第80話 約束

 ガサガサとなるべく茂みを避けて通ろうとするも、流石に道のない森の中を歩くと茂みに掠るのか音が鳴る。


 少し遠回りしながら5人に近づく。


 雑草でも花でも踏むのは嫌なので避けていたら余計に時間が掛かった。こんな事になるなら木の枝を渡って予め近づいていた方が早かったな…と思いながらも呑気に話を聞いた。


 話しは割愛するが、要するに「目を醒ました」らしい。


 実にタイミングを考えて欲しいものである。体育祭で親衛隊側がせっかく勝利したというのに、その意味がほとんど無くなってしまうではないか。戻ることに越したことは無いのはもちろんそうなのだが、納得いかない部分もある。


 何を言っているのかコレだけでは分かりにくいと思うので付け足すと、あの国真に何かしら干渉されたのは確定らしい。洗脳か魅了か…。なんにしても脅しでなかった事にホッとするべきか残念がるべきか。


 脅しだったら親衛隊側も怒りの矛先が一カ所に集中するから後始末も幾分かマシになりそうなのにな…と、割とクズっぽい事を考える。


 そして粗方言い訳のような本当の事を聞き終えるなり林道を筆頭に謝られた。


 生徒会の仕事の事だろう。


 正直謝られても居心地が悪くなるだけで、相手が反省していようがいまいがどうでもよかった。ただ自分が彼らに求めるのは今後どうするかの解答だけだ。


 情というものも、数ヶ月も経つと徐々に薄れていったのか。彼らに対する思いが段々と薄くなっていった。

 確かに数ヶ月前までは、少なくとも彼らに情を持ち合わせていたように思うので、別に冷徹と言うほど冷めてはいない。ただ薄情なのかもしれない。


 だがいくら考えようと時間は進む。

 彼らが謝ったのなら次は此方が答える番だ。


「…いいよ。許す。でもその変わり――」


 暗く不気味な空気が漂い始めた森の中。

 オレたちは一つ約束をした。





 5人と別れて山を下る。


 駆け下りてながら考えることは先ほどした約束のこと。


 オレ達6人はとある一つの約束をした。

 まぁ一方的にオレがこれやったら許す…みたいな上から目線のものだけど。


 それは親衛隊達と話し合って親衛隊全員に一回ずつビンタされる覚悟をする事。


 いや、一つじゃなくね?

 と、お思いの方もいるかもしれないがそれはそれこれはこれである。


 これまでオレが生徒会の仕事で5人分…いや、少なく見積もって3人分か? 副会長は書類やってくれていたし、期限に余裕のあるものは5人のところに【結メリー】(赤史命名)をしてお送りするので数人分の書類を捌いていた事になる。【結メリー】は正直ストレス発散を兼ねた行いだったので苦ではなかった。

 面白かった(小学生並の感想)。


 そんな訳なので、普通より仕事していたオレに対する詫びだとでも思ってくれればいい。

 まぁ彼らはそれを元から覚悟していたようだったので余計なお世話だったようだが。


 なので正しく約束したのは、もし姉さん達…4人に危機が迫ったら助けて欲しいと願った。家族同然の4人。そこにオレは含まれていなかったことに気付いた林道と副会長は何か言いたげな顔をしていた。


 それを知らん振りして助けてほしい人物の名前と写真を見せる。

 中学卒業時に撮った写真だ。

 コレが5人で撮った一番最近の写真だから分かりやすいだろう。


 もし姉さんに何かしたら氷らすと顔に出して脅した。

 声に出していないからセーフ(何が)。


 未だに身の安全が完全に確保された訳ではない。

 オレたちにとっての敵は未だに外に存在しているのだから当然だ。


 保険があるに越した事は無いだろう。

 因みに4人の中に自分を含まなかったのは故意だ。

 守る対象は少ないに越したことは無いのだから、これでいい。


 暗く視界の悪い森を抜けた。


 キャンプファイヤーは森に入る前よりも燃え上がり此方まで熱気が伝わってきそうだ。


 …というかキャンプファイヤーの脇にロープで縛られた生徒が多数居るのだが…見なかった事にすることは……無理か。

 生徒会役員だし。


 恐らく多分風紀委員がやったのだろう。

 あの委員会は捕縛術に長けているのか、はたまたそう指導しているのかは知らないが、紐の扱いが凄かった。お陰で色々やらかしたものたちは例え妖怪や人間に変化しようと解けない技術を身につけている。もう最強じゃね?とは赤史談である。


 確かに異形になって身体が大きくなったり小さくなったりで引きちぎれたり緩くなりそうなものなのに解けないのは凄いと思う。どんな魔法だよと思う生徒もいるとかいないとか。


 それにしても。

 亀甲きっこう縛りって言うんだね。

 あの生徒たちの縛っている型に名前とかあるんだな…。


 いつの間に隣にスタンバイしていた葬がニュースキャスター風に説明して去って行った。


 コレには流石のオレも吃驚した。


 お前…ニュース見るんだな…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る