第18話あっそうだ! グループ名はどうしよう

 その日の夕食は、アラニーの鼻が嗅ぎつけた通りの虹色魚をぴょんぴょんハーブ草で蒸した魚料理と水密ブルーベリーのムースだった。


「わー、美味しいです。急にお邪魔した僕にまで用意してくださってありがとうございます」


 ウェンの魅惑の微笑みに、フェリコさんとミュッチャママの夫妻はとろけるような笑顔でうんうんうなずき応える。


「いいのいいの大歓迎、ところでウェンくんは森の向こうで生活するのに問題はないのかい? 精霊さんの役目とかは」

「えぇ、僕はまだ子供ですので精霊としてはほんの幼児みたいなものです。なので役割とかも何もないですし、百歳まではどこに住んでも何をしても自由なんですよ」

「ほー、同じ特区の住人だというのに知らなかったなぁ。勉強になるよ」

「ねぇねぇ、ウェンのお父さまとお母さまには言わなくていいのー」


 フェリコさんとウェンの会話に、アラニーがふいに乱入する。話の邪魔しちゃダメだろって止めに入るべきだったかもしれないが、そこは俺も興味があって耳をそばだてて聞き入ってしまった。


「うーん、僕たち精霊にはいわゆる産みの親はいないよ。神に創造されたからね、兄弟やいとこはいるけど親はいない、しいて言えば神様が親になるのかな」


 おぉ、これはまた壮大な。


「へー、そうかそりゃすごいねー、じゃあ神様にエルのおうちに行くってお手紙書くといいね」

「ははっ、そうだね。オオワシにでも運んでもらおうか」

「うんうん、それがいい」


 アラニーは無邪気だなぁ、俺はなんて言っていいかわかんなかったぜ。

 ふーっとため息をつきながら食後のお茶をすすっていると、ウェンがふいにこちらを向きパチンとウィンクしてきた。ひょっとして、二人と会話しつつ俺の様子まで気にかけていたんだろうか。何かすげぇなぁ、こりゃ老若男女たらされちまうわ。うーん、神様こんないいメンバーをありがとうっす。俺は天上の神様に、ひっそり心でお礼を述べた。


 それからの数日間、メンバー探しも終えた俺たちは異種族特区で毎日楽しく遊び……はせず、朝食を終えたらメンバー四人+マネージャーのミュッチャでミーティング。昼食後には外の野原で体を動かすという日々を過ごした。


「なー、エル。アイドルってこんな踊りをやんのか、なんか風変りだな」


 レオが怪訝そうな顔をするのも無理はない。とりあえずの連携として、俺たちはダイエット合宿、そしてアラニーと日課にしているヲタ芸技をこなしていたからだ。


「あー、屋敷に戻ったらちゃんと考えるからさ。とりあえずこれで」


 そうは言ったものの、俺がちゃんと踊れるのは完コピしたパップンの振り付けだけだ。それをアレンジしてパフォーマンスしようとは思っているのだが、ダンス素人のみんなにはまだ難しいかもしれない。今はやはりヲタ芸でチームワークを深めるのがいいだろう。


「アハハー、やっぱりこれ楽しいね」

「うん、こんな踊りを考えるなんて、エルはひょうきん者だね」


 一番ヲタ芸歴の長いアラニーはさすがに動きがいいな、ウェンもふわりと優雅な身のこなしで、ヲタ芸がまるでコンテンポラリーダンスみてぇに見えるわ。一方レオは……技決めるたびカクカクして意外と動きがぎこちないな、でも手足が長くて見栄えはいい。うん、これならいいグループになりそうだ。俺らの……あれっ、俺めっちゃ重要なこと忘れてね。俺らはアイドル、ボーイズアイドルグループ……で? グループ名は!? ヤバッ、こりゃマズいわ。


