真新しい靴がステップ
@i_no
靴をひと揃ひ誂へた。
私は私の猫に与へた。
いつとう新しい猫に。
瞼を上げるよりさきに此れはゆめだと知れてゐた。
階段の踊り場毎に
どれをも
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最後の段を踏み切れば、眩く水を湛えゐた。
仰げどそらに
滴るでなく、溢れるでなく、ひかりを容れて揺れるばかりの此れもまた、水ではなしにひかりであるやも知れないと、思ふともなく思ひつゝ、まなざす先を転ずれば、中洲のやうな、
透かしの
ひと足引いて、
片膝ついて、手を差し入れて、撓やかな脛の下から
其の手を取つて促せば、抗ふでなく、すろりと其の身を
そ、とやはらかな音に置かれて、もういちど。
まつさらの靴底揃へ、其の脚はたゞ
ふと、連々と、漣々と、越し方からは波のよに、あまたの色糸ひと条に綯はれたやうに、聴き分きがたくもとり〴〵のゆめを唄ふに立ち昇り来る聲がある。
律は千種に縺れては逸れて絡まつて、委ねやうにも詮のない。
「
捉へたゆびを
高く、
低く、
速く、
遅く、
遠く、
近く、
継ぎ目なく、絶え間なく、花の
ひと足ごとに、
私の記憶の色をどれより定かに写した
眺むるおのれに眺められゐる此れさへもまたおのれが欠片。
おのれが
あなたに向かひゐた筈の執着さへも、此処に斯うして思ふがまゝのなれの果て。
あなたは此のあなたでなしに、
私とて彼の私ではなく、
さればこそ私たちなど既にどこにもゐないのだつた。
此処に斯うして踊るさへ、未練の名残のゆめはまもなく褪せるのだらう。
ぢきに私は目覚めるだらう。
春のさなかに、あなたのゆめのたゞあたゝかに満ちるばかりを望む私に為れるのだらう。
色は匂へど散りぬるを。
散りぬるを。
花を散らせる風なれば。
ただ遠くから、遠くから、あなたの夜を願へるだらう。
あなたのゆめを願へるだらう。
真新しい靴がステップ @i_no
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