第17話


現在、十五ループ目。


正気を保っていられるのが凄いくらいな数、


”同じ日”を繰り返した。


繰り返し、繰り返す。


その、ループの中でいくつかわかったことがある。


まず、彼が”精神的苦痛”を感じたら再開始リスタートするということ。


詰まるところ、彼がいじめられたら即終了ということだ。


そして、彼らに”僕”の存在は認識されていないということ。


僕がどんなに不可思議な行動をしても、


彼らは”気にしない”。


気にする気もないのだろうか。


「この後は…、先回りして理科室行って、落書き消して___」


うん、段々効率化できてきた。


まあこういう系のゲームは得意だったからいいんだけど…


「____え、どうして…」


「えっと…、その」


理科室には、授業を抜けたであろう”彼”が、


自身の座る席へ座っていた。


「な、なんで君が…」


「貴方、ですよね。バケツとか、どけてくれたの。」


「君、気付いてるの…?」


「うっすら、とですかね。はっきりとは…」


前言撤回。


”彼”も気付いていないと思っていたけど、


彼だけは気付いているみたい。


「その…、ありがとうございます」


「いや、全然いいよ。僕はこのループから出たいだけだし…」


「でも、もう大丈夫です。僕は、別に気にしてないし…」


俯き、顔の見えない状態で寂しげに呟く彼。


どうしてか、見覚えがある。


「ダメだよ、見過ごせないよ___」


「いいんです、いじめの原因が何か分かっているんですよ」


「原因なんて、ないよ…」


いじめの原因なんて、たいていくだらないものだ。


気にいらないとか、鼻につくだとか…


そんな原因、どうせ後付けのものだよ、と説明した。


「違うんです、違うんですよ…」


僕が、気持ちの悪いものだから、と彼は苦笑した。


「気持ち悪いもの…?」


「それは…」


「いや、言わなくていいよ。言いたくないんでしょ?」


「よくお分かりですね、どこかで会ったことあります?」


「あはは、あるかもね。」


そう、どこかで会ったことあるような…なんて。


彼は、少し微笑んで。


「ループしてる原因は…、刻戻。最近噂になってるんです」


「刻戻…、ループしてる原因」


「自分が未練があると思っている時間に巻き戻るんです」


未練。


じゃあ、このループは、誰の未練なのだろうか。


「未練ねえ…」


「あ、チャイムが鳴りそう…。では、この辺りで」


「ああ、うん。またね」


***


黒い髪に、青い瞳。


伊達メガネに、伸ばした髪の毛。


いかにも陰キャって感じの見た目。


そうだ、”俺は”


あんな場所に、未練があるわけがない。


どうしても、身体や心が思うようにならない。


どうしてだろう、なんでだ?


これも、刻戻のせいなのか?


「ああ、思い出した」


「俺が未練がましく思っていたのは____」


***


「おい、女」


「なんじゃ、猫」


「そろそろ覚ましてやれや、ソイツ」


「なんじゃ、猫。主以外の人間に興味があるのか」


「コイツは主じゃねーし興味もねー。だがな」


ソイツはコイツの友達なんだよ___、と俺。


「ほお、これはこれは。失敬失敬。」


じゃが、コイツも儂の友達じゃよ___、と刻戻。


だが、俺はその意見を断固拒否した。


「別ににゃあ、俺は友達なんかいねー。つくりたくもねえ。」


「だが、そんな俺でも言えるぜ。」


「友達っつーのを、そんなに唸らせて、」


「眠らせて、乱雑に扱う奴は___」




「少なくとも、友達じゃあねーだろ?」




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