第20話

 おじいちゃんたちが部屋を出てからしばらく経ちました。早く帰ってきてくれるんじゃなかったの? さっき会ったばかりのロバートさんとふたりきりって気まずいんだけれど……。


「ふーん?」


 ロバートさんがじろじろと私のことを見てくる。一体何なのさ?


「私に何か?」


「いや別に? 閣下たちはお前のどこが気に入ったんだろうなと思って」


 ふぅ、やれやれとため息を吐かれて言われたよ。いや本当におじいちゃんたちがいた時のいかにも後輩、部下っぽい表情と言動はどうしたのさ?!


「何か、さっきおじいちゃんたちがいた時と態度が違いすぎませんかっ?」


「ん? 当たり前だろ? 尊敬している上司たちとその他の奴では対応が違うのは当たり前だ。お前は押し付けられたただのお荷物の子供だ。それなりの対応をするまでだ」


 うわっ! ロバートさんって裏表ある人だ。みんなあるとは思うけれど、少しは取り繕ってくれてもいいんじゃないかな? この人と一緒に留守番なんて大丈夫かな?


「ブルル?」


「ライリー? わあっ!」


 ライリーが急に目を細めて顔を近づけてきた。そうだった! ライリーも一緒にお留守番だったね! 


「ライリー、お前……」


 ? ロバートさんが信じられないという表情でライリーを見る。どうしたんだろう? ライリーはまだ私に顔を擦り寄せている最中だよ。懐かれたと思っていいのかな? 私、特に何もしていないはずだけれど……。


「閣下の愛馬であり相棒のお前がどうして……」


 ? ライリーが私に懐いている? のが信じられないのかな? 私も信じられないけれど。とりあえず、ライリーを撫でてみようかな? 馬を撫でたことはないけれど、テレビで見たように触れればいいのかな?


「ライリー、ちょっと撫でさせてもらうね?」


 ライリーに一声かけて撫でさせてもらう。ええっと、確か首元らへんを撫でたり、ポンポンとタッチをする感じだったかな? ちょうど顔を近づけてくれているタイミングなのでやってみよう。


「よっと……。うわぁ、思った以上にしっかりしているね! 言うのが遅くなっちゃったけれど、ここまで私を乗せてくれてありがとう!」


 感謝の気持ちを込めて撫でさせてもらう。お礼を言うのが遅れてごめんね?


「ブルルル」


「わっ! くすぐったい!」


 馬も舐めることがあるのか! 初めて知ったよ! いや〜、何かこの短時間でライリーとはかなり仲良くなれた気がするね。ライリーとは!


 ちらっとロバートさんがいる方を見てみる。


「……」


 ジー。


「うわっ!」


 目が合っちゃった! っていうか、ずっとこっちを見ていたの?! 何かジト目で見てくるんだけれど!


「目が合っただけなのに失礼だな」


「あ……。それはごめんなさい、驚いちゃって!」


 確かに目が合っただけなのに、うわって声を出しちゃったのは申し訳ないかも。だって驚いたんだもん! まさか目が合うとは思わなかったんだよ!


「ライリーとも随分と楽しそうだな?」


「え? うん、楽しいよ。初めて馬に乗らせてもらったし、撫でさせてもらったし」


 ライリーには初めての経験をたくさんさせてもらったなぁ。感謝を込めて首回りをまた撫でる。


「ブルルル♪」


 ライリーも喜んでいるみたい! よかった!


「……おい」


 ライリーと再び触れ合っていたら、ロバートさんに話しかけられた。


「何ですか〜?」


 返事はするけれど手はライリーを撫で続け、視線もライリーと合っている。うん、可愛いね!


「お前……。ここにはライリーだけじゃなくて俺も一緒にいることを忘れていないか?」


「忘れていませんよ〜?」


 嘘です。ライリーと触れ合っていたら軽く忘れていました。


「なら何で俺には話しかけないんだ?」


「話すことがないからです」


「……」


「……」


 き、気まずい。正直に答えすぎちゃったかな? でも、本当に話すことなんてなさそうだし! 私のこと押し付けられたただのお荷物の子供だってロバートさんが自分で言っていたし! 無理に話をする必要なんてないでしょう?


「ちっ」


 え? 今舌打ちしたの? この人も騎士のひとりじゃなかったっけ? 騎士が舌打ちしてはいけないってないとは思うけれど、イメージが……。


「本っ当に可愛くないな!」


 はあ?


「ライリーはかっこよくて可愛いでしょう?!」


 ロバートさんって目が節穴なの?


「ライリーじゃないっ! お前だ!」


「え、私? ならいいや。てっきりライリーのことを言っているって思っちゃった」


「お前のことだぞ? 可愛くないって言われてもいいのか?」


 いいのかって。可愛くないと言っている本人が聞くの?


「別に? 可愛いと思うのは人それぞれだし。ロバートさんに思われなくても問題はないよ?」


「――可愛くない」


「そうですか」


 問題はないけれど、いちいち言われるのはむかついちゃうな。そういうのは心の中で言ってよね!


 ……文代ちゃんに会いたいな。文代ちゃんは私のことを可愛いって言ってくれるもん! ロバートさんと違ってね!





 いつになったらおじいちゃんたちは戻ってくるの? 仲良くなったライリーがいてくれるとはいえ、そろそろ泣くよ? いいの?

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