第29話センター争い勃発!? アラニーVSウェン仁義なき戦い?

「実は俺、転生者なんですー。元の世界のアイドルから曲をパクってたら、オリジナルを歌ってた女の子も転生してましたーてへぺろー」なんて仲間たちにけろっと告白できるわけもなく、悶々とした気持ちを抱えたまま俺は地元に戻り、朝練、授業、練習といういつも通りの生活に戻った。俺以外の面々は、いつも通り元気に楽しく……と言いたいところだが、意外なアイツとアイツの間に予想だにしないトラブルが勃発してしまったんだ。

 ウルバーヌスフェスでのステージは、これまでにないほどの大盛況。アイドルという存在を、多くの人々に知らしめることはできた。メンバー各々も人気を集め、俺らの感想専用にひっそり作られたレビュースクリーンではそれぞれの画像付きのコメントで互いの推しメンについて喧々囂々とやりあうような、この世界でのドルヲタの息吹のようなものも感じられるようになったんだ。


 まぁ、ここまではいいとしよう。だがしかし、ここから先がマズかった。

 それぞれの画像付きのコメントで互いの推しメンについて喧々囂々とやりあうような、この世界でのドルヲタの息吹のようなものも感じられるようになったんだ。

 まぁ、ここまではいいとしよう。


(アラニーに決まってる。っていうかそもそもアラニーがセンターだし)

(そうそう、あんなかわいい男の子、どこの世界にもいないよー。ここにだけ存在する至宝)

(えー、ウェン様のセクシーさと軽やかなステップこそ、センターにふさわしいんだから。お子ちゃまには出せない魅力だし)

(そんなことない!!精霊はみんなあんなもんよ。アラニーの魅力は人類以外にも共通だし)

(ナイナイ、あんなイケメン精霊他に見たことないわ)


 こうやって見るとウェン派の精霊ファンVSアラニー派の人間ファンの闘争っぽいが実は違う。


(いるっているって、湖のほとりに来ればじゃんじゃんいるから。私の親戚とか、でもアラニーみたいな子は全然いない)


 逆なのだ。精霊の女の子ファンがアラニーを推し、人間の子がウェンにメロメロになっている。他種族グループがこうして、人間にも異種族にも受け入れられるというのはすてきなことだ。けれど、お互いのファンがいがみ合う状況は、アラニーとウェンの関係にも波風を立ててしまうことになってしまったのだ。


「ねぇ、ウェン……今度からぼくとセンターを代ってくれないかな」


 まず、口火を切ったのはアラニーだった。そもそもアラニーはスカウトされた俺に言われるがままにセンターをやっていただけで、その位置にそこまでの執着はない。


「えー、僕も別に興味はないから。今の場所が気に入っているし」


 一方のウェンにも何が何でもセンターに! などというガツガツした意思はない。


「でもでも、このままファンの子たちがケンカしたままなんて嫌だよ、ぼく」

「それは僕も同じだけど、代わったら今度は君のファンが黙っていないだろう。結局同じことだよ」

「やってみなければわからないじゃないか! ウェンのわからんちん!」

「君こそずいぶん頭が固いんだね。こんなに僕が何度も嫌だと言っているのにさ」

「僕だっていやだ―! センターやりたくないっ!」


 最初はさざ波程度だった二人の揉め事は、寄せては返すうちにどんどん大きな波となりこのセンターの押し付け合いは他のメンバーにまで影響を及ぼすこととなってしまった。センターにいたくないアラニーは歌いながらどんどん左へずれてゆき、それを回避しようとウェンも左へ左へ、その煽りを食って俺は壁際にぎゅうぎゅう押し付けられる有り様だ。すっかすかに隙間の空いた場所で踊るレオも何だかやりづらそうだし、この問題はどうにかしなければならない。ただ、二人だけの問題ではなく双方のファンも絡んでいる。俺ら子供だけでは、どうにも知恵が足りないかもしれない。

 ミハイル先生……は違うな。リューリーのお父さんの楽団の団長……うーん、アイドル的な人気はないよな。俺も一応中身は大人と言えなくないんだけど、人生経験が少なすぎるし……となると、一番この問題を理解してくれそうで対処法も知ってそうなのは……ジリオンのお姉さん、去年入団二年目の十八歳ながらソリストに抜擢され、今年からは史上最年少の十九歳でプリンシパルに昇格した舞踊団のエース、フロリーナさんだ! 舞踊団はアイドルではないが、若い男性の追っかけがいることで知られている。その中でも一番人気の彼女なら、きっと力になってくれる! そう思い立った俺は、早速ジリオンに協力を願い出た。


「なぁ、ジリオン、君のお姉さんにこの問題を解決するための話を聞きたいんだけど」

「姉ちゃんに? うーんそういえば今日は舞踊団の休養日だから、街に買い物に行ってるな。もうすぐ帰ってくると思うぜ」


 えっ、今日、いくらなんでも急だ。でも、この状況じゃまともに練習もできそうにないし、ちょうどいいと言えばいいか。


「じゃあ、これから行ってもいいか」

「おう」


 本格始動してから初めて公演日以外で練習を早々に切り上げた俺らは、つーんっと外方を向き互いを決してみようとしないアラニーとウェンをそれぞれ三人がかりでどうにか引っ張り出し、ぎすぎすした雰囲気のまま舞踊団の宿舎へと向かった。


