1年目5月・志那実桜顕現
サトの中ですぐに桜の植樹ができる最後に残っている地点が山境(西)でそれは本当に自然の森が目の前に迫っている境目だった。
手軽に植樹ができるそこに恵美は
「よーし、植えていこー!」
「こー!」
今日もお供しているみづはもかけ声くらいは真似できるようになっている。
恵美と同じように右腕を突き上げて楽しそうににこにこしている。
まだ微笑ましいだけの光景なのでお目付け役の
「いよっと」
ここは苗木を地面に突き刺すだけで勝手に植わっていく適正地点なのでみづはも
いつも通りに苗木はひとりでに生長して光と共に
可愛らしいチャイナ服にお団子にした髪を黄味の強い朱色のカバーに抑えた少女がカンフー映画のようにポーズを決めている。
「
なにか私怨まじりの自己紹介を高らかに空に響かせているけど恥ずかしくないんだろうかと蜜緋芽は思ってしまう。
確かに近代以降の日本では圧倒的に西洋実桜の品種ばかりが栽培されて流通しているので肩身が狭いというか恨みつらみがあるのも理解するけど無駄に声が大きい。
「チャイナ! チャイナっ子! しかも元気系! 解釈一致!」
「
チャイナ服ロリっ娘を見て興奮した恵美が志那実桜に飛びかかって体のあちこちをまさぐり始める。その手がスリットに入りこんですべすべした太ももを直に撫でられると志那実桜は顔を真っ赤にして泣きそうな悲鳴を張り上げる。
だらしなく顔を緩めて少女の張りのある肌を堪能している恵美の背後にゆらりと黒い影が迫る。
「止めんか! 毎回毎回、学習しろ!」
「ぎゃんっ!?」
蜜緋芽の鉄拳が制裁の雷のごとく恵美の空っぽの頭に振り落とされた。きっちり一撃で撃沈する腕はさすがである。
蜜緋芽は気絶して地面に崩れ落ちる恵美を見下して、ふん、と鼻を鳴らし一秒でも早くみづはを変態から引き離すべく抱き上げる。
「平気?」
「
「う、
「はいはい、だいじょうぶだいじょうぶ。さくらんぼじゃなくて体目当てなのはこのばかだけだから。他の人はそんな獣欲だけで生きてないから」
「ぐぇ」
怯える志那実桜を安心させるように蜜緋芽は恵美だけがキチガイなだけだと教えながら性犯罪者の背中を踏ん付ける。
その容赦なく体重をかけて恵美に潰れた声を出させる蜜緋芽のドSっぷりに志那実桜はガクブルと震えている。
「こわい、こわいところなのだわ……人の似姿になんてなるもんじゃなかったのだわ……」
憐れな志那実桜の姿に蜜緋芽は心底胸を痛める。
「かわいそうに……。このおばか。あんたのせいで幼気な櫻媛が顕現したのを後悔してるじゃない」
「そんな!? せっかく会えたのに!? どうして!?」
「あんたがロリコンのガチレズでヘンタイで節操なしだからよ。反省しろ、このおばか」
「ぐにゅっ」
自分の罪過を全く理解してない
「みー、かー。おぁかー」
「ええ、そうよ。あなたはこんなおばかになっちゃダメよ」
蜜緋芽の腕の中でみづはも舌足らずに恵美を罵る。
「え、やば、かわいい。さいこうかもしんない」
でもそれは恵美を喜ばせるだけで見下す蜜緋芽の目付きはさらに白く冷たくなっていく。
「故郷に帰りたい……」
「残念だけど、その方法はまだ見つかってないわ」
淡い希望を抱かせても苦しみに押し潰されるだけなので蜜緋芽は即座に現実を突き付ける。
しかし絶望に顔を暗く沈ませる志那実桜を見ているとじわじわと圧し掛かるか一息にトドメを差すかの違いしかないように思えてしまう。
「そんな。帰っちゃダメだよ」
「ふふふ、あなたの妓女になれってこと?」
蜜緋芽に踏みしめられたまま声をかけてきた恵美に志那実桜は身の危険を感じてぎゅっと自分の体を両腕で抱き締める。
「ちがうよー」
しかし体目当てではないと一応恵美は否定する。それを信じてくれそうなのは無垢な瞳で恵美の様子を眺めているみづはくらいだけれども。
「ここ、甘いものほとんどないからさ。みんなにさくらんぼ食べさせてあげたくて植えたんだよ?」
「えっ」
こんなタイミングで自分がそうしたいという役割を望まれてると言われて志那実桜は戸惑ってしまう。
まさかと思って蜜緋芽にバッと顔を振って視線を向けると面倒くさそうに肩を竦められた。
「一応、実物が出てくるまではそういう話だったわよ」
恵美が色欲に目が眩んで暴走したのを蜜緋芽は否定しないが志那実桜の果実を望まれていたのも嘘だとは言わない。
それだけでほんのりと目を輝かせて希望を抱く志那実桜はちょっとちょろい気がした。
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