第27話いざ大都会へ、魅惑の摩天楼は未来都市?

 海辺ツアーの成功に気をよくした俺らは、ステージでのパフォーマンス中にもっと観客にアピールするため、それぞれの決めポーズを考え始めた。

 天使かわいいと評判のセンターアラニーは、両手の人差し指と中指で作ったハートマークををバラ色のほっぺにくっつけ、右にちょっと首を傾けてにっこりスマイル。下手したらあざとくなりそうだけど、さすがアラニー全くその気はなく純真無垢、天真爛漫にしか見えない。右サイドのレオは人差し指をピッとおでこから観客に突き刺し、ふっと息を吹きかけてめ上を見上げるクールポーズ。これもまたカッコつけすぎになりそうなところなのに、レオだけに長身でクールなイケメンぶりがより引き立つ。指先にスポットライトが当たれば、ミステリアスにゆらめく深紅の瞳も一層際立つだろう。左サイドのセクスィーウェンは、やはりセクスィーに緑の波打つ髪を掻き上げてから二本の指の先を唇に当て、パッと投げキッスした後に伸ばした腕を腰に当て、右肩を突き出してきゅっと腰をくねらせる。うーん、セクスィー、さすがエアミュレン5一番の年長者。若者ばかりでなく、年長者のハートもずきゅんと撃ち抜かれちゃいそう。

 そして大外右のユーリスと大外左の俺は、兄弟セットでガッツポーズからのターンで互いに近寄り、互いの腕と腕をガシッと組んでダブルピースだ。俺ら兄弟のキャラは他三人と比べて正直薄味だ。だったらもう、セット売りでいいじゃない! 俺の決断に、ユーリス兄も乗っかってくれた。


「うん、ボクら二人で何十倍の力を引き出そうよ!」

「おう、やってやろうぜ!」


 これは断じて、どべ人気の自分を引き上げようとする姑息な手段じゃありませんから! 二人のため、いや! エアミュレン5というグループ全体の底上げのためですから!

 こうして無事ポーズも決まり、今までは三十分だった公演時間が今回は四十五分に伸びたこともあって、リューリーと俺らは新しいオリジナル曲を急きょ二曲仕上げることとなった。

 初めてのオリジナル曲【センセーショナルレインボー】、そして【笑顔の花が咲き乱れる】と【手と手を重ねて】の新曲二つを中心に何度も午後の練習を重ね、朝食の準備の前はユーリス兄と体力づくりのトレーニング、そんな忙しく充実した日々を過ごしていた俺は、その曲も歌い踊っていたというのにパップンのことをほとんど思い出すことが無くなっていた。それくらい今の人生が、アイドル活動が、今の俺の確かな生きがいになっていたんだ。


 そして、いよいよ向かったウルバーヌス県。高速鉄道に初めて乗り、森を抜け、運河を越え、畑を通り過ぎる、高所ではないからそんな風景をゆっくり楽しめると思ったら、高速じゃなくて光速なんじゃね? って思うほどにびゅんびゅん光の速さで車窓の風景は移り変わり、目がぐるぐるして今にも酔ってしまいそうでとても見ていられなかった。俺ってば、とことん乗り物を楽しめない宿命らしい……

 まぁ、昼食に配られた鉄道お子様弁当はシュッと流線形でメカメカしく全面に合体ロボットにでも変化しそうな青緑の目玉のような窓のついた格好良いこの鉄道の形をしていて、中身のポンポンチキンライスやぺこぺこプリン、うねうねウインナーもそこそこ美味しく楽しめたのでよしとする。ミハイル先生はウェンとの海と森の精霊トークに夢中で、俺らに妖精騎士の復習させるのもすっかり忘れてくれてたみたいだしな。


