第35話 パーティーで紳士でない者は罰を受ける
「このような醜い火傷を持った者が俺と婚姻を結ぶだと? 笑わせるな!」
ルドルフは自尊心を保つためにリリシアの火傷を衆人に晒して、あくまで相手に問題があったから、婚姻の話はなくなったんだとアピールする。
その様子を見て、周囲の貴族達はルドルフやリリシアに奇異の目を向ける。
「危うく騙される所だった。やはり王国のような野蛮な――」
「ルドルフ! 何をしている!」
ルドルフが衆人に自分の意見を理解させるため主張していると、騒ぎを聞きつけたヨシムが向かってきた。
「何を? 父上もこの酷い火傷を見て下さい!」
「ルドルフよ。余にはお前が何を言っているのか理解できん」
「父上こそ何を言ってるのですか! この汚い背中を⋯⋯何だと!」
この時ルドルフは、初めてリリシアの背中に視線を向けた。するとそこには、雪のように真っ白な背中があった。
「ど、どういうことだ! 話が違うではないか!」
ルドルフは信じられないと言った表情で、狼狽え始める。
「それはこちらの台詞だ! 火傷だとか訳のわからんことを」
「いや、これは⋯⋯メイド達が⋯⋯」
「メイド達が何の関係があるのかわからないが、このような公の場で隣国の王女に無礼を働いたのだ。その意味⋯⋯わかっているだろうな?」
「くっ! 何故俺がこのような扱いを⋯⋯メイド達め、ぶち殺してやる」
ルドルフは皇帝陛下の叱責を受けてもまるで反省している様子はなく、むしろ憎悪の念がさらに強くなったように見えた。
「皇帝陛下、ルドルフ皇子」
リリシアが真剣な表情で二人に問いかける。
「女性を無理やりダンスに連れ出し、罵りながらストールを奪い取るのが帝国の流儀なのですか?」
「リリシア王女⋯⋯息子の不始末、帝国の皇帝として謝罪させていただく。ルドルフ! 貴様も頭を下げんか!」
「も、申し訳ありません⋯⋯でした」
皇帝陛下が無理やりルドルフの頭を押さえつけた。
ルドルフは一応謝罪の言葉を口にするが、誰が見ても反省していないのがわかる。
「王国と帝国は手を取り、これから共に発展していくことを目指しています。ただ一人の行動で壊されていいはずがありません。その謝罪受け入れます。ですが先程の言動を聞く限りでは、ルドルフ皇子はメイド達を処分されようとしています。その責任がメイド達に行かぬようお願い致します」
「おお⋯⋯その寛大な心、感謝致しますぞ。メイド達の身の安全も、余の名の元で保護することを約束しよう」
リリシアがルドルフの愚行を許すことで、この場は収まりを見せる。だがこれで全てが終わった訳ではない。
例えリリシアが許した所で、帝国は今日の件を指摘されれば、今後の外交面でかなり不利になることだろう。それに何より、これでルドルフの立場は相当悪くなったはずだ。
「ルドルフ、貴様には失望したぞ。沙汰が下るまで謹慎するがよい」
「⋯⋯⋯⋯」
ルドルフは無言でこの場を立ち去っていく。だがその表情はゆがんでおり、この結果に納得していないことがわかる。
「ルドルフ皇子は何をしたかったのでしょうか」
「帝国の品位を下げたことは間違いない」
「これで後継者争いからは脱落ですな」
去り行くルドルフに対して、貴族達からヒソヒソと声が上がる。
プライドの高いルドルフだ。今回の出来事は相当屈辱だったはずだ。俺も少しは溜飲が下がった。
「皇帝陛下、それではパーティーを再開致しましょう。せっかく素晴らしいパーティーを開いていただいたので、私も楽しみたいですわ」
「承知した。ではパーティーを再開せよ」
ルドルフの愚行によって会場はざわついていたが、皇帝陛下の言葉によって、何事もなかったかのようにパーティーは再開した。
それにしても上手くいったな。
狙ってやったとはいえ、想定以上の結末に俺は満足している。
パーティーでルドルフがリリシアの火傷を貶すことは予想出来たので、それを逆手に取らせてもらった。
そのため、パーティーが始まる前にリリシアの部屋を訪ね、俺はあることを行ったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます