第9話 ダンジョン攻略オリエンテーション


「自己紹介は終わったな。では今からダンジョンに入ってもらう。十五分後、グランドのバス停に集合しろ。あくまでオリエンテーション程度なのでダンジョン専用装備に着替える必要はないが、着替えたいと思うものは手早く済ませるように」


 自己紹介が終わり、先生がちょっとした抱負や話をして解散するのが普通の入学式だが、ここでは違うようですぐにダンジョン攻略のオリエンテーションを行うようだ。

 さすがダンジョン攻略者養成機関といったところか。

 入学初日からダンジョン攻略者育成に対する情熱がひしひしと伝わってくる。


「さっきはなんで誤魔化したんだ?」


「そりゃお前、レベル1が大半なのに「私のレベルは350です」なんてやったらフリーザ様とムーブが同じだろ。初っ端からクラスメイトを絶望させてどうするんだよ」


「確かにフリーザ様はまずいな。だけど実力があんのに周りからは認識されないってのがもやるんだよな」


「なんでお前のモヤるの回避するために俺がクラスメイトと諍いの種をばら撒かなきゃいけないんだよ。言っとくけどお前の価値、クラスメイトの中で一番下だからな」


「マジかよ……」


 ザキが絶望した顔をすると、武田がやってきた。

 そろそろ出発か。


 ────


 学園内にあるダンジョンには五分ほどで到着した。

 ダンジョンは小山の上にあったのでバス移動で助かった。

 歩きだったら上がるだけで息が上がっているところだっただろう。

 バス停があるので常日頃からバス移動ができることに期待したい。


「今回のオリエンテーションでは上級生とともにパーティーを組んでもらう。パーティーが組めたものからダンジョンの中に入り、二層に繋がる階段にたどり着いたら地上に戻ってこい」


 武田が指示を出すとその場にいた上級生たちが、下級生の所属クラスと名前を呼んでパーティメンバーを集め始めた。


「C組の天野くん」


 鈴のような声に呼ばれたのでバビロンとともに上級生の元に行くと、先日あったシャムにゃんことシラメさんと、髪を緩くウェーブさせたおっとりとした女生徒、服を着崩したチャラい男子生徒、クラスメイトの安藤が居た。


「先日ぶりね」


「前はどうも」


 軽く挨拶を交わすとシラメさんは再び下級生の名前を呼び始める。

 クールだな。

 やはりにわかにシャムにゃんと同じ人物とは思えん。


「ふん、ダンジョンは危険だから先走らないでよね」


「了解」「わ、わかったよ」


 最後の一人に同じクラスの稲葉が呼ばれて集合してくると、ダンジョン経験者らしい稲葉が早速安藤を見ながら、俺と安藤に注意を飛ばす。

 言い方きついな、こいつ。

 安藤が圧で涙目だよ。


「集まったね。じゃあ自己紹介からしようか。こっちは役割を言うけど、一年の子は役割とかわからないと思うからスキル言ってね。じゃあ、私から。私は猫屋敷白夢。役割はスカウト」


「ウチは久留米都。役割はヒーラー」


「俺は小林蓮。役割は遠距離アタッカー」


 自己紹介の段になり、俺たちにお鉢が回ってくる。

 呼ばれた順で安藤から自己紹介しようとすると、稲葉が手で制して一歩前に出てきた。

 どうやら先に自己紹介したいらしい。

 自己紹介なんてわざと止めてまで先にすることじゃないと思うが。

 先が思いやられてきたな。


「マスターの不快指数がマックスに到達しました。ジャッジメントモードに移行。原因となる対象──稲葉五月にペナルティを課します」


 俺がどんよりしてくると、静観を決めていたはずのバビロンが急に動き出し始めた。


「な、何よ!? あ、天野文句あるの!?」


「え!? い、いや俺は──」


「対象の通信媒体にアクセス。検索履歴網羅。『ド変態お嬢様をねっとり言葉責めドS執事のヤンデレ調教』を再生します」


「あ!! それはだめ!!」


 まずい!

 もう検索履歴とタイトルから察してしまった。

 それをこんな大勢の前で再生しようなど。

 性癖強制開示など思春期の高校生にとって死よりキツい拷問だ。


「ス、スト──」


『お嬢様またセバスチャンに色目を使ってましたね。このメスネコ!!──以下略』


 俺の静止の声は届かず、大音量でドS執事の声がバビロンから再生され始めた。


「なんだこの声?」「さっき天野君のロボットが稲葉さんにペナルティとかなんとか」「え? あれって稲葉さんのあれ?」「天野なんて恐ろしい男なんだ」


 瞬く間に稲葉の性癖が広がる声とともに俺を恐れる声があがっていく。

 ひどい状況だ。


「う、天野覚えてなさいよ……!!」


 稲葉が涙を流しながら、怨嗟を放つ。

 ヒ、ヒェ……。



  ────


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