第39話 毒親

 10分ほど、シンシアとサラさんは、なみだを流し続けていた。

 でも今は、二人とも、何とかきを取り戻している。


「あ、あの……」


 シンシアが、口を開けた。


「どうした?」

「そ、その……最後に、今のお母さんと、もう一度いちど話をしたいと思って……」

「…………」


 僕は、前方ぜんぽうを見つめる。


「ちょうど、その母親が姿をあらわしたぞ」

「え……?」


 シンシアは、うしろをいた。

 そこには、金髪きんぱつに、黒色のドレス調ちょうの服をた、シンシアの母親モドキがいた。

 機嫌きげんいのか、口元にはみを浮かべている。


「――シンシア。友情ごっこは、もうおしまいよ」


 余裕よゆうたもった表情で、そう言っているが、その毅然きぜんとした態度たいども、いつまでつものか。

 まだ彼女は、分かっていないのだ。

 自分がこれから、どうなるか……。


 シンシアが、言葉をはっする。


「お母さん……いタイミングで、会えたよ」

「良いタイミング……?」


 首をななめにする、毒親どくおや


「うん。お母さんと、わかれの挨拶あいさつをしようと思っていたところだから」

「私と、別れの挨拶……? 何をわけの分からないことを言っているのかしら。あなたは今から、そのくだらない友人ゆうじんとさよならをして、魔法をきわめる道へもどるのよ。まったく、うちのむすめは頭がおかしくなったのか……」

「……大丈夫だよ。私は、

「――な、何と言ったのかしら……?」


 普段は、大人おとなしい娘からのまさかの一言ひとことにより、面食めんくらった様子でいる毒親。

 さっきまでの機嫌のさは、すっかり消えていた。

 プライドの高い毒親は、シンシアにたいして反論はんろんを口にする。


「私のどこが、頭がおかしいと言っているのかしら? シンシアは知らないかもしれないけど、私のやっていることはすべて、シンシアを思っての行動だからね。そのありがたさを、いい加減かげん分かりなさい」

「……まず具体的ぐたいてきに、お母さんのどこが頭がおかしいのかという話から始めるけど。お母さんは、私の魔法の実力を、自分のブランドか何かだと勘違かんちがいしているよね?」

「それは……」

「しかも、私のあやつる魔法のうでを、自分の優秀な指導しどうプログラムによりされているものと解釈かいしゃくしているみたいだけれど、ああいう外野がいやから野次やじばすだけのみ教育は、だれにでも出来できると思うよ。そういうところを盛大せいだいに勘違いしているてんが、まず一つ目の、お母さんの頭がおかしなところ」

「な、生意気なまいきな娘ね……!」

「まだあるよ。お母さんは、娘には極端きょくたんきびしいのに、自分にはくほどあまいよね。私には休み一つ与えず、魔法の鍛錬たんれんを続けさせるのに、とうのお母さんは、な異性と交遊こうゆうを楽しんで、それも王宮おうきゅうから私への支援金しえんきんとしてわたされていた金銭を使って、遊んでいるよね。お母さん、無職むしょくだし」

「そ、それは……っ。あなたは、娘の面倒めんどうを見るのがどれだけ大変なことか、分からないでしょう? ストレス発散はっさんも、必要なのよ」

「さっきも言ったけど、娘の面倒を見るって、私の扱う魔法にケチをつけてるだけだよね。大変とは、思えないけど」

「け、ケチとか言っているけどね……っ。これは、れっきとした教育なんだから……!」

「王宮から支給しきゅうされたおかね不正ふせいに扱う人の教育は、正しい教育なのかな?」

「う、うるさいわね……っ!」


 毒親は、シンシアの言葉に対して、まともな言い返しができない様子だった。

 シンシアは、さらに続ける。


「あと、自分の子供をてた過去があるという、最低な真実を耳にれたけど……そんな行動をとる人は、あきらかに頭がおかしいと、私は思うよ」

「し、シンシア……っ! その情報を、どこで――!」


 毒親は、あわてた形相ぎょうそうとなった。


「……その反応はんのう、本当だったんだね」


 そしてシンシアは、心底しんそこ絶望した顔つきとなる。


「――っ!」


 毒親は、うすっぺらい演説えんぜつを始めた。


「し、仕方しかたがなかったのよ……っ! だって、あれは……っ! あれは、私たちののぞんでいた子じゃなかった……っ! あれを育てていることが仮に周囲からバレてしまったら、はじになるわ……っ! わらいものになってしまう……っ! だから、捨てたのよ……っ! あの、ていステータスの子を……っ!」

「……お母さんは、子供を数値すうちでしか見ていないの?」

「そ、それの何が悪いって言うのよっ! 子供が優秀じゃなかったら、私たちがへんな目で見られるのっ! 私たちはあくまで、メリットとデメリットの観点かんてんから、物事ものごとの判断をしただけにぎないっ! それの、何が悪いわけっ!」

「……メリットデメリット。それは、自分たちの?」

「わざわざ答えなくても、そうに決まっているじゃないっ!」

「……さっきは、シンシアのことを思って行動しているとか、そのありがたさが分かっているかとか、色々いろいろ放題ほうだいに言っていたけど、やっぱりあの発言はつげんは、うそだったんだね。自分たちの利害りがいを考えて、子供を捨てたお母さん」

「ちょ、調子ちょうしに乗らないで……っ! シンシア……っ!」

「調子に乗り続けていたのは、お母さんのほうだよね。そのけが、今になって、回ってきてるだけだよ」

「な、何よ……っ! あなたは、もっと素直すなおだったはずなのに……っ!」


 その言葉を聞いたシンシアは、みを浮かべた。


「私は、素直だよ。いつもより、何倍も」

「……っ! と、とにかくねっ! もう、帰るわよっ! どのみち、私はあなたのお母さんなんだから、いくら駄々だだをこねたところで、絶対に逃げられないのよっ! あなたは、ずっと魔法だけをきわめておけば、それでいのよっ!」

「…………」


 夜風よかぜく。

 シンシアは、ついにそのことを、母親に教えた。


「――お母さん」

「つ、次は何……? もう、ここをはなれるわよ……っ!」

「お母さんは、近いうちに刑罰けいばつくだされるみたいだよ」

「……………………は?」


 シンシアの母親モドキは、驚愕きょうがくの表情をあらわにしていた。

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