魔法が出来ない

 みんなが試合をした後、一部を除いた数人は、各々輪を作って地べたに座っていた。


 リタとビンは1ON1をしているし、ジェフはエレナにドリブルの基礎を教えてもらっていた。


 ちなみにジェフからエレナに声をかけていた。どうやら彼には恋に積極的な一面があるようだ。


 雄大たちは少し離れた場所に居るので、状況はよく分からないが、度々「エレナさん好き!」というジェフの声が、辺りに響き渡っていた。




 【雄大、小松、ライアン、ディエゴ、スムル、タクノ、バヤハ】の輪──


「しかし、スムルがあんなにバスケが下手だとは思わなかったよ」と雄大。


「だな。だいぶ出来る雰囲気を出してたのによ」


 ライアンが大きく1回手を叩いて笑う。


「上手そうだったから予想外ですよね」


 小松は悪気ない素直な感想を述べた。


 ディエゴは言葉は発しないものの、スムルの方を見て、ニコニコと優しい笑顔を浮かべている。


 スムルは三角座りの状態で顔を膝にうずめて、「言ってくれるな……気にしてるんだぜ……」と凹んだ。


「うちのリーダーは、なにかと不器用なんだよな」


 バヤハが口を開く。


「そうそう。貴族の出なのに、魔法も使えないしよ」

 

 タクノがそう言葉を漏らすと、スムルは即座に顔を上げて「それ言うなよ!」と、強めに突っ込んだ。彼は恥ずかしそうに顔を赤らめている。


「貴族だと魔法が上手いとかあるんですか?」


 小松がタクノに尋ねた。


「う〜ん、もっと根本的な事かな。庶民に比べて貴族は、体内に含まれている魔力量が大きいんだよ」


「その考えでいくとスムルさ…スムルの魔力量も、実はとてつもないのでは?」


「おれもそうだと思っているんだが、何せスムルは不器用だからな。上手く魔法が出せなくて……」


 スムルは、そっぽを向いてふてくされている。



 「おい、スムルの名誉のために言っておくが、キマイラで1番強いのはスムルだからな」


 バヤハが小松に言った。


 タクノも続く。


「ああ、どんな魔法使いや戦士にも負けない強さがある。だからこいつはオレらのリーダーなんだよ」


 それを聞いていたスムルが「そうだぞ颯人! オレが1番強ええんだ!」と、急に息を吹き返す。


(この人はめちゃくちゃ単純だ……)


 雄大には、スムルという男が初対面のときに比べて可愛く映っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る