Ⅲ年 「選任」 (4)発足式
【ここまでの粗筋】
主人公「駿河轟」は「応援団」に所属する中学三年生。
漸く辿り着いた団活動の幹部としての役職決めが始まるなか、気になる同期「ヨーサン」との交流で得たイメージを基に、「ベーデ」にも背中を押される形で団長に就任。
これまで「流される」ことに身を任せてきた駿河は、大役を果たすことができるのか。
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通常、団長は運動会では応援指導に入らない。
団長は学校統合の象徴であって、両軍(臙脂、白)に分かれて争うことには与しない、という理由だ。
ただ、クラス入りの応援指導で、イチが休んで
当日の朝、デンが現れ、神妙な面持ちで言った。
「あのね、あの
「あ、そう。そりゃ、良いねぇ。学生注目(話術で一般生徒を煽ること)のネタが浮かぶわ。デンと同じくらい立派な体型か?」
デンは公言値で身長が170センチある。実際にはもう少しあるらしかった。新人の時は女子の中でも頭二つ飛び出るくらいの大きさだった。小さいときから柔道をやっているという身体は、がっしりとしていて、今でも僕らより背は高く、その健康的な体型は他の中学校の男子団員と並んでも決して見劣りがしない。
「否々、本っ当に勘弁して、もうっ!」
「あはは、分かったって。」
この場に居た二年前の自分を思い出しながら、成る
運動会の当日は、放送局の席で、久しぶりに応援を客観的に見た。今、応援指導を外れて此処に居るということは、これからの判断力に相応の目を求められるということでもあった。運動会は、ヤーサンとタイサンが
後日、幹部就任記念と運動会の成功祝いをしようというコーコの発案で、同期全員がコーコのお家に招待された。
新年度には、三年と二年に、簡単な茶会を開くだけの予算がある。これに行事の開催をした委員(応援団も委員扱い)に出る「弁当」代を加え、運動会終了後に学年毎で懇親会を開くのが通例だった。
例年ならば、団室等学校内で開催するのだが、コーコのお家は日本橋にある老舗の呉服屋。本人曰く、それはそれは広い座敷があるというので、お言葉に甘えて、お邪魔することにした。
いざ、十四人で訪れた其処は、三十畳以上はある大広間が二間続きで開かれ、既にお膳が並べられ、まさに「宴席」という光景になっていた。
「…ねえ、
どう見ても不安になり、
「えっとね、今日のためってことで、
カーチャンは、帳簿を睨んだ儘、指を出す。
「ゲッ! それって
「そう。あとねぇ~、
カーチャンの指が上がった。
「あらら…。コリャ、後で相応の御礼に行かないとなぁ…。それに先生方、何で此処に見えてないの? 許可取る時に声かけたんだろう?」
「まあ、監督が目的だから昼間の席なら一緒には居なくていいだろうって。
カーチャンは、さらりと言ってのけた。
「…ハイ…。あと、これ、誰が用意して呉れたの? 団員はちゃんと手伝った?」
「はーい、皆が来る前に終わりましたー。」
コーコが横で囁いた。
「出入りの仕出し屋さんがあって準備までしてくださるということだったから、これでお願いしますって、事前に
と、またカーチャン。
「あちゃー…。これぁ、とんだ迷惑の掛けっ放しだな。」
「
「良いよぉ。此方。」
廊下が縦横に交差する迷路のような屋敷の中を通り、コーコのお母さんに紹介された。
「すみません、ご挨拶が遅くなって。団長の駿河です。此の度は、大人数で押し掛けて、また大変なご迷惑をおかけして、申し訳ありません。」
「あ~ら、駿河さん、普段亮子がお世話になっていて。お話し伺っているんですよ。良いんですよ、うちの方はね、何、いつだって何かしらで寄り合いとかお膳出して宴会するのは慣れてますから。それに今回は仕出しでしょ、十四人分くらいならちょいちょいですよ。どうぞ、気にしないで、楽しんでいらっしゃって下さいな。」
「本当に有り難う御座居ます。後の片付けは、きちんと皆でやりますから。」
「あらあら、良いんですって。真田さんからお預かりしたもので、もう全部揃いましたから、お片付けもなくて。他は後で真田さんにきちんとしておきますから。」
「羽目が外れるようなことは無いように気を付けますが、目に余ることがあれば、いつでも叱ってください。」
「いやですよぉ。今日の宴会の主役は駿河さんたちなんだから、楽しんでって下さいな。」
「有り難う御座居ます。では、お言葉に甘えて。失礼します。」
緊張して挨拶を済ませ、コーコにまた案内して貰って、座敷に戻った。
「じゃあ、みんな揃ったかな」
企画責任者のケーテンが、見回して確認した。
「今日は、内村亮子さんのお宅の全面的なご協力と、片淵先生、華和先生、辻先生からのお心付けで、幹部就任会兼運動会打ち上げを行うことが出来ました。じゃあ、団長から一言。」
「俺が言うのはこれだけ。 良い? 絶対部屋を汚すなよ! こぼしたらタコ殴りだからな! それを前提としてだ、折角一年の
「では、乾杯は、男子副団長の長崎君に。」
「じゃ、もう五月も半ばを超えたけれど、今後の活動の成功を祈念して。ご唱和下さい。乾杯!」
「乾杯!」
名実共に、僕らの応援団としての組織がスタートした。
* * *
お酒なんぞなくたって、宴もたけなわとなれば、普段出来ない同期同士での話にも花が咲く。
「お前、最近、本当に大変だな。直接の団務以外で。」
ヤーサンが、僕の膳の前に来て胡座をかいた。
「お、分かって呉れる? 此の苦悩。」
「まあ、団長としての有名税か、深ーい懐を試されていると思って、我慢するんだな。」
斜め前の席でタイサンがクックックと笑っている。
「他人事だと思ってるだろ? お前ら。」
「当たり前だろうが。だって団務とは違うもんなぁ。あれは、なぁ。」
セージュンが左隣で足を崩して笑いとばした。
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