第24話 ネネッタの中の人

「ムーブ!」


「言われなくても、分かっているわよ!」


 両手でサブマシンガンを構えた俺の叫びに、助手席から飛び出して小太刀を抜いた井上いのうえ亜沙乃あさのが答える。


 それぞれに、装甲車の突撃で壊れた部分から戸建てに突入するも――


 別に軍用ではなく、あっさりと安全確認。


 武器を下ろしつつ、話し合う。


「聞いて聞いて! あのゲーム、私も遊んでみたの!!」


「お前もやられたら、誰が助けるんだ!?」


 叱っても、亜沙乃はニコニコしたまま。


「仲間外れは、嫌だもの!」


 救助してくれそうなのは、凛良りら・デ・ロヴァーンぐらい。


(だけど、あいつは面倒がって逃げたからなあ……)


 仮に助けてくれても、費用や報酬を求めてきそう。


 その時に、ヒュッと風切り音。


 直前で床を蹴っていたことで、小太刀の斬撃を避けられた。


 けれど、縦に振り下ろされた刃は、生き物のように動き、下から上へ。


 さらに、切っ先だけが近づく。


 見ると、笑顔のままの亜沙乃が襲ってきている。


 レトロゲームに洗脳されたか、実は俺を殺したかったか。


 前者だと信じたい。


(面倒な!)


 ほぼ密着した状態に肘で打ち、亜沙乃が後ろによろめいた隙にサブマシンガンを構えて撃つ。


(せまい屋内で、相手は白兵戦のプロ……。手加減している余裕はない!)


 長い小銃だったら、これでも小太刀で銃身をそらされた。


 そう思いつつ、亜沙乃の動きを制するように数発で撃っていく。


 小太刀で弾くか、避けつつ、俺を正面に捉えつつ、まだ攻撃する姿勢をやめない彼女。


 次に踏み込まれたら、片腕が飛ぶだろう。


(チッ! 殺すしかないか? もう、カワサキ市に住めないだろうな!)


 実弾のまま、致命傷となる胴体部へ照準するも……。


「あっ!」


 ビクッとした亜沙乃が、小太刀を落としつつ、膝から崩れ落ちた。


 トリガーから指を離した俺は、射撃姿勢のままで、視線と同時に銃口を左右に向けていく。


(他にも……いるのか?)


 片足ずつ、ゆっくりと前進する。


 倒れている亜沙乃に近づくも……。


「くっ!」


 背後から首筋に何かを注射されて、意識を失う。



 ◇



 半壊した戸建てで、床下収納のようなスペースが開いた。


 中から、ガシャンガシャンと機械的な音を響かせつつ、美少女のロボットが出てくる。


 いかにもゲームやアニメに出てきそうな外見だが、ろくに整備をしていないのか薄汚れたままで、一部は壊れたままだ。


 その口で紡がれるのは、合成したような美少女の声。


『同士討ちで自滅したか……。ふんっ! 派手に壊しやがって』


 話し方と口調は、男のそれ。


 少なくとも、高天こうてん早渡はやとのような高校生ではない。


 招かれざる男女2人の死体を確認するべく、足を引きずるように歩き出すも――


「不健康な生活をしていたゲーム会社のおっさんが、美少女になるとは……。これが本当のTS転生」


 とぼけたような、少女の声。


 美少女のサイボーグが振り向けば、そこには没個性的だが美少女といえるネネッタがいた。


『なっ! き、貴様、どうやって――』

「バ美肉じゃなく、脳と脊髄を移植して本物の美少女になった気分はどうですか? もっとも、肉体的に変貌することは想像しているより大きな負担です。文明崩壊前から生きていれば、もはやオリジナルからも逸脱しているはず」


 サイボーグは、護身用のアサルトライフルを向けた。


『あのゲームで、お前の精神も閉じ込めたはず……。帰ってこられるわけがない! コピーを用意していても――』

「種を明かせば、失笑するほどに単純……。レトロゲームはフラッシュが当然で、音や光による催眠をしていただけ」


 事実のようで、美少女サイボーグが動揺した。


 ネネッタは、淡々と語る。


自動人形クルトゥスが管理していて、そこを支配する家庭にいた子供が安全エリアで失踪するのは不自然すぎる……。答えは1つで、本人の意思による行動だった。ゲームによる催眠でね?」


 出てきた本人を車で連れ出せば、誘拐の成立だ。


 動揺したままの美少女サイボーグに、ネネッタは告げる。


「拉致した人々は、すでに保護しました! 人体実験に使う気だったのか、それとも、催眠をより深化させて特定のキーワードなどで暴走させる気だったのか? でも、今はお前を確保することが最優先。これだけの長期間で自我を保ったままのサイボーグは、かなり珍しい」


 美少女サイボーグは銃口を向けたまま、言い返す。


『お前が一緒にいたお気に入り2人は、殺し合い、どちらもくたばったがな? それに、今の状況で……』


 言葉を切ったサイボーグは、ジロジロと見る。


『待てよ? お前の丁寧だが、人をバカにしたような話し方……。どっかで聞いたような?』


 雰囲気を変えたネネッタが、警告する。


「その辺で、やめておきなさい」

『ああ、そうだ! 虫のネットワークで現代文明を滅ぼしたクソ野郎がまだ評価されておらず、講演していた時、その助手だかで一緒にいた……』


 ネネッタの微妙な反応で、中身のオッサンが確信する。


『天才と呼ばれていたがクソ野郎の下にいるから、そいつの女か弱みを握られているんじゃないかって、もっぱらの噂だったな! ええっと、専門は……』

「人の脳を電子化するための生命科学です」


 結論を述べたのは、ネネッタだった。

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