第四章 連続失踪のレトロゲームを追え!

第22話 死に至るレトロゲーム

 ラシーヌ学園の遺跡救助部。


 学園の姫である井上いのうえ亜沙乃あさのが、親の権力にモノを言わせて奪い取った部室にいる。


(ムダに権力がある生徒会がいそう……)


 俺たちだけの数人が、ダラダラと過ごしている。


 最近は、探索をしていない。


 ネネッタを見ると、両手で細長く平べったいゲーム機をプレイしている。


 凛良りら・デ・ロヴァーンは、退屈そうだ。


「何か、面白い話はあるか?」

「……言い方が、童貞くさいわよ? マーシナリー科は個人事業主みたいなもので、他の生徒と会わないし、別に」


 上体を起こした凛良は、勢いよく話す。


「私のボンちゃんが、ついに15代目!」


「お前、メックを乗り捨てすぎだろ……」


 メックではなく男だったら、とんでもないビッチだ。


 そう思っていたら、凛良がジト目に。


「ものすごく失礼なことを考えてない?」


「そんなことはないぞ?」


 納得しない凛良は、自分の両腕で枕を作り、頭をのせたまま、ジトーッと見つめている。


 ネネッタが遊んでいる携帯ゲーム機の音だけが、響く。


 はあっと息を吐いた凛良は、上体を戻した。


「そういえば、ウチで行方不明者が出たらしいわよ?」


「行方不明? どこも監視されているのに?」


 頷いた凛良が、この学園で流行っている噂を説明する。


「何でも、とあるゲームを遊んだ人間がいきなり失踪するの!」

「へえ?」


「その関係者が騒いでいて、カワサキ市も対応を迫られているとか……」


「人数は?」

「……バラバラで、3人ぐらい」


 凛良が言うには、とあるゲームはいきなり配信され、それを遊んでいた人が同じくいきなり消えるそうだ。


「どんなゲーム?」


「ドット絵による2Dゲーム! 自動人形クルトゥスの技術があるから、今でもレトロゲームの類いね!」


 お使いをこなしていく和製RPGだが、バグっているような画面で、キャラと会話しても意味不明だとか……。


「生存者は? 珍しいゲームとか、命の危険が迫っていたなら、友人や家族に相談するだろう? 世間話でも」


「そうなんだけど……。周りがおかしいと思った頃には、ドロン!」


「解せない……。噂になっているレベルなら、今まさに追い詰められている奴は騒ぐだろうに」


 座ったまま腕を組んだ凛良が、頷いた。


「それね! 他人に話したら命はない、とか?」


COSコスの一種か?」


 俺の指摘に、苦笑する凛良。


「電子データも、変異するの? 知性を持つCOSが、人間を汚染するように仕掛けたと考えるほうが自然よ?」


 ガチャッ


「今日から、私は名探偵! 学園で犠牲者が出ているゲームの調査をするわよ!」


 明るく言い切ったのは、遺跡救助部を作った張本人。


 井上亜沙乃だった。


 ドアが閉められるも、部室の雰囲気は重苦しい。


「カワサキ市の管理官をしている美優みゆからの依頼でもあるわ!」


「選択の余地がないんかい!」

「私の出番、今回はないと思う……」


 メック乗りは、制圧戦や同じメックとの戦いをする。


 訳の分からないレトロゲームが相手では、やることがない。


「じゃあ、俺とネネッタ、受けてきた亜沙乃でやろう」


 全員で、話し合う。


 失踪者のリストを時系列で潰しこみ、情報が多いであろう直近のケースを重点的に扱うことで合意。


 ネネッタは、まだゲームをしている。


「それで、肝心のゲームは?」


「知らない!」

「……うーん?」


 亜沙乃と凛良は、それぞれに否定した。


 人の話を聞いていないネネッタは、員数外とする。


「学園内でも、調査のために武装するぞ? 亜沙乃、全員の許可をとってくれ」


「ええ!」


「私は、巻き込まれたくないから帰る」


 凛良は立ち上がり、荷物をまとめて部室を出ていった。



 ――調査開始


「あいつの自宅に行っても、全く手掛かりがなくて……」


「いきなり配信されるらしいぜ?」


「この学園に通っていて、失踪する理由があるとは思えないが」


 失踪者のリストを潰しこんだが、有力な情報はない。


 ネネッタはやる気がないらしく、調査に参加せず。


 俺と井上亜沙乃の2人で、数日にわたり、聞き込み。


 あまりの手応えのなさに、次は失踪者の自宅を調べようと思う。



 ――通信室


 頭の上でキツネ耳2つを動かしている美優が、モニター画面に映っている。


『……ネネッタが失踪しました』


「何やっていたんだ、あいつ……」


 どうやら、件のゲームを遊んでいたようだ。


『申し訳ありませんが、彼女も探してください』


「……はい」


 俺は見捨てようと思ったが、美優に釘を刺された。


「そっちで、何か捕捉していないんですか?」


『……残念ながら』


 美優は手元の資料を見たあとで、こちらを見た。


『私が失踪しても、下着は漁らないで。と残しています』


「見つけたあいつと併せて、リサイクルに出しておく」


 深呼吸をして、美優に言う。


「こっちも手加減しないから、被害はそっちで抑えてくれませんか? 敵の正体どころか手口も分からないのでは、それが最低条件です」


『承知しました……。リアルタイムで、情報提供や支援も行います』

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