第69話 体育祭 23 決闘

 ボーッとした頭で校庭を見ていると、だんだんと意識が覚醒してきた。

 どうやら自分はいつの間にか眠ってしまっていたらしい。

 ベンチで座ったまま眠っていたようで、腰と背中が変に痛い。首もついでに痛かった。(この時眠っていた結の姿勢はいつかの時の様にピンとしていた)


 首元をマッサージしてほぐしていると、司会の声が耳に入ってくる。


『さぁ! 体育祭も終盤になりました。最後の種目…というよりも最後の決戦です! 白組林道りんどう山音やまね生徒会長。並びに紅組咲江木さえきふじ風紀委員長。さぁ前へ!!』


 ガヤガヤと何をするのか見守る生徒達。

 オレもまたその一人だった。


「(というか風紀委員長、紅組だったのか…)」


 …ただ他と一つ違ったのは、いやな予感がしてきた点であった。


『皆様数ヶ月前に行われた新入生歓迎会は覚えているでしょうか?  そう、会長には未だに褒賞がプレゼントされていません。…なので今回! 体育祭という舞台を使って、褒賞を与えたいと思います』


 そうだったのか…。


 ってあれ?

 会長は捕まったんじゃ…何故褒賞があるんだ…?

 ん?? オレの記憶違いか?

 何ヶ月も前の事だったし。←未だに勘違いしたままの結


 あまり釈然としないが、会長の褒賞が風紀委員長?

 暴力沙汰でも起こすつもりか?←あながち間違っていない


『えーしかしこのお二方が暴れるとなれば生徒や校舎に被害が当然出ると思われるので…急遽! 助っ人を急募します! 範囲系や力に自慢がある方は協力してくださーい』


 範囲系や力自慢というのは、妖怪の力の事だ。

 オレは範囲系に含まれるので強制参加なのかもしれない。

 起きたばっかの強制労働は辛いな…。


 のそりと立ち上がりフラつく。…ベンチに戻り座った。


 別に此処からでも校庭全体に氷の結界張るぐらいは出来るのでこのままでもいいのでは…?

 と、考えたためである。


 隣に居る葬に目配せし、オレの護衛は任せる。

 いつ新入生歓迎会の時のような奴が来るとも知れない。なので諸々の警戒は葬に任せることにした。大丈夫。オレより気配に敏感な葬ならば、遅れをとることもそうそう無いだろうし。


 白組の方に目をやると、副会長が前に出ているのが見え、去年と同じようにするのだと自然と考えついた。


 そうして自身の親衛隊達にはオレがここら一帯紅組を守るということを通達する。

 能力同士がぶつかっては本末転倒なので事前に伝えることが大事なのである。


『えーでは、守備に携わってくれる生徒は前に出てきてください』


 ……。

 結局立たなくてはいけないようだ。


 いくらか体力は回復したのか体は怠いが歩くことはできた。

 白組の方からも副会長や数人の生徒が前に出てくるのが見える。

 そして気を使ったオレの親衛隊達がベンチを移動させてくれた。


「ありがとう」


 親衛隊にはもう葬相手と同じぐらいには普通に話す事ができるようになった。


 オレの感謝の言葉に親衛隊達は『はっ!』と召使いのようにズザザ‥と去っていった。


 誰に訓練されたんだろう。

 オレはあんな事教えた覚えはないのだが…。←完全な無自覚


 見渡しやすい位置に置かれたベンチに座る。

 視線を集めているようだが、生徒会長や風紀委員長に比べれば少ないものだ。


 それにオレもこの学園に来て二年目。人の視線には嫌でも慣れてきて。もう挙動不審になることはない。


 親衛隊達が気を使ってどこからかパラソルを持ってきたが、視界が狭まるので断った。もしも上から瓦礫が降ってきたら防げないからな。というか本当にどこから持ってきたんだ…。


 校庭の中央で睨み合う両者はというと、動く周りに目をやることもなく見つめ合っている睨み合っている


 そしてそれを見る観客生徒達は盛り上がる。

 ほとんど外出することの叶わないこの学園では最高の娯楽だったのだ。


 かくいうオレは戦闘からは離れた暮らしがしたいと心の中では思っている。

 

 戦いは…いつも何かを奪っていく。

 仲間――いや、同族が奪われ住処を追われ…面倒なことに未だに振り切れないあいつ等の影がチラつく。


 戦いなんて――物語の中だけで十分だ。


 願わくば、関係の無い彼ら学園を巻き込みたくない。

 でもそれはオレ個人の考えで、オレ以外の4人は同じとは限らない。


 この学園を隠れ蓑にするのは合理的で自然なことなのは理解している。


 同じような生まれで、なおかつ境遇の似通った者達の多い此処では自分たちを変な目で見る者もうとむ者もさげすむ者も傷つける者も居ない…訳ではなかったが、に比べれば天と地ほどの差。


 なんだかんだ言って楽しい生活だと気づいた時にはもう、この学園は喧騒に溢れ始めた。


 オレがもっと上手く話せたら、オレがもっと頭が良かったら、オレがもっと…生徒会と向き合っていたら――


 彼らは敵対せずに今でも共に仕事をしていただろうか。


 今でも人に対する興味関心は薄い。

 他人の過去や好物など知ったことではないと思うぐらいだ。

 そんな人間のオレでも、仲間意識というのは存在し、今まで一年以上は共にやってきた相手があんな風に離れていくとは…正直自分は怒っているのかもしれない。


 そう…かもしれない、だ。


 オレは今まで害をなしてきた相手にしか怒りを向けたことのない人間だ。

 そんな自分が仕事をほっぽりだして恋に恋するような同級生たちに何が言えるというのだろうか。


 怒る?

 そもそもオレにそんな度胸があるならこんな事にはなっていなかったのかもしれない。

 今は副会長が書類を影で捌いているようなのでギリギリオレが他の役員の物も対処してどうにかなっている状況だ。

 そしてつい最近は、周一で書類を直接お届けして無理やりやらせているというのもある。発案は赤史だ。メリーさん風にやって脅せばイケるんじゃね?と若干適当に言われたがオレは本気でやった。…ちょっと楽しくなったのは秘密だ。


 泣き落とす?

 オレの涙は既に枯れている。

 氷か雪なら出る気がするが。←普通は出ません


 これでネタ切れだ。


 オレの怒り方のレパートリーはどうやら少ないらしく。

 後は雪女の末裔らしく凍らせるか物理的にビンタするぐらいしか説得の方法が思いつかない。実に暴力的だと我ながら思う。


 会話?

 オレに求める事が間違っている。


 もう彼らに失恋か恋愛成就してもらうしかないんじゃないかと半分非情な考えが浮かぶ。


 そしたら転校生離れも早いかと思った。


 いや、オレは決して彼らの親ではないのでそんな事を言う権利など無いのだが。


 なんだか徒競走のときに転校生の鬘が取れ、眼鏡もついでとばかりに取れたようで。転校生君の素顔が露わになりますます惚れ込んだようなのだ。


 全く…揃いも揃って同じ顔を好きになるとは…趣味が合いすぎていて怖いな。違和感を感じるぐらいだ。


 ああ、誤解の無いように言っておくが、オレは転校生君の顔を見てはいない。親衛隊達が総出でオレの視界を塞いだからである。

 要するに「見る価値無し」という言葉を長々と語られ、それはそれで辛辣すぎて酷くないかと思った。


 どうやら可愛い系であるということは周りのざわめきから聞こえてきたがそれだけだ。それに気付かれたのか耳も塞がれ色々塞がれた。


 何故そこまで囲うのか。

 もしかしたら他の生徒会役員の様になってしまうのではと危惧したのかと思う。


 そう考えたら転校生君に対する辛辣な物言いもかわいいものに思えてくる。


 …とはいえ言い過ぎだろとは思うが。


 まぁとにかく風紀委員長には勝ってもらわなければ困るということだ。勝ってガツンと言ってやってくれ。←他力本願

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