第28話まさかまさか、君も転生してたっての!? つーか、誰?

「わー、すっごいね! ぼくら専用の楽屋テントまであるよ」


 今まで領地内での田舎の祭りを回ってきた俺らにとって、ウルバーヌスフェスティバルでの好待遇は驚きの連続だった。アラニーが感激した楽屋テントは簡易シャワーやトイレまでついていて、それぞれに更衣室まである。真ん中にはでーんと座り心地のよさそうなふかふかのソファーに、サイドテーブルには高級フルーツやさまざまな種類のお茶やジュースが用意されている。まさにVIP待遇だ。


「すげぇ、人気アイドルになったみたいだ……」


 ここまで至れり尽くせりでは、俺がこんなつぶやきをしてしまうのも仕方あるまい。リハーサル用にわざわざ貸し切りにしてもらえた中央地区の体育館でリハーサルをしながら、俺はにやけが止まらなかった。コーリス町での初ステージ、あの惨憺たる有り様からほんの一か月でここまでになるとは思いもよらなかったぜ! 途中で帰って行った観客が、異種族混合のグループなんてありえないとか、うるさすぎるとかレビュースクリーンに散々悪評まかれてたのウェンが気を使って知らせないようにしてくれてたんだよな。


 ここ、ウルバーヌスでは初代領主エルフィリオ以降は異種族と人間が共同で統治し変わりなく共に働き、暮らしている。さすが妖精騎士の故郷だ。駅前に銅像もあったけど、ちょっとウェンに似ててかなりのイケメンだったなぁ。こんな地なら、俺らエアミュレン5も受け入れてくれるだろう。俺らのスター街道はまだ始まったばかりだぜ。

 そう、俺は浮かれていた。とてつもなく、史上最大に調子に乗って浮足立っていた。でもそれは、ステージにおいてはいい作用をもたらしたんだ。


 今回のステージのための新品できらきらのラメ付きのお揃い衣装は、ミュッチャのアイディアによりそれぞれのイメージカラーの色違い。アラニーは瞳と同じアイスブルー。レオも同じく瞳と同じ色の深紅。

 ウェンは森の木々のように深く鮮やかな緑色。そして俺らアウモダゴル兄弟は、同色のハニーブラウンだ。そんなアイドルアイドルしたイカした衣装を身にまとい、まばゆいスポットライトの中俺らは歌い、軽やかに舞い踊った。

 まずは、パップンの曲と振り付けをアレンジした三曲。【夢見るセーラーガールプリンセス改め夢見るセーラーボーイプリンス】【走れ走れ星の向こうへ】【ユニバースラブ、ウチらの愛が宇宙を救う!】結成当時から練習で使っていたこれらはもう慣れたもんで、ノリノリで自分のソロパートを歌い踊り、いつもの俺では考えられないような観客を煽るような言葉まで自然と口から飛び出してくる。


「えー、ここまでも十分楽しんでくれたと思うけど、この後は俺らエアミュレン5のオリジナル曲が続きます! さっきまでの三曲で体はあったまったよな! こっからはオーディエンスのみんなも本気出してガーっと行こうぜ!」


 そして、オリジナル曲の披露の前にはみんなで一章面名考えたあの決めポーズ! リーダーの俺がメンバーの名を呼びリューリーがこのためだけに持ってきたリトルエレキドラムをズダダダダダーンと鳴らすと、一人ひとりにスポットライトが当たる。


「えー、まずはセンター、天使スマイルのアラニー!」

「きゃぁぁぁぁ!!」


 アラニーの天使かわいい微笑みとポーズに、俺らと同年代の若い女性客が悲鳴のような声と共に色めき立つ。


「そして、セクスィー番長、風の精霊最年長のウェン」

「ほぉっ……」


 くねらせた腰とセクスィー投げキッスに、お姉さまや奥様っぽい声のなまめかしい吐息が漏れる。


「クールガイ、低音ボイスは魅惑の響き、ダンピールのレオー!」

「きゃー」

「うぉぉー!」


 ビシッと決まったレオポーズに浴びせられるのは、女の子の黄色い声と野太い男性の声の入り混じった声援。そして、オーラスの俺ら兄弟の紹介は、アラニーが担当。


「エアミュレン5のリーダーエルとぬいぐるみ大好きなお兄さんのユーリス兄弟!」


 くるりとターンして腕をガシッと組んだ俺ら兄弟へは……「ちびっ子兄弟、がんばれー」「最後までへこたれずにちゃんとやるのよー」何か、俺らだけ保護者目線の声援なんですが……

 まぁいい。愛されるアイドルグループってのは、親子二世代、いや三世代にもわたって応援されるものだもんな! いいぜ、俺らは親御さん担当で!


