第87話 元に
生徒会室にて。
「み、んな…(本当に来たんだ…)」
生徒会の扉を開いた結は机に向かう5人を目にして立ち尽くす。
そういえば昨日そんなことを言っていた気がするのを、今更ながら思い出す。昨日の時点で半信半疑だったので少し記憶が朧気だ。
「嘘だと思ってたの~?」
「まぁ今までが今までですしね…」
「はっ。これから行動で示せばいいんだよ」
「ホント会長は言動と外見はイケメンだよね!」
「ねー!」
「なんだと?」
言外にそれ以外無いと言っているようなもの。
意外と辛辣な双子である。
内心ではまだ転校生の虜で盲目的なのではと疑ったまま、結は天辺と貴鳥の間の空いた席に荷物を置く。書記の席だ。
五人とは些か気まずい空気は感じるものの、オレが特に風紀委員達のように敵視していないからか、そこまで険悪な空気は流れていない。
普通ならば、怒って、口汚く怒鳴ったりするのだろうか。自分はもう、苛々していた感情はもうとうの昔に冷めてしまったみたいだし。
そう、もうこの話は昨日の時点で済んだ筈だ。
彼らと約束をした。それさえ守ってくれるのならば、自分のごちゃごちゃした感情など捨て置ける。
一番守りたいものが守れればそれで――。
「――約束」
忘れないでね。
そう言ってジッと見渡せば、彼らは当然だと言わんばかりに頷いた。
正直ホッとした。
昨日の今日で、平謝りや約束の件だけバッサリと忘れてしまっているのではとさえ思っていた。むしろオレが夢を見ていたのではとさえ思う。食堂で一日にして変わってしまった時のように。
だいぶ信用が断ち消えつつある事など承知の上だろうが、彼らは今からでも変わろうとしている。完全に元に戻ることなど出来ない。それでも変わろうとしているのなら、オレは出来る限り手を貸したいと思う。
情を捨て切れていなかった、のだろうか。別に捨てたくて捨てたわけではないのだが、でなければ手を貸そうとは思わなかったかもしれない。それとも彼らが変わろうとしている努力や、操られていたという疑惑があるからこそ貸そうと思ったのか。
どっちもかもしれない。
「はぁ…すみません。これまで任せきりにしてしまったその分を肩代わりしようと思ったのですが…なにぶん数ヶ月は仕事を放棄してしまっていたもので…」
「今結センパイに離れられると困るんだよね~」
「仕事滞っちゃうよ!」
「やばいね!」
とてもやばいと思っている表情ではないが、要するに仕事と離れてブランクができたから仕事スピードがスローになり、納期が間に合わないという事だろう。
彼らは今まで何をしていたのだろうか?
いや、遊んでいたことは知っている。ただそういうことではなく、オレが渡した書類はどうやっていたのだろうか。
なるべく納期が長いものを念の為渡していた筈だが、それが仇になってしまったのだろうか?
オレとしては委員会会議にオレの代わりに出てくれるのならば、書類の分全てチャラになるぐらいには助かるのだが…。
でもこれまで出ていなかった面々が出るだけで今よりも気まずい空気が流れるのは簡単に想像がつく。ちょうど夏休み前に一度だけ委員会会議をするので、それを思うと今から憂鬱である。
一ヶ月に一回か二回。場合によっては一週間放課後に続けて顔を合わす時もある委員会会議。場合によって、の部分は、昨日行われたような学園全体の催し事の前によくあることであるからだ。
最近のだと、当然彼ら5人は居なかったので、他の委員長達からの視線が痛かった。それはもう胃がキリキリと痛み、気を紛らわせるために会議の前に小型の氷をボリボリ食べて精神を落ち着けていた。
何度自分が生徒会役員をやっていることを恨んだことか…。
あれ…それを思うと苛々が再発してきたな…。落ち着けオレ。
彼らは(多分)これから己等の親衛隊達に殴られるなり叩かれるなりするだろうから、これで怒りを飲め。
そう自分を戒め、時々確認として質問されつつも、静かな作業時間…いや、だいぶ賑やかな二人も居るがBGMとして聞き流し、朝の登校時間が近づいてきた。
「あ、もうこんな時間じゃん! お仕事ちゅうし~」
「そうですね…授業にも出なければ…。特にそこの
貴鳥が作業中止の合図を挙げ、それに乗っかるようにして天辺も筆を止めた。
因みに偶にだが授業に出ている者も中にはいた。
生粋の真面目優等生、副会長である。
そして当然のごとく主席していなかった残りの4名は言うまでもなく、成績は天辺に比べて落ちている様であった。
しかし会長は元々転校生が来る前から二年の予習をしていたために余裕があった。失礼は承知の上で言うが、正直意外だと思った。
天辺は真面目だし、優等生気質なのでまだ分かる。だが貞操概念にだらしがなくて、偏屈爺みたいなところがある俺様口調な会長は、意外と思うしかない。
多分オレが会長に対してあたりが強いのも、偏屈爺な部分が気に入らないのかもしれない。里の爺さんを少し連想するのだ。
まぁ流石に里の爺さんは自分のこと「俺様」とかは言わなかったけど。そこは会長のチャームポイント(?)だろう。
仕事はほとんど終わり、後は書類を各所へ届けるだけだ。幸い期限はまだ平気なものばかりなので、職員室や風紀委員室に届けて、残ったものは放課後か空き時間にでも届けよう…そう頭の中で確認事項のように連ねて締めくくった。
「風紀に出す紙、頂戴」
「ああ…なら
「あ!なら二階の階で出すヤツあったらこっち頂戴~」
「うわ先越された!僕が行こうと思ってたのに!」
「へへん。早い者勝ちだよー」
オレがついでにという
「ぐぬぬ…なら僕は一階のやつ!」
「では私達は残った紙を半分にしましょうか」
「わかった~。なんか神社で小吉引いた気分だけど文句は言えないしね~」
「文句言ったらそれこそブリザードだよ!」
「誰の事でしょう?」
物理的に出来るオレか、幻視(?)で出来る天辺の事だろう。
そうしてオレが放課後や休み時間を使う必要は無くなった。やはり人手は必要なものだな…。こんなにも早く終わるとは。
これからもドンドン利用しよう。
こうして朝の時間はあっという間に過ぎていった。
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