の作品の中から拙作をお読み下さりありがとうございました。
もしよろしければフォロー、レビューをよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます