第68話 体育祭 22
力尽きて歩けない状態のオレに比べて、隣に倒れていた…ひ、ひ…ひと…何だっけ?
名前が出てこない。
疲れで記憶力も低下したかもしれない。
……あっ。
良かった思い出せた。
彼は一足先に体力が回復したのか立ち上がった。
体に付いた砂利を落とすと此方に手を貸してくれた。
有り難くその手を掴み体を起こす。
その拍子にオレの手に着けられた枷に僅かに付いている鎖がジャラリ‥と音を鳴らした。
「それ…本物なの…?」
静かに聞いてきた一瀬にオレも首を傾げる。
本物かどうかなど普通は知らないものだろう。
オレは知らない振りをした。
まぁ、重量感も冷たさも似ているが、簡単に外れるモノなので本物では無いのだが。
立ち上がったオレは彼と別れるだろうと思い「じゃ、あ…ね」と声を掛けて立ち去ろうとした。
だが手首を掴まれ止められた。
「あの…名前。聞いてもいいですか…?」
オレは彼に見覚えが無かった。
恐らく彼は一年だろう。
オレの顔を知っていたとしても、名前を知らない生徒が居てもおかしくない。
過去に会長は自分の名前を知らない生徒など此処には居ないだろうと豪語していたが本気で言っていたのだろうか? いやしかし…会長なりのジョークだったのかもしれない。本気で言っていたらヤバい人認定するところだった。ごめん会長。
「オレ…は、氷鎧…結。キミ…は?」
「自分は
どうやら彼はこの学園でも珍しい生粋の人間らしく。
此処に入れたのはある妖怪(?)に取り憑かれているかららしい。
「元々普通の学校に通えるとは到底思っていなかったんで、この学園のチラシが顔に降ってきたのは運が良かった」
顔面に降ってきたの??
というかウチもチラシを拾ったとか言っていたが、どういう原理でチラシは動いているのだろう。意思があるとしか思えないな。
そして彼もどうやら紅組らしく、共に戻ることとなった。
「氷鎧先輩は聞かないんですか? 何の妖怪が憑いてるのか…とか」
歩きながら聞かれた言葉に目をキョトンと瞬く。
先輩…か、新鮮な響きだな。
「オレ…しゃべ、るの…遅い。…し、色々面倒…だから、聞く…のに。時間、かかる」
要するに話す事が苦手で面倒で疲れるし、時間がかかるからわざわざ聞かなくても平気なことまで聞く必要はないという意味である。
時間を極限に無駄にしない考えかもしれない。
「へぇ…そんな考え方もあるんですね。まぁ自分も進んで話す方では無いんで分かるっちゃわかりますね」
「?」
とてもそんな風には思えない。
これまで、といっても僅か数分前のことだが、話しかけてくれたのは一瀬からだ。
オレからすれば進んで話す方に見えた。
そうこう話している内に紅組テントに着く。
因みに服装はこのままらしい。
枷を除けば動きやすいのだが、いかんせん視線を先ほどよりも集めている気がするので着替えたい。
一瀬とは席が違うらしく割とあっさりと別れた。
服装は体育祭が終わるまで着なければいけないらしく。
夕方の祭りまでには着替えることができるらしい。
着ぐるみの人大丈夫かな…熱中症になりそう。
席に戻るなり親衛隊達から写真を撮っても平気か聞かれた。
わざわざ聞くとは真面目だな…と思いながらも軽く了承する。
その後体力を使い切り疲れ果てた体に鞭打って、親衛隊の要望(写真を撮る上でのポーズ)に応えオレは無事屍となった。
その後の記憶はほとんど無い。多分気絶したのだろう。
体力の無いオレには厳しい仕打ちだ…。
―――小話―――
『結が紅組テントに戻った際』
葬「ぷっくく…足プルプルなってるぞ」
結「なってない」
葬「いやして「なってない」
葬「ところで手枷は外さないのか? 随分重そうだ」
結「外そうとしたら大国先輩がダメって…」
葬「アイツのシュミか?」
結「……」
葬「否定しろよ、そこは」
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