「えー本日もサナーティオ西高速鉄道をご利用いただきありがとうございます。まもなく次の停車駅、ウルバーヌス南に到着いたします」


 ホッとしていた俺は食後の眠気に身を任せ、車内アナウンスが目的地への到着を知らせるまで、すっかり寝こけてしまっていた。


「ほらほら、エルフィリオくん、ユーリスくん、アラニウスくん、レオくんにミュッチャさんもよだれが垂れていますよ。ハンカチで拭いて降りる準備をなさい」


 どうやら俺だけでなく、ミハイル先生に車中での話し相手としてロックオンされたウェン以外は全員夢の中にいたようだ。慌ててミュッチャお手製の今回のために初めて作ったお揃いのきらきら衣装やパジャマやスポドリの入ったリュックを背負い、ホームへと降り立つ。初めて足を踏み入れた領地外、ウルバーヌス県。そこに広がっていた世界は、見たこともない大都会だった。まず、駅からして俺らが地元で乗ったルクスアゲル中央駅のレンガ造りの古式ゆかしい感じとは違う。銀ピカの通路はすべて動く歩道で、駅の利用者は一歩も自分の足を動かす必要がない。途中の売店に足を止めたいと思えば、パチンと指を鳴らすだけでその場に止まってくれる。通路の床は何層にも重なってそれぞれの足の踵にぴたりとついて空中を移動しているため、同じ方向に向かっている他者がそれで足止めされる心配もないのだ。

 壁はすべて大きなガラス窓で組まれており、今日のような雲一つない晴れた日には相当まぶしそうだが紫外線をカットする機能もしっかり備わっているため暑さもまぶしさも全く感じない。空調も整っていて隅から隅まで、穏やかで快適な温度にずっと保たれている。そして、外に見える景色もまたすごい、斬新なデザインのどうやって立っているのか理解不能なくねくね曲がったキューブ状の細い高層ビルや飛び回る自家用ジェットカー。屋敷からここに来るまで数十年くらいタイムリープしてしまったような錯覚に襲われる。


「なぁ、アラニー、王都もこんな感じなのか?」


 唯一都会人のアラニーに尋ねてみるが……口をあんぐり開けたアラニーは俺以上に驚いたようなまん丸眼で、ブンブンと激しく首を振る。


「まさかまさか、王都はルクスアゲルよりもっと古式ゆかしい感じの歴史を感じさせるような街並みなんだよー。お店も多いし都会と言えば都会なんだけどさ、レンガ造りの古い建物が多くて、高層ビルとかはほとんどないんだよねーここって未来みたいで、ぼくびっくりしちゃった」


 アラニーでこれでは他のみんなは言うまでもない。どうせポカーンとしてるんだろうなと見回してみると、レオミュッチャ、ユーリス兄はその通りだったが、リューリーとジリオンのサポートコンビはちょっと違っていた。ちっとも物おじしないばかりか、なんと駅構内で即興パフォーマンスを始めてしまったのだ。


 キュイーンきゅるるるー♪


 リューリーのピリッと空気を切り裂くような演奏に合わせ、ジリオンが踵につけた動く通路やリューリーの肩を巧みに使ってくるりと宙返りし、お気に入りのヲタ芸を組み入れたアクロバティックなダンスを繰り広げる。


「うぉー、すっげーな」

「うんうん、斬新だよ! いいねー」


 いつの間にか周囲には新しもの好きのウルバーヌス人の人だかりができ、リューリーの山高帽にはちゃりんちゃりんと銅貨や銀貨が投げ込まれていった。


「わーすごいすごい。二人ともブラボー」

「許可とかとってないよね。ヤバくね」


 大興奮で拍手するアラニーの横で俺とユーリス兄がひそひそと不安を語り合っていると、トイレで用を足していたミハイル先生と駅員さんが同時に駆け付けてきた。動く通路をペッと剥がして、二人とも全力疾走だ。


「こらー! 勝手に駅でパフォーマンスをしてはいけません! やめなさーい」


 示し合わせたように呼吸が合った二人のセリフに、俺とユーリス兄は思わず顔を見合わせてぷっと吹き出してしまった。この後巻き添えを食って、止めなかった責任があると俺ら全員叱られる羽目になってしまったのだけど……もちろん山高帽のお金たちは、駅員さんに没収されてしまいリューリーはしょぼんとしていると思いきや、駅を出た直後にミハイル先生に見つからないように陰に隠れつつ靴のかかとをちゃりんと鳴らして銀貨数枚を宙に投げつけにやりと笑った。それが自分で持ってきた小遣いなのか、はたまたこっそり隠したさっきのお金なのか、結局わからずじまいで、誰も訊こうとはしなかったのだった。



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