 大事なことにやっと気づいた俺は、夕食を終え風呂までの短い時間に緊急ミーティングをすべく子供部屋にみんなを招集した。


「なーにーエルぅ、ぼくもう眠いんだけど」

「俺もゆっくり風呂に入りたいぞ、ほら見ろ、ミュッチャはもう立ってもおられん」


 あぐらをかいたレオの膝では、ミュッチャが横たわってうとうとしている。ウェンは……


「真面目な顔もいいねぇエル、さぁどんなお題目なのかな」


 うん、いつも通りだ。欲を言えばミュッチャの意見も聞きたかったんだけど、この際仕方ない。後でしっかり確認を取ろう。


「あのさ、実はまだ俺らのグループの名前を決めてないことに気付いてさ」


 俺のその言葉に、ミュッチャ以外の三人はきょとんとして首をかしげる。


「グループ名って舞踊団とか楽団とかみたいに、王都だったら王都舞踊団、エルんちの方だったらルクスアゲル楽団とかそういうんじゃないのー」


 そうだよな、アラニーの言う通りこの世界の芸能的なものは、いちいちオリジナリティのある名前がついたりしていない。でも、アイドルは、俺らはそれじゃダメなんだ。


「いいか、俺たちがやるのはこの世界で初めてのことだ! だから、他と同じじゃダメなんだよ。ガツンとくる大衆の胸に響く名前を付けなきゃ」

「おー、何かそれいいな」


 アツいものに弱いレオが賛同してくれた。


「そうだろ、レオ何かいいアイディアないかな」

「うーん、俺らは異種族間グループだからよ。ダンピールレオとその仲間たちってのはどうだ?」


 そのまんま! そしてグイグイ自分推し、何よりくっそダサッめっちゃダサっ、ダッサダサ!


「ハハッ、分かりやすいね」

「そうだろ、じゃ、決定だな」

「いやいやいや、すごーくいいんだけど……ほかの二人の意見も、う、ウェンは」

「うーん、ウェンwithエルレオアラニーは?」


 大差ない……どうしようコレ……


「ハイッ、ぼくにも訊いてきいてっ!」


 ガクッと落ち込む俺の目の前で、アラニーがピーンっと腕を上げている。期待できない、けど聞かんとな。


「アラニーどうぞ」

「えっと、まずはエルぼくレオの三人の名前の頭文字をつなげるとエアレになるでしょ、これは古典語で仲間を意味します! そこにウェンのンを足してエアレンにするとゆかいな仲間、またまたその真ん中にミュッチャのミュを入れてエアミュレンにすると、かけがえのない仲間! だからね、エアミュレン5にしたらいいよ!」

「すげぇ、アラニーいつの間に古典語勉強したんだよ。あんなにいやだいやだって言ってたのに」


 すげぇ、すげぇけど、ちょっと置いて行かれた気分だ。


「えっとねー、ミュッチャがこの前教えてくれたんだよー! 物知りだよねー。みんなの名前だから覚えられたー」

「そ、そっか、さすがだな。ミュッチャ」


 ちょっとだけホッとしたことは、胸にしまっておこう。


「おぉ、なんかカッコいいな。俺も賛成だ」

「うんうん、名前も全部じゃないけど入ってるしね」

「ミュッチャも、いい、思う」


 いつの間にか目を覚ましていたミュッチャも含め、満場一致で俺らのグループ名は決定した。

 エアミュレン5 かけがえのない仲間で友達の五人。なかなかいい名前だ。めでたしめでたし。


 これで今回のミーティングは無事終了、というワケにはいかなくて、俺にはもう一つ済ませないといけない仕事がある。


「後さー、エアミュレン5のリーダーを決めておかないと。俺は最年長のウェンがいいと思うんだけど、どうかな」


 ウェンは人当たりがめっちゃいいし、老若男女に通用する魅力の持ち主。リーダーにこれほど向いた人はいない。おそらく反対する者はいない、一応の確認作業だけだと思っていたのに、それなのに。


「いやー、僕はつい先日加入した新参者だからね。ここはご遠慮させていただくよ」


 当の本人には、けんもほろろに断られるし……


「俺らを仲間にしてこのグループを作ったのはお前だろ、お前がやればいいだろうがよ。エル」レオの思ってもみないアイディアに、ぶんぶん首を振っているというのに……「そうだ、そうだー! 言い出しっぺのエルがやるべきだー、やっちゃえやっちゃえー!」アラニーまでそれに乗っかっちまって……「うん、僕もそれなら大賛成、今後もよろしくね。エルリーダー」「エル、がんばれー!」ウェンのウィンク&投げキッスとミュッチャの拍手にダメ押しされてしまい、今度は俺以外の満場一致でエアミュレン5のリーダーが決定してしまった。


 それは誰、俺、とほほ。


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