「ほー、案外広いんだな」

「まぁな、二人部屋だしな」


 宿舎の三階の左端にあるフロリーナさんとジリオン姉弟の部屋は、大きな飾り窓から森を見渡せる開放感のある居心地のいい部屋だった。


「わー、踊り子のポーセリン人形がこんなにー。かわいい、すてきだなぁ」

「あぁ、姉ちゃんの趣味だよ。部屋が女っぽ過ぎて俺は嫌だけどな」


 戸棚の上に並んだ各地の民族衣装を着た踊り子の前でユーリス兄さんは目を輝かせ、ジリオンはちょっと不服そうに口をとがらせる。いつもならここでアラニーもわいわい間に入ってゆかいな会話を繰り広げているところだけど、今日は違う。部屋の隅と隅に離れたアラニーとウェンは、どっちも壁を見て互いばかりか誰とも目を合わせようとはしない。そんな二人を交互に見つめたミュッチャは不安そうにレオを見上げ、その腕につかまってカタカタとふるえている。

 うーん、意外と根深い問題になりそうだなぁ。俺とユーリス兄が顔を見合わせそっとため息をついていると、いつの間にか部屋の中心にすらりと手足の長いお団子頭の女性がいた。

 フローリーナさんだ! 舞台での色っぽくて華やかな印象と違って、化粧っ気のない普段の姿は意外とあどけなく見えるな。しかしさすがプリンシパル、部屋に入ってくるまで足音ひとつしなかったぜ。


「なにー、ジリオン。お客さんが来てるのにお茶の一つも出さないで」

「あっ、姉ちゃん……実はさ」


 ジリオンはアラニーとウェンに聞こえないように、事の次第をこっそりフロリーナさんに耳打ちした。フロリーナさんは真剣な顔でうんうん何度かうなずくと、すっすっといきなりアラニーに近寄り、バシンと背中を叩き、ウェンにも同様にした。


「アンタたちがごちゃごちゃ揉めてるから、私に白羽の矢が立っちゃったのよ! 週に一度しかない休養日の貴重な時間を使ってあげるんですから、ムスッとしてないでちゃんとソファーに座って話を聞きなさいな」


 アラニーとウェンは小さくこくっとうなずくと、しぶしぶソファーの端と端に離れて腰掛けた。けれど外方は向いたままで、間に挟まれた俺ら六人は気が気じゃない。


「はーい、前も向きなさいっ、失礼でしょ」


 フロリーナさんにまたもビシッと言われて、外方期間は何とか終わったけど……


「えー、私はこのルクスアゲルの公式舞踊団のプリンシパルを今年から務めさせてもらっています。大きな重圧と共に大変やりがいのある立場です! いうなればアラニーのセンターと同じね」


 フロリーナさんは全員が前を向くと、自分の立場について思うことを色々と話してくれた。


「立候補ではなく思いがけず選ばれたというのはアラニーと同じですが、私はこの立場にとてもやりがいを感じています。アラニーはどう? 嫌なんだっけ、やりたくないんでしょ」

「ぼ、ぼくは本当はセンターをやるのが嫌なわけじゃないんだ……みんなの軸になって真ん中で歌って踊るのは、とてもやりがいがあるとはぼくも思ってるよ。でも、ぼくがセンターにいるせいでみんなが揉めるのが嫌なんだよ」


 アラニーは、やっと本音を漏らしてくれた。


「そう、あなたわかってるじゃない。そう、センターは軸なのよ。でもグループはそれだけじゃだめね、軸があってそれを支え、互いを輝かせ、相乗効果で全体が一層光り輝く!    それがグループの醍醐味ね」

「はい、そう思います」


 アラニーはフロリーナさんの優しい微笑みに、こくんとうなずいた。


「で、ウェンはどうしてその軸に代わるのが嫌なの? 楽な立場でいたいとか思ってる?」

「そんなことありません、僕ら全員それぞれの役割があり、それはセンターだろうが左サイドだろうが大外だろうと同じです。楽な立場なんかありません」


 ウェンは珍しくキッとした強い瞳で、フロリーナさんを見据える。


「あなたもわかっているじゃないの。そう、みんな同じように重要ね、それでもセンターになることそれ以外はいる。そしてその立場はね、不動のものではないのよ!」


 フロリーナさんの意外な言葉に、アラニーは少し首を傾げた。


「不動ではないということは、代わってもいいってことですか」

「そうね、あなたたちがこれからアイドルを続けていって少しずつ大人になっていったなら役割もまた変わるのかもしれないわ。でも、それは今じゃないってこと、だって始まったばかりだし、今の役割でちゃんと上手くいってるんでしょう」


 この言葉には、二人以外の全員がブンブンうなずいた。


「誰がセンターになっても文句をつける人はおそらくいるわ。その人たち全員を納得させるのは難しい、私たちはできるかぎりの力を尽くし素晴らしいパフォーマンスで応援してくれる方々の想いに応えるしかないのよ。いつか変わるその日が来るまでは、みんながそれぞれの役割を精いっぱいやってほしいわ、私もそうするから!」


 今度は全員が、深くうなずいた。さすが最年少プリンシパル、日々重圧を背負いながら輝いている人の言葉は重みが違う。


「アラニー悪かったね。僕も言葉が足りなかった」

「ううんこっちこそ、嫌な態度とってしまってごめんね」


 アラニーとウェンはどちらからともなく近寄り、がっしりと握手を交わした。こうして、前代未聞のセンター押し付け合い騒動は、無事に幕を閉じたのであった。


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