第10話 漂流郵便局

 伝えたい思いがあるのに、その相手に届かない。

 もう、手の届かない処へ逝ってしまった相手へ、届けたい想いがある……。


 そんな、時間と場所を超えて手紙が届けられる郵便局があるという。



 ────漂流郵便局



 元は、瀬戸内国際芸術祭に向けて創られたアート作品のひとつであった。

 その後も、この場所はコンセプトを踏襲した状態で『営業』を続けている。


 『郵便局留め』で送られた葉書は、

 『局員』の手により、展示室内の『私書箱』に納められていく。


 訪れた者が、それを手に取り自分に宛てられたものだと感じたなら、それが出会いだ。希望すれば、その手紙を『受け取る』こともできるという。


 さ迷いあてどのない心の置き所、流れ着く場所……。

 アートとして、真理にかなり近いものすら感じるこの場所。



 この郵便局は、以前は実際に稼働していた本物の郵便局の跡地であるという。

 『郵便局長』さんも、実際に郵便局員として働いていた方らしい。


 地方の呼び物として、という見方は少々無粋かもしれないが……。

 金だけ掛けて、意味不明な物体を設置する『自称』アート作品も地方には多い中で、これは真に芸術的で美しい、至高の作品だと思う。


 流行りに乗ったものではなく、未来に於いてもこれはアートであり続けることが目に映るようであり、とても素晴らしい。


 公開空地とはこうあるべきという、ひとつの完成形を見た気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

公開空地 天川 @amakawa808

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