第44話 宝箱


「プライベート・オフ」


 『魔王の憩所いこいじょ』の出入口を消してからプライベート・コール状態を終了する。

 刹那、各オルクスが休眠状態から復帰し、配信を再開した。



「お待たせしました」


 視聴者さんをずいぶん待たせてしまったので、いつもよりしおらしい態度で口を開く。


「思ったより時間がかかってしまい、ごめんなさい」


 突然長いこと中断したので呆れて立ち去った方もいるかもしれないが、今視聴している方々に謝罪の気持ちを込めてペコリと頭を下げる。


「え……と、それでは探宮を再開しますね」


 配信の初っ端で躓いてしまったボクが、失点を回復するためには、単独ソロでこの迷宮を踏破して見せるしかない。

 出し惜しみせず、持てる力を全て出すつもりで挑むと、動きは自然と鋭くなり、アクションも大きくなる。本気モードのおかげで、初心者とは思えない挙動で危なげなく探宮が進んだ。


 え? そんなに短いスカートで大丈夫かって?

 さっきから勢いよく捲り上がってて危険……だと。


 ふふっ、心配ご無用!


 君達の懸念は、すでに対策済みなのだ。


 先ほど『魔王の憩所いこいじょ』から出る時に追加でミニスカートの下に履くスパッツをユニ君に生成してもらったのだ。これで変態紳士・淑女の皆さんの目を楽しませるようなことは決して起こらない。

 さらに、大胆なアクションも気にせずできるので、近接戦特化のボクにとって一石二鳥だ。現に一階層の敵は瞬殺だった。


 続いて二階層も難なくクリアし三階層に到達する。ちなみにモンスターの種類は階層が変わっても代わり映えしないが、『ブルースライムL2』とか『スケルトンL3』とか、それなりに強くなっている。ただ、攻撃方法や弱点などが変わらないので対処は難しくない。


 三階層もどんどんクリアしていく。けど、パーティー推奨レベル3なので、単独ソロのボクではだんだん厳しくなってきた。単体なら楽勝だが複数だとさすがに無傷とはいかない。まだ、同一レベルの他プレイヤーに比べ異常なほど能力値が高いのでゴリ押しで勝てるけど四階層は難しいかもしれない。


 そう思いながら三階層最後の部屋に突入する。部屋には下へと続く階段があり、中ボスと思われるゴブリンチーフがいた。

 おそらく体感として、このレベル帯の中ボスなら有り余るHPで勝ちきれそうな気がしたので、戦闘を続行する。実際、多少は苦戦したが予想通り倒すことが出来た。


【『シロフェスネヴュラ』はレベル4に成長しました。HP・MP・SPが上昇します】


 突然、頭の中に告知アナウンスが流れる。


 えっ、名前? ああ、レベルアップの告知か……。 


 探宮者名が聞こえたので、配信に流れたかと思い一瞬焦るが脳内だけと気付き、ほっとする。謎の魔王様の正体がバレたかと思った。


 で、ようやくレベル4か。


 早速、いつものスキル確認をしようとしたが、配信中であることで断念する。魔王スキルはいろいろとヤバいので、配信の場で視聴者に見せる訳にはいかなかった。あとで、『魔王の憩所いこいじょ』に戻ったら確認しよう。


 それに悠長に考察しているようないとまを許さない状況が目の前にあった。


「宝箱だ……」


 そう、ゴブリンチーフが素材と宝箱をドロップしていたのだ。



 宝箱トレジャー・ボックス――モンスターがドロップするアイテムの一種だ。中には貴重なアイテムが入っている場合が多く、種類は『銅宝箱』『銀宝箱』『金宝箱』『白金宝箱』『虹宝箱』の5種類ある。『虹』が一番レア度が高く、中に入っているアイテムも伝説級と噂されている。


 原則的には迷宮最奥にいる迷宮主を倒すことで『宝箱』を入手することが一般的だが、ごく稀に迷宮主でないモンスターを倒した際にもドロップすることもあるらしい。なお、『宝箱』のレア度は迷宮のレベルに比例するのは言うまでもない。


 そういうわけでD級迷宮の、しかも迷宮主でもない中ボスを倒しただけで、宝箱が出現するのはレア中のレアなのだ。しかも……。


「『虹宝箱』だと……」


 S級迷宮でないとお目にかかれないと言われる『虹宝箱』だなんて、ラッキーを通り越して逆に恐怖さえ感じる。本当に大丈夫なのだろうか?


 ボクは早速、【『魔王の邪眼』レベル2鑑定(低)】を使用して『虹宝箱』を鑑定してみる。


「……ダメか」


 どうやらスキルレベルが足りないらしく鑑定できなかった。まあ、鑑定(低)だから仕方ない。


「さて、どうしよう」


 罠の有無がわからないのが致命的だけど、放っておくという選択肢はあり得なかった。なにしろ、『虹宝箱』だからね。


 ここはリスクを承知で開けるしかない。ワンチャン、罠がない場合もあるし、レベルアップしてHP・MP・SPも全回復したばかりだから、罠があったとしても何とかなりそうな気もした。例えば、新たなモンスターが出現しても全力で戦えるし、毒や酸のダメージなを受けたなら『魔王の憩所いこいじょ』逃げ込めばいい。


 よし、女(?)は度胸だ。


 意を決したボクは『虹宝箱』に近づくと躊躇わず一気に宝箱を開けた。


「え……」


 開けた途端、虹色の光が箱から溢れ出る。


 し、しまった。やはりトラップだった!


 そう思った時には、もう遅かった。


 光の奔流ほんりゅうに巻き込まれ、目が開けてられない。流されないように足を踏ん張り、目を瞑る。次の瞬間、身体が浮き上がるのを感じた。 


 こ、これはマジでヤバイのでは……。



◇◆◇◆◇◆◇

 


 ようやく浮遊感が無くなり、地面らしきものに足が付く。


 恐る恐る目を開けると、先ほどとは全く異なる空間にいるのに気付いた。かなり天井が高く奥行きも広い、まるで大きな神殿のような場所だ。全く記憶に無いから、ボクの知らない場所だと思う。


「ここはどこだろう?」


 辺りを見回した後、今度は自分の状態を確認する。


 うん、どこにも異常は見当たらない。オルクスも通常通り機能しているってことは配信も継続中の筈だ。


 どうやら、罠は転移トラップだったらしい。問題はどこに転移したかだ。何だか嫌な予感がしてならない。どうもD級迷宮ではないように感じる。



「ぐるるるっ……」


 不意に後ろから大きな唸り声が聞こえた。


 背筋に冷たいものを感じながら恐る恐る振り向く。


 あ、これは確実に死んだかも……しかも遭難してしまう。


 ボクの後ろで咆哮ほうこうを上げていたのは、A級迷宮の迷宮主に相当する『レッドドラゴン』だった。


~~~~~~

あとがき

 第44話をお読みいただきありがとうございました。

 諸事情で短めになってしまい、申し訳ありません。

 次回は頑張ります!

 つくも君、調子に乗って大ピンチですw

 

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