「じゃあ、いっくぜー! まずはみなさんお待ちかねのオリジナル新曲、【手と手を重ねて】だー!」


「頼りなかった俺の手に、積み重なってく仲間の手♪ 腹の底から勇気が湧いて目指す明日へ一直線♪」

「エアエア、みゅっれーん!」


 初披露の新曲だというのに客席からは合いの手まで聞こえてきて、俺らはますますノリノリになり、続いての新曲バラードの【笑顔の花が咲き乱れる】ではしっとりとした空気が会場中を包み込んだ。いつもより十五分長いステージは俺らの足を少しだけ疲れさせたけど、練習では何度もぶっ続けでやっている。なによりこんな会場からあふれんばかりの観客の前でパフォーマンスするのは初めてだ。俺ら目当てで来た人たちばかりではないだろう、付き合いで仕方なく来た人やもののついでで何となくいるだけの人もいるかもしれない。

 なによりこんな会場からあふれんばかりの観客の前でパフォーマンスするのは初めてだ。

 俺ら目当てで来た人たちばかりではないだろう、付き合いで仕方なく来た人やもののついでで何となくいるだけの人もいるかもしれない。

 でも、そんな人たちにも少しでも楽しく、笑顔になってもらいたい。


 俺らは渾身の力を込めて、初めて作ったオリジナル曲としてずっと俺らとともにあった【センセーショナルレインボー】を歌い踊った。


「センセーションを巻き起こせ!」


 ピッタリとそろった五人の声と、天を指す指。

 やりきってそのまま天を仰ぐ俺らの耳には、惜しみない拍手と時に興奮して上ずった観客の声が入ってきた。


「すごかったよー! エアミュレン5」

「最高だったー」


 客席に咲く満面の笑顔の花、夢にまで見た光景だった。


「あーつっかれたー」

「もう、くったくただぁ。早くホテルに行って寝よう、あっ夕飯後に」

「zzzzz」


 くったくたで楽屋テントのソファーに倒れ込むと、ウェンが真っ先に寝息を立て始めた。

 自然体でなんでもそつなくこなしてしまうウェン、今までこんなことはなかったけど、今回は異種族の観客も多く来ていたためいつもより少し肩に力が入っていたのかもしれない。

 そういえば、ウェンと同族らしき精霊っぽい人たちがふわっと浮かんで楽しそうにウェンのパートを口ずさんでいたなぁ、あぁいうのうれしいよなぁ。でも、そんな人たちにも少しでも楽しく、笑顔になってもらいたい。俺らは渾身の力を込めて、初めて作ったオリジナル曲としてずっと俺らとともにあった【センセーショナルレインボー】を歌い踊った。


「センセーションを巻き起こせ!」


 ピッタリとそろった五人の声と、天を指す指。やりきってそのまま天を仰ぐ俺らの耳には、惜しみない拍手と時に興奮して上ずった観客の声が入ってきた。


「すごかったよー! エアミュレン5」

「最高だったー」


 客席に咲く満面の笑顔の花、夢にまで見た光景だった。


「あーつっかれたー」

「もう、くったくただぁ。早くホテルに行って寝よう、あっ夕飯後に」

「zzzzz」


 くったくたで楽屋テントのソファーに倒れ込むと、ウェンが真っ先に寝息を立て始めた。自然体でなんでもそつなくこなしてしまうウェン、今までこんなことはなかったけど、今回は異種族の観客も多く来ていたためいつもより少し肩に力が入っていたのかもしれない。そういえば、ウェンと同族らしき精霊っぽい人たちがふわっと浮かんで楽しそうにウェンのパートを口ずさんでいたなぁ、あぁいうのうれしいよなぁ。

 俺も半分まどろみつつ、ソファーに体を沈めてくつろいでいると、テントの外から何やらがやがやと言い争うような声が聞こえてきた。


「あの、こちらのテントは関係者専用となっておりまして、ファンの方は……」

「何言ってんのよ! 誰がファンなんかであるもんですか! そこどいてよ、通しなさいよ」


 係員さんと誰か女の子が揉めているようだ。何だか嫌な予感が胸をよぎって、こっそりテントのすき間から覗いてみる。うーん、知らない子だ……やっぱ、誰かのファンなのかな。そっと戻ろうとすると、隙間からにゅっと手が伸びてきて俺はテントの外に引っ張り出されてしまった。


「ちょっとアンタ! よくもウチらの曲を無断使用してくれたわわね! しかも勝手にアレンジしてるし、あたしのソロパートまで歌っちゃってさ。しかもあのヲタ芸……」

「はいはいはい、エアミュレン5さんはお疲れですから、もうその辺にしておいておうちに帰りましょうね」

「ちょっとぉー!」


 係員さんに剥がされ女の子はその場からつまみ出されたが、俺の頭の中はその子の言葉でパンパンになっていた。


 えっ、えっ、えっ、ウチらの曲……ってことは、あの子パップンのメンバー!? 年は、見たところ同じくらいだったよな。ってことは、俺の事故の後にメンバーにも何かがあったのか……気になる、気になるけど、追って行って問いただすのも怖い……ソロパート、俺が……どこのことだろう……せららんパートはいつもアラニーが歌ってるから、せららんではない。となると、うーんわかんねぇ。

 俺の頭の中ではパップンのメンバーの名前と顔がぐるぐると回り続ける。何故かせららん以外の十人は、今でも顔がちゃんと浮かぶ。

 けれど、どんなに考えてもさっきのあの子が誰なのかさっぱり見当もつかない。あぁ、こんなにパップンのことを考えたのはすごく久しぶりだ。エアミュレン5の活動が軌道に乗ってきてから、俺の頭は自分のグループ、そして支えてくれる仲間たちのことでいっぱいになっていた。アイドル活動の足がかりとして、パップンの曲や振り付けを散々利用しておきながら。

 そう、俺は暗闇の奥底にいた自分に光を見せてくれたパップンを忘却の彼方に追いやろうとしていたんだ。

 だから、さっきのあの子はそんな俺への戒めの使者だったのかもしれない。

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